15 初めてのレベルアップとボア狩り
次の朝、アググのいつもの「行くぞアグル」の声に従って罠のチェックにいくと、今日は運良くボアがかかっていた。やや小さめのボアだ。
「アグル、やってみな」とアググ。
小さいから実地訓練してくれるというわけだ。
何事もやらなければわからないことは、あるものだ。
竿の先の輪を首の掛け、前後から引っ張って動きを制限するのだ。
俺は緊張しながら近づいて、そろりと輪をかける。
ボアは暴れてなかなかうまくいかなかったがついには首に輪がかかる。
「よし、何度もやればもっと手ぎわよくできるようになるさ、最初にしては上出来だ。そしたらその木に縛って引っ張って……」
「良し!とどめさせ、狙いはわかるな」
俺はコクリとうなずいて竹槍を持ってボアに近づく。
「そうれ!」竹槍を首筋あたりに近づけてからいっきにつきたてる。
「それ」もっと深く刺さるように力をこめた。
竹槍の横に開いた穴からボタボタと血が流れ出す。
「フー」俺は竹槍を手放してアググのところまで目を離さずにあとずさった。
「大丈夫だよ、これなら今に出血多量で死ぬから……上出来だぞアグル」
俺は安堵して腰を落とした。あとはボアが息絶えるのを待つだけだ。
ボアは、膝を折りその後うずくまった。
もうすぐ息が絶えるなと思った時、俺は遠巻きにいくつかの気配をかんじた。何かがいる。草がわずかに動く。
アググも気づいているようだ。
「ゆっくりやりを抜いてこい。周りの気配から気を逸らすなよ。」
俺は槍を抜き構えながらアググの元に戻ってくる。
「よし、目を逸らさずにゆっくり下がるぞ」
二人は一歩ずつ警戒を解かずに後ろに離れていった。
気配の正体は俺達との距離を確かめるように姿を現した。
集団で狩りをし大型獣から獲物を横取りすることを得意とするハイーナの群だ。
6匹のハイーナが姿を見せた。ボアに鼻を寄せるものやこちらを睨んでいるものもいる。いずれにしても俺たちの獲物を横取りしに来たのだ。血の匂いを嗅ぎつけて。
「目を離さずゆっくり離れるぞ、攻撃の隙を与えるなよ、背を見せたらかかってくるかもしれない。奴らがボアを食べ出したら、俺が合図する。
そしたら振り返っていっきに走り続けるんだ。
それまでは、少しずつゆっくりはなれるんだぞ。」アググの声は真剣だ。
ハイーナがボアを食べ出した。
それを見ながらまだこちらを見ているハイーナもいる。
ハイーナ達との距離を測りながらアググは言った
「今だ!走れ!」二人は一目散に走る出す。
俺が前、俺を気にしながらアググが後を走る。
しばらく走るとアググが言った。
「もうここまでくれば大丈夫だろう、追ってきてはいないようだ」
「フー、フー、フー」俺は息を荒らして声も出せない。
俺たちはゆっくりと肩を落として家に帰っていく。
「逃げれてよかったな……あれを相手にするとなると無傷というわけにはいかないからな。あれがいるとなるとここらで狩ができなくなるな。
取るたびに横取りにくるぞ。
あいつらに囲まれたらタイガーホスも逃げ出すというからな」
珍しくアググが多弁になっている。
その分俺は黙って聞いていた。
俺たちは集合場所に戻るとこのことを報告した。
「6匹で全部か?」アギンが厳しい顔で確かめた。
「ああ、6匹の群れだったぜ、群れのボスが最後に現れて最初に食うんだよな!奴らの群れのルールとしては……部下はその時周りで待ってるんだろう」
「そうだ、先に現場を制圧するのが部下だからボスが来た時には全部がそろうはずだ」
「食い出してから逃げてきたが6匹だったな」
「6匹の群れと見て間違いなかろう」
「どうする」
「うーん」
「たぶんここらをナワバリにしたんだろうな」
「全部狩り尽くさないと安心して狩ができないぜ」
「あいつら頭が良くて執念深いというぜ。取り逃すと復讐にくるらしい」
「一網打尽にするしかないな」
「どうする」
「奴ら鼻はいいというわけではないから俺たち全員キツめの臭いをつければこちらの人数を間違うだろう。対峙するならこれはやっておいたほうがいいな」
「毒殺か」
「ボアに毒を打っておいてそれを食わせる、頃合いをみはからって、とどめを刺しに行き生き残りをブスり」
「それが一番あんぜんだろうな」
「じゃ、アペン、毒打ち用の竹槍作ってくれ」
「俺とアググは毒薬用の草取りに行くぞ。子供たちは危ないから山林に入るなよ」
「それから、今日の飯はジャガイか何かにするように言っておいてくれ。
狩りができないからな」
親父たちは行動に取り掛かった。
残されたアゴンとアポンは俺に話しかけてきて。
「ハイーナ見たのか?」「うん」
「どんなだった?」「6匹」
「それは知ってるよ」
「こんぐらいが一番デカくて、次がこんくらい、残りの4匹がだいたいこんくらい」俺はざっくりとハイーナの大きさをボディーランゲージで伝えた。
大型犬くらいのが1、中型犬が4、その中間が1というイメージだ。
色は茶色がかった灰色で、オオカミのような獣だが、こちらの言葉ではうまく説明できん。まさかオオカミと言ってもわからないだろうから。
「それで、それで、大きさ以外は?」
「うーんと、口はこんーなで、でかいから噛んできそうで、噛まれたら痛そう?な感じ?かな」
「うーん、よくわからんが、わかった」
(どっちだよ)(いや、今のでわかるんかい)
「明日は、そいつと戦うわけだな!アポンもいくだろ」
「もちろんだよ」「アグルは?」
「行くよ、相手6匹だし、一対一じゃないと不利だろう」
「そうなると〜、今から特訓か?」
「そうだね」「そうなるかな」
「やっぱり竹槍かな?」「そりゃそうだろう」
俺たちは竹槍の練習を始めるのだった。
その練習にはいつもより気合が入っていたせいか、その夜俺のステータスに変化があった。
レベルが3 、HPが15 、 MPは変わらずだった。
いいタイミングでレベルが上がったが、特に今日1日で、体が光ったり力があふれたりみたいなことは無かったように思う。
思うにゲームのようなレベルアップではなく、単に体力が上がってレベル3の強さに達したからそういう表現になっただけで、レベルアップしたから何かが一期に増えたとかいう感じはないようだ。
転生前のゲームの表現を知っていたのでレッドアップという表現で理解しているということなのかもしれない。
レッドアップと言っても大して意味はないな……聞いてないよ〜、力がぐんと増えればいいのに〜!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます