第44話 どっちだろう

 どうやらこのビルには部屋の以外にも大きな風呂があるらしく、ベアボウに言われるがまま一階に降りた。


 小ぎれいな受付の前を通り過ぎると、風呂の入り口らしきドアの近くにいつものメンバーがそろっている。


「ぴょにー」

「おお、ラエル2もきたんだ?!」

「……俺は他人と風呂なんぞ入りたくないんだが、ますます入りたくなくなったな」


 僕たちが来るなりこの反応だ。ベアボウは本当に説得したのだろうか? 特にドラゴン。恐らく今までで一番渋い表情を浮かべている。そこまで嫌なら何故断らなかった。


「お前ら待たせたなぁ! そんじゃ風呂だ風呂! 疲れたし早く入ろうz」

「待って待って待ってベアボウ」


 強引に風呂に向かおうとするベアボウをフェアが尻尾を荒げて引き留める。


「えーーーーと……。確か旅のメンバーでお風呂に入るって言ってたよね?」

「そうだぜ」

「ラエル2も入りたくなったってコト? 別にそれならウェルカムなんだけど」


 フェアの言葉に、後ろでふらふらしていたラエル2が顔を上げる。その理由は何となくわかる。自分を軽んじていると思っていたオバケからのこの言葉。意外だったのだろう。


 この人は多分、いつも寂しい。


 まあフェアも、荒ぶるラエル2を鎮めるために冷静に対応していただけなんだと思うけど。


「ああそうだぜ! だよなラエル2ぅ!」


 ラエル2はベアボウに背中を強打されて軽く吐血し、その場でひどくよろけた。


「グフッ……。勘違いするなよ、あんたらと入りたいわけじゃない。一人なのが嫌なだけだからな」

「おお、一緒に入りたいってことだな! よしそれじゃあレッツゴー!」

「……やっぱりあんたら大嫌いだよ」


 そう言いつつも、僕らと共に風呂場に向かって行くラエル2なのであった。そして相も変わらず不機嫌そうなドラゴンと、ウキウキでお風呂に泳ぎに来たであろうポンカ様。


 楽しいお風呂タイムの始まりだぜ!!


 質素な白いドアを開けると、昔ながらの銭湯が構えてあった。なんとも理解しがたい構造である。


 まず当たり前にあるのが男湯と女湯。人間の姿でなくとも大体性別は分かるが、問題はこのカエル、ポンカ様である。


「ぴょにー?」

「そういやポンカ様ってどっちなんですかね?」


 本人も首(ほとんど頭)をかしげてしまっては訳が分からない。そこのところは決まってるものじゃないんですかポンカ様。


「いい提案があるぞー!」


 そこで前に出たのはフェア。


「ポンカ様がもし! 男だとすると、ジブンが一人で寂しくお風呂に入ることになる。なので! 女の子でいいと思うんだけど、そこのところどうー?」

「ポンカ様がそれでいいならいいんじゃないか」


 ドラゴンがぴしゃりと答える。本人も性別が分からない(そもそもないのかもしれない)らしいし、


「僕も本人がいいならそれで」

「よーし! それじゃあポンカ様! そういうわけでよろしいですかー?」


 期待の眼差しでポンカ様を見つめるフェア。キラキラの瞳がますます輝いている。


「……ぴょににー!」


 しばらくきょとんとしていたポンカ様だが、状況を呑み込むと快く受け入れてくれた。そしてくるくる回りながら飛び跳ねる。かわいい。


「よし。それじゃあ男子諸君! くれぐれもはっちゃけないようにー!」

「俺たちを何だと思っているんだか」

「お上品に泳いでやるってんだこの野郎! なめんな!」


 ベアボウ、はっちゃけるっていうのはそういうことでは? それを心配しているのでは?


 何だか心配だが、それぞれ暖簾のれんをくぐる。


 オバケの世界とはいえ、銭湯は現世のものと変わりない。ぱっぱと服を脱いで風呂に入るのみである。そう、それだけなのに。


「なあやっぱりお前らヒョロヒョロすぎんだろ! もっと食え!!!」

「黙れ。触るな。とっとと風呂に入れ」


 自らが服を着ていない事をいいことに、僕たちにあれこれケチつけてくるベアボウ。ドラゴンなんか脇腹を軽く殴られているのだから、この対応になるのも致し方ない。


「ラエル2も! お前はもっと健康的な生活をしろ!! 外に出てランニングでもしろ!!」

「黙れ。あんたが僕の体にあれこれ言う資格はない。そもそも骨格から違うわけで、あんたは吸血熊で、俺はエルフみたいなもんで出発地点が違うのにそうやって……」

「お、おう」


 またグチグチ大会が始まった。ベアボウは塩対応されてつまらないのか、風呂場へ歩いていく。


「おいサザナミ」

「っはい」


 とか言う僕は、まだ毛皮のままで突っ立っていた。理由は単純。ドラゴンがいるとはいえ、毛皮を脱いでは食われてしまうのではと思ったから。それにドラゴンは気づいてくれた。


「毛皮は一旦脱いでも問題ない。疑われたら俺が責任を取る」

「ありがとうございます感謝です」

「ここにはお前を食うようなオバケはいないだろうしな」


 こそこそと話を進め、僕もベアボウに続いて風呂場へ直行する。恥ずかしいとか関係ない。ただ自分の体を清めるだけだ。そう。何ら恥じる行為はしていない!!


 行けサザナミ! ちゃんと風呂に入れ!

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