第47話 炎と光の回復魔法使い

 ポンカ様の咆哮が聞こえるまで、大した時間はかからなかった。こちらまで恐ろしくなるような、がなり声。


「応戦に行くぞ」


 一緒にいたドラゴンが、血相を変えて外へ飛び出して行った。



 出来る限りのスピードでポンカ様のところに駆けつける。その場所は、まさかの屋上。ドラゴンは魂を何とかして自力で屋上に向かったが、僕とラエル2はひたすらに階段をのぼってたどり着いた。


 そこには、闇夜の中大きな烏人間と相まみえるポンカ様とベアボウがいた。


「おおお前ら?! 全員来たのかよ?!」

「普通じゃない声が聞こえたからですよ!」

「まあその通りだなぁ! とんでもねぇ野郎と戦うことになっちまった!」


 ベアボウは烏人間に注意を払いながら続ける。


「この真っ黒な烏人間! 多分四天王だ! 結構やべぇ! あと、入り口の方にもしたっぱ共が来てるらしい!」

「……フェアが危ないな」

「そう! だからー、えー、ドラゴンともじゃもじゃ! お前らフェアのとこに行け! ラエル2はこっち助けてくれ!」


 ベアボウが早急に指示を出している今も、ポンカ様と烏人間は一向に動こうとしない。静かにお互いの様子をうかがっている。


「俺が四天王相手に戦えるか分からないのに……」

「いい、いいそういうのぉ! ラエル2お前強ぇんだから自信持てや!!」


 いつもならここで長話が続くラエル2も、しぶしぶ烏人間を射程圏内に入れる。


「もじゃもじゃとドラゴン! 下には一応そこそこ戦えるオバケたちも向かってるらしいが、まあ何とかやってくれ!」

「了解。とっとと片づけてそっちに合流する」


 ドラゴンは振り返らずに返事をし、ひょいと屋上から飛び降りた。……ように見えた。が、


「わあ、これ何です?」

「ちょっとした階段だ。そんなことはどうでもいいから、早く下におりるぞ」


 空中に青白い光の階段が浮かんでいた。これもドラゴンがつくったのだろう。あまり魂を消費して欲しくないが、素直に使わせてもらうこととする。


 ドラゴンは飛ぶように階段をおり、風のように入り口付近に着地する。まさに悪いオバケたちが突撃しているところだ。幸い一般オバケは被害を受けていないようだが、一刻も早く食い止めなければ。


「ドラゴンとサザナミクン?! 助かった……」

「フェア! 無事だったか」


 その突撃をいなしていたのがフェア。既にオバケを何人か丸焦げにしている。


「も~~来るのが遅いぞ~~~! それぞれのオバケはそんなに強くないんだけど、いかんせん数が多すぎて!」

「すごい数ですもんね……」


 上空から見た時はそこそこの数だとは思ったが、いざ地上で見てみると迫力は段違いである。全員倒せるのはいつになるのかと心配になるほど。


「遅くなったのはすまない。とりあえずこいつらを伸してしまおう」

「オーケー! 三人集まればどうにかなりそうだしね! ……あ、サザナミクンは無理しないで!」

「……はい……弱者なりに全力を尽くす所存でございます……!」


 この光景、前にも一度見た。そうだ、旅を始めようと意気込んで外に出た瞬間に囲まれたんだ。あれほど酷い出待ちもないだろう。あの時は管理者が全員揃っていたが、今は半分だ。


 毛皮の手で握っているナイフも、うまく使えたり使えなかったりすることがある。またナオの時のように使えなかったら……。


 いや弱気になるな。僕は最強だって思いこむ! これ! とても大事!


「頑張ります!!」

「……あ、ああ。そうだな」


 僕なりの決意表明のはずだったんだけどな。ドラゴンが引いている気がする。悲しいよとても。


「俺より多くオバケを倒せたら、今度から様付けで呼んでやる」

「?!!」


 そうつぶやいたドラゴンは、早速ヘビのようなオバケの頭を足で潰した。


 返り血にも動じず、無慈悲にゴリゴリとすりつぶしていく姿は十分悪役足り得るものだった。


「……俺は一匹潰した。サザナミ、お前も戦え。たくさん倒したらサザナミ様だぞ」

「そ、そんなのに僕が釣られるとでもお思いで?!」


 自慢げにうなずくドラゴンにちょっと腹が立ってしまったのは本当。単純すぎるのは理解してるけど、やってやろうじゃないかと思ったのも、本当。


 それ以上は何も返さず、迫りくるオバケたちに集中する。


「死なない程度に頑張るんだな」


 その言葉を皮切りに、ドラゴンはどんどんとオバケをなぎ倒していった。魂を操れるのがドラゴンの強みだが、そもそものポテンシャルが高すぎる。管理者おそるべし。


「うおー、ジブンも負けてられないぞー! フェア様目指してレッツ丸焦げー!」


 フェアも気合いが入ったようで、盛大にきらめく炎を吹く。見とれてしまうほど綺麗な炎は、残酷にオバケの体を焼く。


「ぎゃああああ、熱い! 熱いぃい!!」

「あのトカゲみたいなやつが使えるのは光の魔法だけじゃないわけ?!」

「目潰されて焼かれるとかどんな地獄だよ!!」


 フェアの周りは焼かれたオバケで阿鼻叫喚の巷と化した。バタバタと倒れていくオバケの中心で、きらりとウインクをし、


「炎と光の回復魔法使い、それがフェアなのです」


 そう言い放つフェアなのであった。

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