14 実証実験

デイアビュートを見たことによって、この世界の魔術師は、自分のイメージと違うのではないかという思いが湧き上がった。


そもそも魔法で火を飛ばしたりするファイヤーボウルとをかやろうとすと、どんだけレベルアップが必要なのか?


できたとして殺傷能力としてどうなんだろうか?


デイアビュートが左指で炎を出したのは右手に剣を持つために違いない。

かなりゴツイ片手剣をもっていたし、体も鍛えた抜かれていた。

魔物にとどめををさすには魔法だけでは無理なのではないか?


少なくてもデイアビュートレベルの魔法では剣でとどめを刺さなくてはならないだろう。とすれば俺も剣が使える必要がある。


俺はどちらかと言えば(最強賢者で異世界ハーレム)志向だったのだ。

今の生活は(異世界賢者のスローライフ)という感じだ。


筋力が一番大切だと、たとえ賢者でも剣の攻撃力の必要性は大きいとあらためて思うに至った。


俺は筋トレを増やすことにした。


そういう意味ではデイアビュートとの出会いは俺に大きな影響をあたえたといえる。


ここより北西のゴーモリンの町に行って魔物の森の魔物を狩る冒険者になる。これが当面の目標と見ていいだろう。そのために剣と魔法の鍛錬だ。


デイアビュートはこの村に2日ほどとどまって、食糧を補充して旅立ったらしい。


アゴンもアポンもデイアビュートの魔法を見てそれからは何度もその話をした。


「あんな魔法があるんだな」


「ボクもあんな魔法使いになりたい」


「俺は勇者だから魔法はできねー、お前らいいな」


アポンもしつこく魔法の練習をすると宣言した。


「ふふふ、ファイヤーができるようになったら、あの技を再現してあげよう!」」と俺。


「バーカ!ファイヤーができるようになっても、指先にポットつくくらいじゃダメなの」


「そんなすぐできたらみんなやってるよ。また頭打ったでしょ」


「ふふふふふふ!俺はあの技のカラクリを見抜いてるんだぜ、ファイヤー自体の火力はそれほど大きくはなかったんだ」

俺は偉そうに説明を始めた。


「バカがまだ言ってるよ」


「ハイハイ、ファイヤーができるようになったらね。まだできないんだから大き事言わないの」


アゴンにもアポンにも俺は信じてもらえない。


「じゃあ、できるようになったら、実証実験しようよ。約束だぜ、俺が本当に見破ってたかそうでないかは、その時わかるから、フン!」



其の機会は意外と早くやってきた、2日後に俺のファイヤーが発動したのだ。


夜一人でいつものように「ファイヤー」と何度も唱えていると突然指先にポット火がついたのだ。


オヤ、解析ステイタス……MPが1減っていた。


もっと長く火がつくように「ファイヤー」…とずっと念じ続ける。


火は俺の指先で燃え続けた。そして消えた。


MPは0になっていた。


「よし、あいつら俺にひれ伏せ、ハハハハハ、明日は実証実験だ!」




翌日俺は2人に言った。

「ファイヤーできるようになったんだよ〜、昨日の晩」


「スゴイな、頭打ってよかったな」


「いいな〜 ボクも早くできるようになりたいな〜」


「で、でっかい炎出せるのかよ」


「まだやってなけど、まっかせっなさいー」


「あれは、口に酒を含んで、ファイヤーの火に吹きつけたんだよ、俺あの後、美味しそうだけどなんなんですか?って聞いたんだ。ボッカという強い酒だと言ってた」


「ふーん、酒は燃えるんかい」


「燃えるんだよ」


「本当にあんな風になるかねえ?」


「まあ、一理あるかな」


「で、酒を用意できないかな」

俺はアゴンとアポンの顔を見た。


「ムリ、父ちゃんの酒、取ってきたら殺されちゃう」


「ぼくんちもムリだよ」


「じゃ〜俺がなんとかするしかないか〜」

アグル自ら酒を調達するしかないようだ。


「準備ができたらよんでくれ」


「一緒に行こうよ〜、そこ俺だけでやるの〜」


「しょうがねーやつだな、おまえん家でいいんだよな。俺ん家の酒チョロしたら俺が殺されるから」


「そこはしょうがないから俺ん家でいいよ」


三人は俺の家に向かった。


「よし、母ちゃんたち井戸端会議中だ。取ってこい」


俺はそっと台所の酒の瓶から、口にいっぱいに酒をためこんで出てきた。


「よし、行こう」実験のできそうなところまで口を押さえながら移動。

発声なしで「ファイヤ〜」と念じる。


無詠唱魔法でも指先に火がついた。発声はあまり関係なかったみたいだ。

後になって思えば無詠唱魔法ができなければこの時点で失敗だった。


俺は酒を霧状になるようにブハーーっと指先に向けて吹きつけた。    


 大きな炎が…………出なかった…………

ゆびさきの炎は酒に吹き消されて消えていた。


「あっははは、こんな事だろうと思ったぜ〜」


「やっぱりね〜、もしかしたらアグルって、天才かもって思った僕がバカだったよ」


「…………」俺は言葉も出なかった。

アルコールの濃度が問題なのか?種火の火力が問題か?

いずれにせよ俺は二人に大笑いされるのを黙って耐えるしかなかった。


その晩、アググはメルリにこっぴどく叱られた。


「父ちゃん最近飲みすぎだよ、まったくもう!」


「あれ、そんなに飲んでないはずなんだけどな……」


「父ちゃんごめんね!」と心の中で謝るアグルだった。

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