18 ブラックベア対アペン叔父さん
お母さんたちは今日も井戸端会議だ。
会議の参加者は日に日に増えているようだった。
川に水を汲みに行くよりもここで汲んだほうが早い処に住んでいる人が
集まっているのだろう。自分のところにも井戸が欲しいという声も上がっている。作ってくれと言われて困っているという。
この井戸を作るのだって、一月もかかっているのだ。
労力だけでもバカにならない。ましてや掘って水が出なかったら目も当てられない。骨折り損のくたびれもうけというやつだ。オマケに面子も丸つぶれ。
ということで、滑車装置を作ってあげるから あとは自分達で掘って下さいということで手を打ったらしい。
アペンおじとアポン、俺が係に任じられた。
滑車装置は重い荷重に耐え水にぬれても腐りづらい木で作る必要がある。(金属で作れればもっと良いのだがそれは無理だった。)
それを踏まえて前回はクーリーの木で作ったわけだが、クーリーの木はもともとそれほど大きくなる木ではないので太さ50センチくらいの木は前回の木以外に心当たりが無かった。
つまり普段のテリトリーよりも深いところで必要な太さのクーリーの木を探すということになる。
どんな獣がいるかわからないのでキッチリした武装で探索、発見したら即時に伐採して持ち帰るという作戦を立てた。
3人は皮の胸当て、腰に片手剣、背中に盾(小) ロープを肩、鋸を持って山の方に歩き出す。
「かっこいいね〜」
「こういうカッコすると冒険者みたいだな」
初めての武装に喜んでいると「そんだけ危ないのが出るかもしれないということだ。気を引き締めて行くぞ」とアペンおじさん。
2時間くらい探しまわって条件に合う木を見つけた。
いつもより重い武装でも最近走っていたおかげで2時間くらいの山歩きはなんともない。さっそく伐採にかかる。
「何かくる!気をつけろ!」
アペンおじさんが鋸を捨て 盾を持ち剣を抜いた。
俺たちもそれにならって荷物は捨てて盾と剣を構えた。
「向こうから近づいてきてる」
俺には気配が感じられなかったが、そのうち微かにわかるようになった。
気配を殺して近づいてくるとはこんな感じか?
アペンは向きを変えながら見えない敵と対峙している。
俺とアポンはその後ろ、三角形に陣形を敷く。
アペンの前に敵が姿をあらわした。
2メートルくらいのブラックベアだった。
ジワリと汗が流れる。
「やつをにらめ、気魄をぶつけろ」
アペンは盾を前に剣を振り下ろせるように構えた。
俺たちもそれに倣う。
1秒がこれほど長く感じるのは初めてだ。
2本の足で立ち上がったブラックベアは俺たちの気魄に押されることもなくジリジリと両腕をあげて近づいてくる。
アペンおじの体がオーラを纏うように少し光っているように感じる。
両者の距離はもうお互いの攻撃がとどきそうだ。
ブラックベアが「グアオー」何度か吠えてこちらを威嚇する。
その時は突然やってきた。
一瞬のうちにブラックベアの右腕が振り下ろされ「ガツン」大きな音がしてアペンの盾で阻まれる。
「おおおー」と言う声とともにアペンの剣がボアの右の脇の下あたりを切り裂いたと思ったら『ボワん』と火がついた。後ずさるブラックベア。
火はすぐに消えたが血は流れ続けている。
ブラックベアはこちらを睨みながらゆっくりと後退りを始めた。
アペンはまた元の構えにもどって殺気を放ち続けている。
距離をとったブラックベアは向きを変えて離れて行った。
しばらく構えを崩さなかったアペンが構えを解いた。
闘いは一瞬で終わっていたのだ。
「もういいだろう」アポンが言った。
ブラックベアの気配が遠くに離れそして感じられなくなったのだろう。
俺にはその気配はとっくにわからなくなっていた。
「これで、あいつは人間をなめてかかることはないだろう。見つけたらあっちが逃げ出すようになる。人間に関わると痛い目を見ると教えてやったからな」
「倒さなくていいの?」
「倒すとなるとこっちだって無傷で済む保証はないからな、三度に一度は大怪我するだろうな、そしたらその後の生活がこまるだろう」
アペンおじさんの顔がやけに凛々しく見える。
「冒険者じゃないからな、ケガは避けるさ」
アペンおじさんがこんなにも強かったとは………改めて見直した。
「さっさと伐採しようか」アペンにうながされ、俺は鋸を拾いなおした。
クーリーの木を手に入れてアペンの家に戻ると俺は聞いた。
「戦った時、何かしてたの?体が光を纏ってたよ。切ったところも火が付いたし」
「気合い入れて、力をだそうとしたからね。本気で戦った?てことかな」
「オーラを纏ったってこと?」
「オーラ、なに?それ」
「身体強化の魔法を使ったとか?」
「イヤ、わからん、特にはしてない」
無意識のうちに何かしたのだと思った。
たぶん身体強化の魔法とかファイヤーの魔法とかを。
身体強化の魔法………身につけたい。
とにかく練習してればそのうち突然できるようになるのがこの世界の魔法だからな……俺はとにかく練習だ…と思うのだった。
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