第49話 マニピュレイト

「ご丁寧にどうも。だがなぁ! オレはアンタみてぇな何かこう、絶妙に馬が合わなそうな奴は嫌いだ! 名前も覚える気ねぇ!」


 悠々と空を飛ぶ烏人間、ハナタに言いたいだけ言うベアボウ。しかし、戦闘態勢は整っていた。


「ええ。覚えてもらわなくても大いに結構。僕はただのさきがけです」


 そう言ったハナタに、ポンカが蹴りを入れにいく。体の小さなポンカではまず届かないところを驚異の脚力で強引に進む。


「ぴょにぃ!!」

「やはり『ポンカ様』と言われるだけありますね。こんな上空まで跳びあがれるとは」


 ハナタは自分と同じ高さまで上がってきたことに特段驚きもせず、刀で的確にポンカの腹を裂きにかかる。しかしさすがのポンカ、この程度ではかすりもしない。空中でひらりと身をひるがえすと、身を低くして着地した。


「おっしゃー! ポンカ様も頑張ってるし、オレらもやってやるかぁ! なあラエル2!」

「僕はサポートってことで」

「……あながち間違っちゃあいねぇな! よろしく頼むぜ!」


 ポンカの攻撃に続いて、ベアボウとラエル2も戦闘に参加する。ラエル2はどうやって四天王に食らいついてくるか見物だ。


「皆さんで来ますか。耐えしのぐのはなかなか大変になりそうですね」

「ああ?! オレが飛べないとでも思ったかぁ?! 残念! オレは翅が付いてる高級な熊なんだよなぁ!」

「そんなこと言っていませんが……。翅があるのは見た時から分かっていたことですし……」


 ハナタとの間でのいろいろなすれ違いはそのままに、ベアボウも飛んでハナタに拳をおみまいした。……のだが、それは刀の切っ先で止められた。


「っお前ェ! 痛ぇじゃねぇか! 何してくれてんだぁ!」


 拳に刀が浅く突き刺さり、血が空を流れ落ちる。ベアボウはすぐに拳を引いたが、血は止まらない。


「あなたが攻撃してくるので防御したまでです」

「くぅー。武器使ってくる奴は大嫌いだ! つまりオレとお前は相性最悪ってことだな!」


 顔をゆがませてハナタを指差すベアボウ。ベアボウの戦法はひたすら殴って蹴って、負傷した分を吸血で回復するもの。思うように殴れず、体を傷つけられるばかりの武器持ちは非常に分が悪い。


「そんじゃあ、動きを止めたらいいんじゃねぇの?」


 そこで二人の会話に割り込んできたのはラエル2。


「いくら脳筋熊野郎でも、相手が止まってても苦戦するほど雑魚じゃないでしょ」


 跳んだり飛んだりできないラエル2はビルの上に立ち、両手の親指と人差し指で小さなフレームを作った。その中には空中にとどまるハナタがいる。


 フレームを真っ暗な片目で覗き込んだラエル2はこうつぶやく。


操作マニピュレイト


 と。


 すると、ハナタの動きがぴたりと止まった。しかし屋上に落ちることは無い。なぜならこの男、ラエル2に操られているから。


 ラエル2が人差し指を下に向けるとハナタはビルに叩きつけられ、右を差すとその方向に引きずられる。あっちこっちに動かされるので、屋上には砂ぼこりが立った。


「ほら、あと少ししか持たないから早く殴っちゃって。脳筋熊野郎とポンカさん」

「……おお、やっぱお前強ぇじゃねぇか! 感謝してやるぜ!」

「ぴょおん!」


 至って冷静な、いやローなラエル2にベアボウは目をぱちくりさせながらも、ポンカと共にハナタを殴る。ひたすら殴る。ラエル2は指を斜め下に向けて常に圧力をかけておく。


 恐ろしい腕力と脚力が同時にふりかかってくるわけで、ハナタのクチバシからは血が漏れ出る。殴られたところからも血がにじむ。


「四天王つってもこの程度か。3対1だし妥当な結果なのかぁ?」

「ポンカさんもいるし……見えてた結果ていうか……。あ、そろそろ能力の効果切れるから離れといた方がいいぞ脳筋熊野郎」

「おう分かった。てかお前ナチュラルに脳筋熊野郎って呼ぶのやめろ! オレが馬鹿みたいだろ!」

「いやそう……熊か」


 ポンカとベアボウが離れると、固まっていたハナタの体がだらりと投げ出された。氷が融けたかのようだ。


「……ぐぅ……。そうですか……。一定時間相手を操れる能力……。管理者以外の強力なものは想定外ですよ……」


 ハナタが話してせき込む度に血が出てくる。まともに戦える状態ではないだろう。


「あんたもそうか烏人間。管理者だけ目をつけて、その下にいる俺には興味ないんだ、あーそうかそうか。やっぱりあんた大嫌いだ。僕の存在自体を認めないその姿勢腐りきってるよ、ほらその頭叩き割ってやろうか」

「やめとけラエル2、多分話聞ける余裕ねぇぞ」


 物理的にも精神的にも距離を詰めるラエル2をベアボウが止める。ベアボウの言う通りで、ハナタは空を見上げたままこちらを向こうともしない。


「ぴょにぃ」


 ポンカがハナタの腹に足を置き、四本指をかざす。ポンカお得意の封印シグナトスだ。


 目の前に光が集まっているのに、ハナタはまだ空を見上げている。しかも微笑んで。


「オレたちのとこに来たのが間違いだったな。四天王」

「……さすがにあっけなすぎる」


 ハナタは表情を変えない。最期言葉を吐く、その時ですら。


「間に合いましたね、四天王の皆さん」

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