26 生か死か




2日目の午後、また前方に敵の気配、今度は30人くらいか?またヒッコルトさんに声をかけると馬車を止めた。


「大丈夫だ」


ジャハルの言葉を確かめてロレンツが笑う。


「また、一稼ぎさせてもらうよ」


ヒッコルトに告げると2人は歩き出した。

俺は2人に任せておけば安心だと思っていた。

2人の気配が敵の気配と接すると、またバタバタと倒していく。


今回も楽勝かと思っていると、敵の数が10を割り込んだ時、矢も届かないほど離れていた一つの気配が急接近して味方の気配が1人消えた。


ロレンツかジャハルのどちらかがやられた?


「1人やられたかも」俺は、思わず声を上げた。


1対6の状態だが、大丈夫だろうか?

少しの膠着の後 囲まれていたもう一つの気配が消えた。





(ジャハル目線)



また盗賊の待ち伏せか、

数は30、強そうな奴の気配はないな。

ロレンツの目線に「大丈夫だ」と答える。


さてまた稼がせてもらおうか。

盗賊たちが見えてきた。

歩を緩めることもせず、近づきながら、ロレンツと目配せする。

俺は右、お前は左、口元が笑いでひきつる。ザコばかりだな。


なんと遅い剣速だ、切り放題だなこいつら。

倒した数は10を超えた。


11……12……13……なんだ?

何か強い気配が急接近してくる。


「ロレンツ、何か来るぞ!気をつ」


ロレンツの首が飛ぶのが見えた。





(アグル目線に戻る)


2人ともやられてしまった、あれほど強いと思っていたのに上には上がいるのだ。俺たちはここで死ぬのか?


ワイニクス、ワイシンの2人がバトルホースを馬車から離し騎乗して前に出る。臨戦体制ということだろう。


向こうから盗賊がやって来た。

頭らしいのは、馬に乗っている。子分は4人しかいなかった。

ロレンツとジャハルによって26人も倒されたということらしい。


それほどの猛者を、コイツ1人が倒したのか。終わりだ。

早かったな。ゴーモリンに着く前に、こんな形で人生が終わるのか?


運が良ければ奴隷として売られるかもしれない。

だが無駄に食糧を消費することを考えれば、男は殺される確率の方が圧倒的に高い。イヤ、殺さないほうが物好きというものだ。この世界では。


盗賊は、ワイニクス、ワイシン兄弟のまえで立ち止まり、睨み合いを続けていた。


兄弟の背中がやけに大きく見える。

うっすらと光をまとっているようにも思える。

あの時のアペンおじさんのように。


「フッ」

盗賊のかしらが息を吐いて、馬を返して離れていった、こちらに隙を見せないようにしながら。子分たちもそれに続いた。


気迫負けしたのだ。イヤ、2人の強さが上回っていたのだろうか、とにかく、頭は、ワイニクスワイシン兄弟に勝てないと踏んだのだ。


盗賊たちがいなくなると、馬車はその場を急いで離れた。

死んだ盗賊もロレンツたちもそのままにしたままだ。


こちらが離れたら、また奴らが来て、身包み剥ぐだろう。

それもこちらが逃げるためにきっと必要な時間になるのだ。


悠長にこちらがうだうだしていたら、隙をついて奴らが、また、襲ってくるかもしれない。

そんな際どいバランスの上で、俺達は生きているのだ。この死の身近な世界では。

俺はホット安堵した。

次の日、俺たちは無事ゴーモリンの町に着いた。ロレンツ達の死を教訓にして。

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