第72話 一番強い攻撃
ドラゴンの決意を知ったならば、僕もただくたばっているわけにはいかないんだ。いつも先にやられて、助けてもらうわけにはいかない……。
「いが……ないん、だ……よォ……!!」
ドオオォォォォオオオォオンッ!!!!!
搾りカスのような声は、ドラゴンとミャチメンの衝突音によってかき消された。
「お望みの死に方はあるかい? お仲間とおそろいで尊厳破壊されながら死ぬのがいいかねぃ」
「実現しない未来のことをいくら話したって意味ないぞ。少し考えりゃ分かることだ」
ドラゴンはさっき糸を切る時に使った小刀を片手に、ミャチメンの隙を狙っている。一方のミャチメンは凶暴な針から毒液をしたたらせて悠々と宙を舞う。
不利だと思う。そもそも空飛べるのがずるすぎる。しかもドラゴンはちょっとって量じゃないくらい魂取られてるんだぞ。ありのまま思ったことを言うと、卑怯だ!
「しかしねぃ、ドラゴン。あんた、その小刀以外の物を別で作れるのかい? あんまり頑張ると死んじまうんじゃねぇの?」
「確かにそうだが、これの代わりにより殺傷能力が高いものなら作れる。銃を作ってお前を打ってもいいんだ」
「へぇ。そんじゃあ、手加減してもらってるってわけだ。舐められたもんだねぃ!」
ミャチメンは再び攻撃を激化させる。目で追うのがやっとなスピードで、何度も何度もドラゴンに針を突きつける。小刀を振るう隙も、銃を作り直す時間も与えない。避けるのに専念させる。
「手加減というかな、無駄なのが分かっているからやらないだけだ」
猛攻に耐えながら、ドラゴンが奥のミャルメンの方をちらりと見てつぶやいた。
そう。無害なようで厄介なのがミャルメンの存在である。息も絶え絶えでミャチメンを戦闘不能まで追い込んだとしても、ミャルメンが速攻で回復をしてしまうから意味が無い。
本来僕がミャルメンを倒して回復を防ぐところを、阻止されてしまっているのだ。
でも逆に言ってみようか。僕がミャルメンを倒すことができれば、一気に勝機が見えてくるってことだ。
少し毒がまわってきたのかふらふらしてきて、まともに歩けそうにない。僕自身がアクションを起こすことは出来なさそうだ。
考えろ。全神経総動員で考えるんだ。僕ができること。
暑苦しいもじゃもじゃの毛皮で何かするか? いやただの寝心地の悪い布団にしかならない。となると、僕に残されたものは……?
お兄ちゃん、会いに来て
「……おに、いちゃ……?」
どこからか声が聞こえた。今までも聞いていた気がする。おそらく、ナイフの持ち主である、イタチの声。それなのに、「お兄ちゃん」……?
私、お兄ちゃんにも死んで欲しいって思ってた。ここはすごく寂しいから
「……こなみ……な、のか……?」
でもやっぱり、お兄ちゃんは死んじゃだめ。まだ生きなきゃだめだよ
油断が一番怖いのは、私が一番知ってるから……頑張るよ
まるで夢でも見ているような気分だった。訳が分からない。僕が持っているナイフはもともとイタチが持っていたもので……。イタチは……僕の妹、コナミだっていうのか?
分からない分からない……。
「……あ」
僕が頭の中をかき乱されている間に、すでに握りしめていたナイフは血の色をしたオーラをまとっていた。
そういえば、ナイフが勝手に動いたときがあったな……。
「……よ、く、分かんないけど……。ナイフ、いや、コナミ……。僕たちに、勝たせて、ください……!!」
心の底からお願いした。地面に這いつくばって、みっともない僕だけど、心が張り詰めて爆発するほどお願いした。
僕は確信しているんだ。油断している強敵に叩き込む弱い奴の一撃が、一番強いことを。
どす黒いナイフは冷え切った空間を切り裂き、ビュンビュンと飛んでいく。そこにドラゴンは一瞬だけ視線を移し、静かに笑う。
「なるほど。さすがはナイフの名手だ」
ナイフの標的であるミャルメンは向かってくるそれに気づかない。勝ちを知っている奴は、勝ちしか見ようとしない。負ける可能性なんか見ていないんだ。
「いけ……! 背後から叩き込め……!!!」
ナイフは素早くミャルメンの背後に回り、自身を斜めに傾かせる。もう準備は万端。
大きく息を吸う。きつく傷口を押さえる。そして叫ぶ。
「ミャルメン!! お前の負けだ!!!!」
僕の声を合図に、ナイフがミャルメンの胸に突き刺さった。
悲鳴が、響いた。
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