第67話 誰のせい?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いいネ……。こうやって管理者は集まッたんだネぇ。仲間がいるっていイね……」
真っ黒な空間の中、ツインテールロボットのシャイトは不気味な音を鳴らす。
一方のポンカは、ピンク髪、ニセコナミと対峙した時のことを思いだして動こうとするも、空間が重くのしかかってゆっくりとしか進めない。
「でモね、大事なのは『今まで』じゃなクて、『これから』なんだよ」
「ッぴょにぃいぃ!!」
攻撃をするわけでもなく、この空間から出してくれるわけでもなく、記憶を脳内に流し続けるシャイトに、ポンカは心底腹が立っていた。不快でしかなかった。
何がしたいのか。こんなのただの時間の無駄だ。
鉛のような空間を切り裂いて向かってくるポンカを見て、シャイトはビビ、と瞳を光らせた。
「よく考えてみて」
耳障りなノイズがかかった声で言う。
「あノとき……あなたたちがいう『ドラゴン合戦』のときに拾ったイタチのナイフ……。あれは今サザナミが持っているデしょう?」
「ぴょ」
「あレ、イタチの意思で動くんだよ」
ポンカの真ん丸な目がカッと見開かれる。シャイトが何を言おうとしているのかは、言われないでも分かってしまった。
「シャイトはみんなの行き先、未来ヲ知っている。もちろん、サザナミの未来モ知ってるよ? 見せてあげるヨ!」
「ぴょに、ぴょに!!」
ロボットなはずのシャイトの声が、だんだんと熱と悪意を持ったものに変わっていく。ポンカは一生懸命手を伸ばしてやめろとせがむが、それは虚しく空気を掴んだだけだった。
〔サザナミは、あなたたちのせいで死ヌんだよ!〕
「……!!!」
容赦なくポンカに直接届けられた言葉は、彼女を絶望させるのには十分すぎた。
〔アの戦いが終わった後、あなタたちがナイフを拾って。それをサザナミに持たせて。誰も止めなかった! 信じられないカもしれないから、見せてあゲる! サザナミが死ぬとコろを!〕
「ぴょにぃいいぃ!!!」
とどめを刺すようにポンカに押し付けられる、サザナミの未来。
シャイトと同じく、四天王のミャルメン、ミャチメンと戦うサザナミとドラゴン。最初のうちはナイフは何も起こさずに、サザナミの戦力となっていた。が……。
ミャチメンの毒針攻撃を耐えしのいでいた最中、ナイフが急にサザナミの手からすり抜けたのだ。まるで意思を持っているかのように。そして、その切っ先はサザナミに向けられていた。
瞬きする間に、ナイフは血に染められた。サザナミの腹を突き刺し、ギリギリと食い込んでいったのだ。
引き抜こうとするサザナミの苦心も、ナイフにはかなわなかった。尋常でない力でサザナミをむしばみ、肉を切り裂いていく。
ドラゴンもそれに気づき、サザナミを攻撃から守ろうとするも、四天王二人を一人で相手しながらサザナミを気にかけるのは至難の業。ナイフを止めることなどできやしなかった。
ポンカの頭にサザナミのうめき声が反響する。嫌になるほど鮮明な血が脳内を駆け巡る。
〔悲しいでしョ? でもあなたは何もできナいよ。これは少し先の話だかラ、まだサザナミは生きてるけど、シャイトはあなたを逃がス気はないからね〕
ポンカの息が荒くなる。そうか。やっと分かった。シャイトが長々と過去の記憶を振り返った理由。
過去の自分の行いを自覚させて、これから起こる悲劇に対する罪悪感を増幅させるためだ。
そして、ポンカはそれが分かっていても、自分のせいでサザナミが死んでしまうという事実に責任を感じざるを得なかった。
初めてサザナミに会ったときから、彼が人間だということは分かっていたのだ。なぜかと言われたら困るが、生気がまだ感じられた。
望んでこの世界に来たわけがないから、災難だと思った。でもサザナミは何やら目的があるらしく、管理者たちの旅についてくることになった。危険な旅に参加するのだから特別な事情があるのだろうとひそかに見守っているつもりだった。
全部、甘かった。
まだ生きられる人間を、こんな旅に入れてはいけなかった。
死んでしまったら、もう生きられないのだから。
「ぴょに……ぴょにぃ……!!」
ポンカは頭を抱えてよろめく。管理者らしくない上ずって震えた声を出して。
「あなたなら分かっているヨね? シャイトたち四天王と『あの方』がここに来た理由……」
ポンカは何も答えない。
「……。アハハ! ごめンね、もう何ヲ言っても理解できないよネ! だってサザナミはあなたたちのせいで死ぬんだから!」
表情は変わらない。でも確かに、残虐に笑うシャイト。
墨がとけたような光のない空間で、笑い声だけが響き渡った。
……いや、「だけ」ではない。シャイトは小さな声でつぶやいたのだ。ポンカには届かないように。
「未来はいくらデも
「そ。あっしらの目的はあんたたち二人を殺すこと」
……はい、帰って来ました、僕サザナミです。ここからは僕の視点でお送りいたします。
僕たちが連れて来られたのは、クモの巣が大量発生している暗い洞窟。四天王だというハチのオバケミャチメンと、クモのオバケミャルメンと相対している真っ最中。
会って早々物騒なことを言われたけど、分かりきっている事なのでダメージは少ない。
それよりも、ミャルメンがそっち側にいる事の方が、何と言うか……。
「お前らは、俺たちが人間だということを分かってここに来たんだな?」
「あぁ、もちろん。正直他の管理者には興味ねぇぜ」
張り詰めた面持ちで問い詰めるドラゴン。ミャチメンはゆるく答える。
「あんたらを殺して、命を『ボス』に捧げる。それがぁ、あっしらの仕事ってわけだねぃ」
「……そう、か」
ドラゴンが静かに目配せする。「ボス」は、「ニセコナミ」だ。僕の妹の偽物。
「あと一つ訊きたいことがあるんだが」
「おう、いいぜ。あっしは寛大だからねぃ」
軽快に話すミャチメンとは対照的に、ずっとうつむいたままのミャルメン。まあそうか。普通に考えても気まずいしな、裏切った奴と再会するのって。
でも、ドラゴンはそこら辺を配慮することは無い。敵は敵として、冷酷に接する。
「ライ林で、ナオに小細工をしていたのはミャルメンか?」
ミャチメンは四本の腕を組み、「うーん」と首をかしげる。
「そうだって言ったら、あんたらは怒るかい?」
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