4 新世界

次の朝、「アグル!行くぞー」と声がした。


アググに従っていつものように罠のチェックに向かう。


今日も昨日に引き続き罠には何もかかっていなかった。


「アぺンとこ行くぞー」


アペンおじさんのところで、3人そろう。

今日もボウズが3人揃って弓の準備を整える。


「アポン、木に実はまだ残ってるか?」


「うん、リンゴンはまだ取れると思うよ。」


「じゃ、今日も取ってきてくれ。アグルと一緒にな」


昨日と同じパターンで食材探しに出発だ。

俺はアポンと見つめ合う。


「今日はメアリばあちゃんと一緒に行ってみようよ。」


「そうしよう」


アポンと一緒にメアリばあちゃんを誘いに向かう。


「さっそくうまいもん取りに行くかい。」メアリ婆は孫と一緒に行けるのが嬉しいようだ。


「この婆にまかしときな、美味いもん教えてやるから」


「ばあちゃん、最初にリンゴン取るから、いいでしょ」


「もちろんだよ。リンゴンは取れるだけ取っておきたいからね」


3人はメアリ婆のペースでリンゴンの木に向かった。


「ばあちゃん、疲れたらおぶってやるよ」アポンは優しい奴だ。


「なに言ってるんだい。ばあちゃんまだまだ若いんだから。ピチピチだよ」

メアリ婆気持ちは若いらしい。


「あれを見な………これな、ニーラーナだ。

これは根元から切って持ってくよ。苦いが栄養があって体にいいんだ。

残ったとこらからまた葉が伸びてまた食える、場所も覚えときな。

この辺のニーラーナを適当に取りな」


俺たちは言われたとうりニーラーナを取る。


「そのくらいあればいいだろ」


また少し歩いたところでメアリー婆が指差した。


「アレな、ジンガーだね。これの根を掘り起こしな。

これ根のところ辛くて肉の味付けにいいんだよ。

栄養も有る。いいもん見つけたよ」


肉の味に物足りなさがあった俺にとって、これはいいもの見つけたかもしれない。


「このツルと葉の形覚えときな、これはナガーイモンだよ。

このツルを追いかけて土の中を掘ってくと長いこんくらいの太さの根が続いとる。

長いもんになるとお前の背くらいあるよ。これが美味い。掘るのが大変だけどな。今日は掘る道具もないから後でな」


「オット、棒かしな、あそこにブルースネイプの子がはってる」


婆は、スネイプの頭を棒で押さえ込んで、なお強く土の中にめり込ませた。体はニョロニョロともがいている。


片手で棒を押さえつつ、右手で腰のナイフを抜くと、婆はスネイプを首元から切り離した。


「焼いて食うと美味いんだよ」尻尾の先を持って満足そうだ。


「いこか」


「そう言えば、お前達もナイフくらいは持ってた方がいいね。

持たせてもらいな、婆ちゃんからも言っとくからね」二人は喜んだ。


リンゴンの木に着くと昨日のようにリンゴンの実の収穫に入る。


メアリ婆は、日陰に座って休んでいる。


「ここより上の実は取れそうにないよ〜」アポンが言った。


「降りといで、アポン。もう少し奥にもリンゴンの木があったはずだから」


俺たちはばあちゃんの後について奥へと歩き出した。


「お、珍しいもん見つけたよ。これはついてるね。なかなかないんだよこれは。これが魔力草さ。よーく覚えときな。これから魔力回復薬が作れるだ」


根ごと引き抜いた。

「ヨシヨシ」


「ばあちゃんは、なんでそんなに見つけられるんだい」


俺は不思議になって聞いた。


「そうさね〜、わしも賢者だからね〜、経験を積んで大人になって、経験を積み続けたら……ある時欲しいもんがそばにあるのが感じられるようになったんじゃよ。胸に石はでなかったけど賢者は賢者なのかな、ナンチャッテ賢者だけどね」


「レベルアップしてスキルが発現したんだね」


「レベル?スキル? 知らん言葉だね、なんだねそれ」


この世界にはゲームが無いからレベルだのスキルだのという表現や概念は無いのか?俺ははっとした。


もしかしたら、ステータス画面が見えてるのは俺だけ?


ばあちゃん達は他の見え方、イヤ、他の解り方をしているかもしれない。


俺は黙りこくった。メアリ婆は変な顔をしながら歩き出した。


「探索?と言われとるよ」歩きながら言った。


「何度も何度も繰り返しやってると上手になってわかるようになるんじゃないかえ?」


「ホラ、あそこ、リンゴンの実がなってるじゃろう」


指差すさきにリンゴンの木が見えてきた。その木の実も収穫する。


少しして、リンゴンの実で袋がいっぱいになったので家に帰ることにした。


婆は疲れて探索ができなくなった感じがするらしい。


俺は「ばあちゃん、おぶろうか?」と聞くと、今度は素直に「じゃあ頼むかね」と言って背負われた。


キルはメアリ婆を背負って歩きながら聞いた。

「ばあちゃん、変なことを聞くようだけど、ここはなんと言うとこで、近くには何と言うとこがあるの?地理の知識が欲しいんだ」


「あの山が、アラトトス山でここはその山裾ってことになるかねー。

右の方にあの山から来てる川があるのは知ってるかい?アラトト川だ。

川を下っていくと家が集まっているとこがあって、そこがソブアラトトの村。

離れてるがわし達もこの村の住人なのさ。

そこをもっともっと川に沿って下っていくと村より大きな町が有る。

ソルトビルだ。ソルトビルには船が来てるんだ。

アラトトス山の向こうは森が広がっていてその先にはもっと高い山がある。

魔物の森と果ての山脈と呼ばれてる。この辺の人にはね。

おっと そこを右に入っておくれ、少し先にレタースサニの群生地があるからとっていこう」


「レタースサニ、美味しい葉っぱでしょ。僕好きだよ」とアポン。

俺たちはレタースサニを収穫すると家に帰った。


帰り道俺は背中のばあちゃんと話をする。


「魔物の森には魔物がいるの。魔物ってなに?」


「魔法を使う獣のことさ。人間でも使える人は魔法使いと言うけど、賢者の中には魔法使いになれる人もいる。わしのようにね。ナンチャッテだけどね」


「スゴイ、見せてよ、魔法」


「今は魔力が切れてるから、明日な、指先にチョロット光ったり火がついたりするだけじゃぞ。

大して役にも立たんし大きな声で魔法使いじゃとは言いにくいがの。へへへ」


そうなんだ、でもスゴイ、魔法があって、賢者は使えるようになるんだ。


やっぱり。


「魔力が切れてても何とも無いの?」


「腹がすいた時のような、なんかな減ってるような気がするだけで特に変わらぬの。半日くらいで戻るぞや、なにもせんでも」


自然に戻るのか、時間が経つと徐々に回復すると言うことか。


アポンの家(アペンさんの家)に着くとアゴン用の弓と矢を作っていた。


「今日は耳長が取れたぞ!」と今日の獲物、耳長と鳥を満足そうに見せる。耳長はうさぎのような動物だ。


「時間があったのでアゴンにも弓を持たせてやろうという事になったのさ」


アゴンは誇らしそうに「いいだろう」と言った。


「この子らにもそろそろナイフを持たせれば、こういうのくらい取れるぞい」メアリ婆が親父達にブルースネイプを見せた。


「そうだな、今度村に行ってナイフを調達してくるか、それまで古いのを持たせてやろう」


「そうだな、俺が古いのを見繕って研いどいてやるから、明日の朝な」


「俺の分もあるんだよね」と慌ててアゴンが言った。


「数が足りてればな、探してみるが、たぶん大丈夫だ」


「アギンのナイフが折れた時に3本新しくしたんじゃなかったか?

大型のボアにとどめを入れた時に」


「そうだったな、その前のが残ってるかと思うから探してみるから」

アペンおじさんの家の倉庫はみんなの武器置き場らしい。


「あん時のボアはデカかったよな」


「俺たちがしとめたなかではな。大の小てとこだな、まだまだでかいのがいるからな」


「アレの毛皮と牙は高く売れたよな〜」


「兄貴が飛び乗って背中の急所に一突き入れたから、毛皮の傷も少なくて済んだんだよな」


「あん時の兄貴には惚れたぜ〜」


「俺もあんときは、よくやったよな、今思い出してもブルってしまうぜ。

おかげでナイフが抜けずに取ろうとして折れちまったからナイフ代でチャラだな」


「いや、差し引いても、普通のより高く売れたって!」


「そうかな」大人たちは、昔の思い出に花が咲いてるようだ。


タイミングを見て俺は聞いた。

「ねえ、大きいボアって、魔獣じゃないの?」


「大きいからって魔獣てわけじゃないな、大きくても魔法を使う奴はあまりいない。というか、いるにはいるらしいがおれたちは見たという奴は知らんな」


「山を越えて引っ越してきたのには、小さくても魔法を使うらしいな。

これもたまにしかあの山を越えてはこないから大丈夫だぞ」


「この前来たのって、親父が火傷させられたって奴だよな」


「そうそう」アギンが話を続ける


「アレは俺とオヤジとアググも見習い始めた頃だったな、

オヤジの膝くらいのボアだったと思うけど、

背中の模様がやけに赤っぽいのが罠にかかってたんだよな。

オヤジも変な色だと言ってたさ。そんときはまだ魔物とは思わなかったからな。」


「そうそう、それでオヤジが首に輪を打とうとしたら、鼻息ボワっと吐きやがって、真っ白な鼻息で前が見えなくなったんだよな。

オヤジがアチチチと言って飛び退いた。そん時火傷したんだよな」


「アレは火じゃないと思うぞ、熱風の類だったよな」


「そうそう、それで、首に縄をうつの諦めて、オヤジが俺に弓取ってこいって言ったんだ」とアググ。


「お前が取りに行ってる間、竹槍で刺そうとしてたんだが、ブハブハやるもんだから、なかなか近づけなくてな、弓が来るまでお手上げさ」


「弓でも何本打ち込んだかね、あいつなかなか死ななかったよな」


「最後は矢が足りないかと思ったよな」


「毛皮も穴だらけで売りもんにならなかったしな」


「狩り損だなアレは」


「牙だけ、売れたよな、ちょっとだけ高く。

これは魔獣のかもと言われて、赤い奴だったと言ったら、心臓のとこに魔石がなかったか?と聞かれたが、見ないで捨てちまったと言ったらそっちの方が欲しかったのにと言われたっけ」


「それで魔獣だったんだとわかったんだったな」


「あれから出ないもんな」


「アレはかかってたら悩むよな。かなり矢もダメになるしな」


「願い下げだよな〜魔石が高くかってもらえるならだけど、熱くてなあ〜 あぶねえよ魔獣」


「魔石は良い値がつくぞえ、石の持つ魔力量によって高くも安くもなるがの、大きさや色とかで魔力の多そうなのは高いぞえ」とメアリ婆。


「へー!」オヤジ達目が輝いている。


魔石があるのか〜と俺は異世界のお約束だなと思った。


今日はだいぶこの世界のことがわかった気がする。


魔物がいて、魔石があって、賢者は魔法が使えるようになれる。


婆は、魔法が使える、明日見せてもらおう 。


何度も繰り返せばレベルアップしてできるようになる。


明日が楽しみだ。これから婆に色々教わろう。ここは魔法のある世界なんだ。

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