婚約者はいたって冷静でした

 男の婚約者はこの国の公爵令嬢。


 まだ十代ながら完璧な淑女と名高く、洗練された仕草や気品溢れる振舞いに、同年代の貴族令嬢たちからは抜きんだその博識さ、彼女の人となりには公爵家の教養の高さだけではない本人の気質と努力の両輪が支えてきた結果が窺える。

 そんな彼女はこれからさらに自身を磨いていくことだろう。

 近い将来この国一の淑女となって、あらゆる貴婦人方の憧れの王妃となるに違いなかった。


 その婚約者である令嬢は、男の発言に微塵も動揺を示すことなく、紅茶のカップを音なくさらりとソーサーに戻した後に微笑した。


「殿下。わたくしとの婚約を解消したとて、殿下のお立場は変わりません」


 静かで落ち着いた声に潜む凛とした何かに男は胸を突かれるのだった。

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