10 井戸を掘ろうよ

女達はため息をついた。

アギンの妻リエル、アググの妻メルリ、アペンの妻イムラだ。

水くみがたいへんだ……と嘆いている。

大きなカメを頭に乗せて1日に何度も何度も川まで往復して水を汲んでくるのは確かに重労働だ。


「なんとかならんもんかねえ〜」


「最近さ、父ちゃん達の帰りが早くなってるんだからさ、手伝ってもらおうよ」


「狩りの前に集まってる時、相談しようよ」


「みんなで言った方が意見が通るから今日みんなでいこう」

…ということで、母ちゃん軍団がオトン軍団に直談判。


「そいつは女の仕事だろ〜」


「良いじゃないの、最近狩りが早く終わって楽してるんだから〜」

もめる親達に俺は思わず聞いてしまった。


「此処って、井戸掘っても水出ないの。深く穴を掘るとたいていの場所は水が湧くというでしょう」


「そうなのか?」みんなが一斉にアグルを見た。


「がははは、そんなわけないだろ、おまえ頭でもぶったか、ああぶったけなあ」


「あっははは、バカなこと言う子だよ!」


「土の下に水があるだって」

みんなは変なことを言い出した俺を指差して腹を抱えて笑い出した。


「本当だよ。わしは、井戸というのを見たことがある」

笑いを止めたのはメアリ婆の一言だった。


「アグル、よくそんなこと知ってたね」


「聞いたんだよ、誰に聞いたかは忘れたけど」俺は前世の知識だという事を誤魔化した。


「運ぶ時間がなくなれば、母ちゃんたちも楽になるよ」


「それはいい。掘ろう、井戸」


「そんなに深い穴掘って、水をどうやって汲むんだい?」

俺はツルベ井戸の仕組みを説明した。

じつは見たこともないので想像混じりだが、滑車とロープをつけた桶を使って水をくむという仕組みだ。


「なるほど、じゃ、狩りと飯の間にオレ(アギン)とアググは、穴掘り、アペンは、滑車と桶を作ってくれ」

話はまとまり、井戸作りが始まった。


「滑車と桶の材料として、まず木を取りに行かないとな。滑車の材料はかなり硬い木を選んだ方がいいだろう。

それとな、穴に落ちないように周りに壁をつけた方が良いと思う。

それと滑車をつけたり、深く掘った時に穴の出入り用のツナを吊るすためのハリとそれを支える柱があった方がいいから、兄貴達も始めは俺を手伝って材木を切り出してくる必要があるな」とアペン。


「斧とノコギリ持ってこよう」とアググ。


「穴を掘った時に出る土も、穴が深くなったら、滑車使わないといけなくなるんじゃないか?」


「そうだな、よく気がついたな、そうなるよな」




井戸の完成に一月を要した。屋根付きのツルベ井戸である。

組み合わされた滑車で軽く持ち上げられてロープを手動で巻き取る巻き取り機も考案してつけて横に設置した。


中学校でならった滑車の知識が役に立ったのだ、それを作ったアペンはたいへんだったが、土の運び出しもこれができたために大幅に楽になった。


穴を掘るのも大変で交代しながらアグルもアゴンも手伝った。


初めはロープを登っていたが、滑車ができてからは、滑車で上り下りをできるようになったため、上り下りでの疲労もなくなり仕事がはかどった。


アペンのカブは大いに上がった。

滑車の構造を教えた俺のカブもアペンには上がった。


「おまえ、頭ぶって、なんでも聞くようになったから、変なこと知ってるよな。人見て危なそうなやつには話しかけるなよ」


お母さん達も仕事が楽になり時間もできて、上機嫌である。

井戸の周りで話し込む余裕ができた。井戸端会議の発生だった。


そして俺のステータスは、HPが2上がり13/13になっていた。

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