【完結】その男、小心につき。憧れの婚約破棄は無理そうだったので「婚約解消」を願い出た

春風由実

　人には生まれながらに、『向き、不向き』というものがあると考える。

　すべての人が適材適所に収まれば、それは素晴らしきことだろう。

　だが現実はそうはいかない。

　この男の不運は、適所を選ぶという選択肢さえ与えられずに生まれてきたことだ。

　しかしながら、そんな人間は数多いる。

　彼にとって代わりたいという人間について言えば、それこそ世の中に数えきれないくらいいるだろう。

　小心なこの男は、今話題となっている隣国の王太子のように貴族が集まる夜会の場で声高らかに叫ぶことなど出来るはずはなかった。

　男はいつものように王宮の美しい庭に面したテラスの席で、婚約者を前にして、その彼女を見ないように俯くと小声で鳴いた。

「大変申し訳ないのだけれど。私との婚約を解消してくれないだろうか」

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