⚠︎練習作品 「才を求める魔法使いの話」

Gatling_1010/

第1話

ep1


才能を求めた魔法使いがいた。

彼女は誰よりも努力した。自身には無い才能を、努力で補った。数百年の年月をかけて。


しかし、誰かの数百年を、誰かは一瞬で飛び越えていく。素晴らしくも残酷なことだが、この広い世界には、そんなことがたまにある。


ここに、一人の魔法使いがいる。一つに束ねられた長い金髪が、休まずに走っている筆に合わせて波打っている。


「ふぅ」


魔法使いは一息ついた。それと同時に筆が止まる。彼女はさっきようやく描き終えた羊皮紙を広げ、微笑を浮かべた。


(やっとできたのだわ)


心臓の鼓動が早まるのを感じた。とうの昔に不老を得た彼女は、その感覚を久しぶりに味わった。魔法使いは片手に顎をのせる。


(これを元に、式を組み上げて体に刻む。そうすれば、やっとこの苦悩から解放される)


悲願の達成。それが目前に迫っている。それを再認識し、魔法使いは席を立った。


カーテンを開けると、ちょうど朝日が顔を出し始めていた。朝と夜の中間、彼女が思うに最も幻想的な色が見れる時間。


どうやら作業で夜を明かしてしまったらしい。彼女はそれでもよかった。今はとても気分が良かったから。


好きな色に、長い時間手がけ、たった今完成した魔法式。スキップでもしたいような気分を抑えて、彼女は外へ出た。


夜明けの少しひんやりとした空気が、彼女を包む。彼女が指を一振りすると、どこからかローブが飛んできて、彼女の肩にかかった。


「いい日だわ。今日は本当に、いい日なのだわ。」


太陽のように笑うという言葉が、今この時のためにあるかのような笑顔を浮かべる。ローブの袖に手を通し、首元を正す。


幻想的な景色に満足し、家に入ろうとした時、魔法使いはふと遠い空を見た。


何かが飛んでくる。白い羽を羽ばたかせ、

こちらを目掛けて。それを認識した彼女は焦ることなく指を振った。


近くにあった若木が光り、少し歪な形で枝を伸ばす。普通の鳥には不似合いな大きさの止まり木が出来上がった。


少し待つと、白い鳥はそこに止まる。よく見るとその首元には鞄が付いていた。


「お届け物?」


鳥の顔を撫でてやり、首元の鞄を開く。中にはたくさんの手紙が入っていた。指を振ると、手紙が一枚一枚中に浮く。全て彼女に向けられたものだった。


ざっと目を通し、その中から自分の知り合いの名前が入った物を除き、全てを鳥の鞄の中に入れた。白い鳥は不服そうな顔をした。


「ごめんなさいね。あなたの仕事が気に入らないんじゃないのよ。ただ、私がもらうべきではないものだったから。」


そう言って鳥を撫でてやる。そうするとしかたないなという顔で羽を広げた。


「さぁ、おいき。ありがとうね。」


鳥は白い大きな翼をさらに広げる。その羽が揺れるほどの風が流れるのを待って、一気に飛び出して行った。


「あらあら、相変わらずお仕事熱心なのだわ」


魔法使いの良く梳かれた金髪は、突風のせいでなかなかに崩れていた。



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