第48話 隙まみれ
フェアやドラゴンが流れ作業でオバケを片付けていっても、一向に数が減る気配はない。それどころか、さらに増えている気さえする。
「おいお前ェ! ここに弱そうな奴がいるぜぇ!」
「嘘だろ? 管理者が戦ってるんじゃねぇのか?」
「それがちげぇんだよ! 何故か激弱オバケが紛れ込んでやがる! 叩きのめされに来たのかよ?」
そんな中、僕の前でこう話すオバケたちがいた。管理者二人がいる中で舐められるのは仕方がないこと。しかしよくもまあ敵の前でべらべら喋れるものだ。
そのオバケたちは彼らの味方の血に濡れたゴブリンのような見た目をしていた。フェアは強くないと言っていたが、管理者の発言なので頼りにならない。
「……おいお前ら」
「あぁ? 何か言ったかぁ?」
「もーっとおっきい声で言ってくれなぁい? はっはっはっは!」
一歩踏み出してみるも、余裕たっぷりにからかってくる。これも覚えている。猫のオバケにもこんな反応をされた。そして、こんな相手は背後ががら空きだということも、ベアボウとの戦いで学んだ。
チャキ、とナイフを構えた。が、
「あなたがサザナミ氏か?!」
注意をしていた背後から、ふいに声が聞こえた。即座に体をくるりと回転させると、そこには透き通るような水色の妖精がいた。いや、オバケが。人の体に羽がついている、お馴染みの姿である。
「あなたは誰です?!」
「われはこのビルの中でも比較的戦える者だ! 自己紹介は後でよい、とにかく背中は任せてもらって結構! 目の前の敵だけを狙え!」
「……あ、ありがとうございます!」
「うむ! 苦しくなったらわれも手伝おう!」
いきなりのことで驚きはしたが、このオバケがベアボウの言っていた「そこそこ戦えるオバケ」の一人なのだろう。背中は任せる。
「なんだなんだ? ちょっと強めの奴と連携し始めたなぁ?」
「だからって強さは変わんねぇよ。ちゃちゃっと潰しちまおうぜ」
ケケケ、と不気味な笑いと共にゴブリンが迫ってくる。同時に僕は想う。
イタチ。四天王の烏人間が来ていてみんなも、僕も危ない。今はどこにいるのか知らないけど、少しだけでもいいから力を貸してほしい。不安定な状態かもしれないけど、お願い……。
……おにい、ちゃん……
消えてしまいそうな声が響いたその刹那、ナイフにどす黒い光が宿った。
オーラは僕の腕くらいまで達しているものの、熱くない。なぜだろう、心にちょうどいいあたたかさだ。
「行くよ」
誰に言うわけでもなく、つぶやく。地を駆ける。刀身がオーラで伸びた今なら、真正面からでも攻撃できる。でも、教えてもらったこれがいい。
オーラにびくびくして縮こまっているゴブリン二人の背後にまわる。ほら、隙まみれだ。
「お二人さん、怯えているところ悪いですけど」
狙える。首元。外さないようにしっかり構えて。
「一本、いや二本! いただきましたぁ!」
「待ってくれ! 俺たちはまだ何mっ」
そう言いかけたゴブリンの首は、オーラに刻まれて派手に飛んだ。もちろん、二人分。
僕の足元には、血が流れだす胴体だけが残されている。
他の一般オバケを傷つけたりするような悪いオバケなのだけど……。やっぱりこういうのはあまり得意ではない。もう死ねないオバケだから、またいずれ元に戻るのだけど……ね。
「……えーと、イタチさんとナイフ、ありがとうござい、ます?」
ひとまずナイフとイタチに感謝する。こんな僕に力を分けてくれたのだ。
しばらく情けは捨てて、どんどん戦っていかなければ。
――屋上――
「……なんで、攻撃してこないんだぁ? 四天王さんよぉ」
沈黙の風吹く空間に、ベアボウが言った。
「ここまで来てよ、ただオレたち観察してハイおしまいじゃあ怒っちまうぜ?」
「ぴょに!」
不敵に微笑む烏人間は翼を二、三度動かすと、ようやく口を開いた。
「だって僕があなたたちに攻撃したら、攻撃し返すでしょう?」
「そうだろ……何なのこの烏……意味不すぎ……怖」
ラエル2も烏人間に呆れている様子。奇襲してきた四天王が何もしないのもおかしな話だろう。
「僕は苦痛や、恐怖を味わいたくありません。できるだけ」
「攻撃されたくねぇから自分も攻撃しませんってか? 何だこのへなちょこ烏。四天王じゃねぇのかぁ?」
「いいえ、僕はれっきとした四天王ですよ」
烏人間はそう言うともう一度羽を開いて空を飛び、ポンカたちを見下ろした。手には、羽に隠しこんでいた刀が光る。
「自己紹介をしましょう。僕はハナタ。四天王のハナタです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます