小心者だから評価が上がっていることも知らず

「予想通りに事が運ばなかったときのためにと、婚約解消をお考えになったのでしょうけれど」


「いや。あれは。その。それは……。かの国の王太子が羨ましかっただけで」


「そんな表向きの浅はかな言い訳が、わたくしに通用すると思いまして?殿下が貴族から恨みを買うときは、わたくしもご一緒いたします」


「それは駄目だ」


「いいえ。いいえ。わたくしがお隣におりましたら、殿下のお身体も守られましょう」


 令嬢は男の背中に置いた手を動かし始めた。

 胃の後ろに当たる位置を優しく撫でられ、青白かった男の顔に血の気が戻っていく。


「わたくしのいない未来など、考えなくてもよろしいのです」


「私は小心者だからね。幾重にもある選択肢のすべてを覗きたくなってしまうのだよ」


 あらゆる可能性を並べ立て、そのすべての可能性に対し、問題が起こらぬようにとことを運ぶ。

 そんな人間が王に不向きであるとしたら、王に向く人間とはどんな人物だと言うのだろう。


 令嬢含め、この場を見守る侍従や侍女、それに王家の影なる存在たちは思っているのだが。


 その心、男だけがいつまでも理解しない。


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