小心者だから予期せぬ出来事に弱く


「それはいけない。今回は私一人で対応するよ」


 男のそれは意外にも芯のある強い声だった。


「いいえ。わたくしも同席します」


 令嬢もまた強く言い切るも、意外にも男はこれに折れない。


「いいや、西の次期辺境伯の相手は私一人でする。君にはその間、供に来るご令嬢のお相手をお願いしよう」


 令嬢の手が男の背中に回った。

 置かれた手の小ささと温かさを感じつつ、男は深く息を吐く。


「今回はいけない」


 だが出て来たのはまだ否定の言葉だった。

 男が令嬢の目を見てはっきり告げるとき。それは決定事項であることを令嬢も知っていた。

 小心でありながら、この男、頑固者なのだ。


 しかしそれで「はい」と受け入れる令嬢ではない。

 婚約者というのは、共に居る時間が長い分、似ていくものなのだろうか。



「殿下。わたくし怒っておりますのよ?」


「え゛っ」


 予想していなかった言葉を受け、男は妙な声を出してしまう。

 小心者である男は、予期せぬ出来事に弱かった。


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