第42話 べろべろ
ラエル2は俺たちに任せておけとドラゴンに言われたので、僕はエレベーターに乗り部屋へと向かった。
あんな奴が毎日あんな様子で騒いでたらさすがに気が滅入る。だからといってずっと沈んでいても困る。うーん、触れてはいけない存在に触れてしまった気がする。
まあ僕の部屋がある階は静かすぎて足音が響くくらいだし、一旦全部忘れて休むとしよう。まだまだ試練は待ち受けているのだから。
「ただいまー……です」
一応挨拶をして部屋に入る。相変わらず超がつくほど狭い。
とりあえず風呂か。やっぱり風呂は全てを解決するというし。そうだな。疲れたままベッドに倒れ込んだら夜が明けている自信がある。
ということで、暑苦しい毛皮を脱いでしまおうとしたのだが。
「失望したよ本当に。何であんたたちはそう冷たく当たるのかな、理解しがたい。まことに。僕の耐え難い恐怖を想像しようともしないくせに。なぁ、そういう奴だったんだ、へぇ。ははは……」
これが聞こえた瞬間全身に鳥肌が立って、身動きが取れなくなって、過呼吸にさえなった。要約すると、大波乱の覚悟をしたのである。
「ほいほい、休んでるオバケもいるんだから静かにしないと」
「ああそうだね、あんたたちがちゃんとしていれば俺がこんなに荒れ狂うこともなかった。私に責任はないよ、ぜーんぶあんたたちだ」
「明日待ってるから、今日は休め」
なーんでこう、静かに休める時は訪れないのかな? そもそも何故? ラエル2がここに来たんだ? 僕に押し付ける気なんですか皆さん?
毛皮をきちんとかぶりなおし、一度深呼吸をしてドアを開ける。そして最初にかけられた言葉はこれだ。
「……誰かと思ったら君、僕のお隣さんだったのか」
やつれた苦笑いでラエル2が言った瞬間、どういう意味か理解ができなかった。
「お、おとな、え、お隣?」
いや、正しく言うならば、「理解したくなかった」が正しい。だってよく考えて見ろ、気の狂ったお兄さんが隣で暮らしているなんてこっちも気が狂う。笑い声や泣き声が聞こえてくるなんて。ねぇ?
引率係のフェアとドラゴンがどうしようもないものを見るように、憐れむように視線を僕に向ける。やめていただきたい。
「サザナミクンは気づいていなかったかもしれないけど、ラエル2の部屋はもともとここなんだよね……。最近は大人しかったんだけど……」
「何とか頑張ってくれ」
「頑張れと言われても」
絶 望 。
「ねぇもじゃもじゃくん、今夜は一杯飲まないかい? ほら、失恋エピソードでも話して暇つぶしでもしよう」
「僕は健康的な生活を送りたいので寝ますよ」
「俺夜は寝られないんだ。話し相手にもなっておくれよ」
薄闇を想起させる笑みで語りかけるラエル2。今の今までわめいていたとは思えないほど静かな声で言うものだから、これまた頭が整理できなくなる。
「ほらそう言わずに。どうせこの後君も暇だろう」
「てか僕お酒は勘弁なんですけど」
「いいのいいの。一人じゃ寂しいから」
「僕寝るんですけど?!」
ラエル2は乱暴に僕の手首を鷲掴みにし、自らの部屋に引きずり込もうとする。細身のはずなのに、とてつもない力が手首を襲う。
だめだめ、この人の部屋に入るのは危ないと僕の勘が言っている。容易に想像できるぞ。監禁されて「朝まで話を聞いておくれよ」と言われた挙句、嫌ですと言えばべろべろに酔ったラエル2に刺される未来が。
「やめてください、一生のお願いです」
「一生って、君もう死んでるでしょう? さあおいでなさいな」
ラエル2の真っ暗な部屋のドアが開かれた。地獄への入り口である。
二人とも助けてくれませんか、と言う暇があるわけもなく、今度は首根っこを掴まれて無理矢理押し込まれてしまった。
誇張でも何でもなく、目の前が真っ暗になった。部屋の明かりがついていないのもあるけど、9割は絶望だろう。
外からドアを叩く音が聞こえる。声も聞こえる。でもラエル2はご丁寧にカギをかけ、僕を監禁する。
「遠慮しないで飲みなよ。酒はたくさんあるから」
「……僕酒はアウトです……」
少なくとも朝まではラエル2に付き合うことになりそうだ。
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