71 エンビー1

「あなたがアグル君でしょう?テスリーおばさんに聞いたわ、凄い魔法使いだって」少女がもう一度言った。


テスリーおばさん?確かにテスリーさんに似た青みがかった灰色の瞳と銀髪。中肉中背で目鼻立ちのハッキリとした美人。


「テスリーおばさんから聞いてないかしら?私のこと?弟子のエンビーを頼むって」


「???。弟子のエンビーだって?」


俺は考え込んだ。そういえば、最後に会った時、弟子をよろしくと言われたのを思い出した。

「思い出したよ。……俺がアグルだ。テスリーさんと最後に会った時弟子をよろしくと言われたね。でも名前までは聞いてないよ。はじめまして、エンビー。よろしくね」


「エンビーじゃなくて、エンビーさん、あなたは12歳、私は15歳なんだから(さん)くらいつけなさいよ」


いきなり怒られた。15歳なんて知らないけど初対面の人だし(さん)付けしなかったのは失礼だったかな。


「ごめん……なさい」と俺。


「まあいいわ。これからパーティー組むんだし、エンビーでいいわよ」とエンビーが言った。


いいんだ…………ならおこることないのに。パーティー組む?どういうこと?


「あの、パーティー組むってどういうことですか?」


「あら、よろしくって言われてるんでしょう?冒険者なんだからよろしくって言ったら一緒にパーティー組んで冒険するでしょう?それともこんなところで可憐な少女を1人にする気なの?」


可憐な少女……過激な……の間違いでは?


「……そう言うものですか?」と俺。


「あたりまえでしょう。何にも知らないのね、常識をわきまえなさい」エンビーが言った。


「それにこんなところで1人りぼっちなんて寂しすぎるじゃない、知ってる人いないんだから……」


「1人でいらしたんですか?どちらから?」俺は聞いた。


「そうよ。一人できたの。ソルトビルから馬車でね」とエンビー。

(モジモジし出した。少しカワイイ。)


「ソルトビルから馬車でね……大変、でしたね。盗賊とか出ませんでした?」と俺。


「出たわよ……いやらしいこと言うから凍らせちゃったわ」エンビーは言った。


「凍らせた!魔法でですか?」と俺。


エンビーは、こくりと頷いた。

「あなた、どこに住んでいるの?」とエンビー。


「ギルドのシェアハウスに住んでいます」俺は答えた。


「じゃ、私もそこに住むわ」とエンビー。


「住むと言われましても〜入居可能かどうか?男しか住んでませんし?」俺は顔を顰めながら言った。


「女性も入居できるぜ、空き部屋もある」リザトルがニヤニヤしながら言った。

(余計なことをいわないでほしいよ〜。)


「明日冒険者ギルドに行くわ。ちゃんと手続きの手伝いをしてよね。

今日は、前の宿屋に泊まてるんだけどボロいのよね、それじゃ」

エンビーはそう言うと踵を返してスタスタと店から出て行った。


「オイオイ、今の誰だよ?」アゴンが黙っていた口を開く。


「聞いたとうりだよ。テスリーさんの弟子……だって」と俺。


「いつパーティー組むことになったの?聞いてないよ」とアポン。


「今、初めて聞いた。」と俺。


「お前、知ってるんじゃないのかよ」アゴンが驚く。


「知らないよ。初めて会った」と俺。


「あら〜、押しかけ女房〜」ベガジラがニヤニヤしながら肘でこずく。

周りの男どもも、にやけた顔をして俺を見ている。


「ちち、違いますよ。お世話になった人の弟子みたいです」俺は言った。


「なかなかカワイイ子じゃないか〜」とリザトル。


「かか、関係ないし〜」俺と言った。


「あら〜、カワイイのは認めるのね〜」ベガジラがニヤニヤする。


「俺も応援するぜ〜」とアゴン。


「僕もバックアップしますよ」アポンも言った。


「そう言うのじゃないってば〜」俺は必死で否定した。


「お前、顔が赤くなってるじゃないか〜」リザトルが揶揄う。


「みんながからかうからですよ〜」と俺。


「お前だけ酒飲んでねーのにな〜、顔が赤いよアグル君」とアゴン。


「お姉さんが、どうしたらいいか、いろいろ教えてあげるよ」とベガジラ。


「もう勘弁して下さいよ〜」と俺。


「明日来るって言ってたな。明日はちゃんと面倒見るんだぞ」リザトルが真面目な顔で言った。


「そこはちゃんとやりますけど……」と俺。


「俺も付き合ってやるからよ」アゴンが真剣な顔で俺の肩に手をかける。

「僕も」とアポンも言った。


「ありがたいけど、冷やかしたり、からかったりしないでくれる」と俺。


「勿論だぜ」とアゴン。

「当然だよ」とアポン。


「そうか、ありがとう。でも、本当に何にもないんだから、今あったとこだからね!」俺はキッパリと言った。


「わかってる、わかってる」とアゴン。

「わかってる、わかってる」とアポン。

(なんなんだ、そのノリは。俺であまり遊ばないで欲しい。)


「アポンはああゆう子は、どうなの?」俺の逆襲だ。


「ああ、僕はああいう怖そうな子は苦手だな〜、どちらかと言うと」とアポン。(確かにおばさん譲りの女王様気質とお見受けしますね〜

ツンデレも良いものですぞ〜、、、イヤイヤ、、そういうことじゃなくて。)


「そうだろ〜なんか押しが強かったよね〜、いつのまにかパーティー組むことになっちゃてるし、明日はお世話しなくちゃならないし」俺は頭を抱える。


「相性ピッタリね!」ベガジラが笑った。


「よして下さいよ」と俺。



翌日彼女は偉そうにやってきた。

何か朝からご機嫌斜めだ。

「どうして迎えに来ないのよ!」とエンビー。


「え!そんな約束しましたっけ」と俺。


「前の宿屋に泊まってるって言ったでしょう!気が利かないのね!」とエンビー。


「ギルドの場所も知らないだろうし、迎えに行ってあげよう〜、とか思わないわけ!」


「はあ、気づきませんで」俺はエンビーに謝った。


「まったく、あなた女の子と付き合ったことないんでしょ」とエンビー。

(図星だ。何も言い返せねー急所をついてきやがった。)


(〜ないんでしょう。)と頭の中でこだましている。


「ハ、ハイ、ありません、申し訳ない」と俺。


俺は転生前から女性とお付き合いしたことがなかったのだ。

5000ポイントのダメージを食らった気分だ。


「仕方ないわ、まだ12歳だものね。そうゆうこともこれから覚えていってね。」とエンビーが偉そうに言った。


「ハイ」俺は逆らわない方がいいと本能的に感じていた。


「大丈夫よ、さあ行きましょう」とエンビー。

(仕方がない、大丈夫、)普通のことがとても優しく感じるのはどうしてだろう。


エンビーは、俺を引き連れてギルドの受付へと向かう。

(アゴンとアポンは、こう言う時には、かくれてるのかよー。)

俺はアゴンとアポンを恨めしそうに見るつめた。

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