第55話 灯台下暗し
「お前にはオレが付いてるんだぜ、ってことな」
ベアボウの言葉にラエル2は一瞬表情を固くし、それから雪が溶けるかのように微笑んだ。
涙を流すわけでもない。声を出すわけでもない。ただ目を伏せてうつむいている。
「ベアボウ、その言葉、なぜかすごく懐かしいよ」
ラエル2は胸に手を当て、いつか共に過ごした人に語り掛ける。
「僕は、生きる意味を見つけるのが本当に下手だったみたいだ。もう何も残されていないとしか思えなかった。だからマンションから飛び降りて、死んだ」
生前の記憶を懐かしむような、惜しむような声で。
「僕のことを一番よく考えてくれていた人が、すぐそばにいたのにな……」
横にいるベアボウは何を言っていいのか分からず、黙ったままだ。
「そのことにやっと気づけた。後輩君……。そして、あんた。あんたがいる時間は何よりも大切だった。くだらなくなんか、ない。多分、今後も変わらない。……少しの間、僕と生きてくれてありがとう」
言葉を噛みしめてまた目を閉じたラエル2は、暴風にあおられながらも白い河原に立ち上がった。
その目はもちろん、上空を縦横無尽に飛び回る四天王、ハナタをとらえていた。
「おや、ようやく戦う気になりましたか?」
「……僕は生前、世の中に見捨てられ、支配され、操作される人間だった」
つくった指フレーム越しにハナタに言葉をぶつける。
「でも今は違う。ここは死後の世界だ。なりたいものになれる。……あんたらがもし、俺らの存在を否定するようなことをするんなら、」
今度は操作する側になってやる。
ラエル2は、ハナタがフレーム内に入った瞬間を見逃さなかった。
「
「?!」
今の今まで余裕たっぷりに空を飛んでいたハナタの身体が、一瞬で動かなくなった。ラエル2が両方の人差指を真下に向ければ、ハナタは遠くの川底まで一気に突っ込んで辺り一面に水しぶきが舞う。
と同時に、ハナタの動きが止まったおかげで暴風もぴたりとやんだ。
「おぉ?! すっげぇなお前! これでオレもさいきょーに動きやすくなったぜ! すげぇなその薬ぃ!」
「え、あ、うん、すごいの、これ。……副作用で、嫌な記憶も引っ張り出しちゃったけど、そのおかげで気づけたことがあったし」
「そ、そうか! そりゃあ良かったぜ! それじゃあ烏人間殴りに行くぞぉ!」
風がやんだ途端に爆速で走り出すベアボウ。これほどまで動けるのであれば、暴風の中でも戦えたのではと呆れるラエル2。
散々もてあそばれてきた二人の反撃が始まる。
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