四天王編
第41話 ラエル2
「馬鹿じゃないの?! ねぇ馬鹿じゃないの?! 俺の気持ち考えたことあります?! ないでしょうねぇ管理者さんたち! 管理者がみんないなくなっちゃってこのビル任される俺の気持ち!! たった一日ちょいだからって許されると思うなよ。俺の精神は二生分削られたんだからな! 一生分じゃないんだぞ! 償え! 償え! 大して強くない俺がどう敵に立ち向かえと! 償え!!!!!!!」
「……誰ですか、この人?」
夜のオバケをかき分けて管理者たちのビルに足を踏み入れると同時に、僕たちにまくし立てて来るオバケがいた。
紺色のカーディガンに白いシャツ、黒のズボンと、パッと見は人間そのものだが、肌が人間のそれよりも赤い。よくよく見ればピアスバチバチの耳も横にピンと伸びている。
そのオバケは僕と目が合うや否やクマが深い血まなこをキッと見開いて、盛大な舌打ちまでして、「誰だよお前!!!!!」と叫び散らした。
……誰なんだよお前こそ!!
「あれ……? ラエル
ラエル2、というのだろうか。その狂乱っぷりにさすがに引いたのか、フェアが恐る恐る彼に尋ねる。
「ああ言ってましたね! 言ってましたとも! 旅の間ビルとオバケたちをよろしくって! 承諾した私はどうかしていましたよええ!! こんなに怖いと思わなかった! あんたたちが旅に出た瞬間に悪いオバケに襲われたと聞いて! もうガクブル!! 生きた心地がしなかった! ……いやもう死んでたくっそおおおお!!」
耳を
「……あんま気にしなくていいぜ。コイツ、情緒不安定だからよ」
「ああ。急に笑い出したかと思えばちょっと目を離したすきにボロボロ泣いていることもある」
「ええ……」
ドラゴンやフェアが呆れるのはまだ分かるが、ベアボウにもこのテンションで若干引かれているのはなかなかレアではないか?
「……」
もはやポンカ様は何も言わない。光を失った目で暴れるラエル2を眺める。
「ええと、ラエル2は一旦落ち着こうか」
「黙れ黙れ黙れ!! ああそうやって僕を軽く見るんだ、俺の命なんてどうでもいいんだ、いや死んでるんだけど、死んでたってひとの命を雑に扱うのっておかしいんじゃないですか?! あんたらどうかしてる、まじで気が狂ってる、私が味わった恐怖を同じくらい浴びてもらわないと死にそう、死んでるんだけどねぇ、ねぇ!!」
「はい強制送還ねー」
慣れた様子でフェアがラエル2を受付の裏に移動させていく。ずっとじたばたするのをすかさず鎮めるあたり、何度もあることなのだろう。
「あの人、何者なんです?」
僕が訊くとみんなして顔をしかめるものだから、大体見当はつく。というか、もう目の前で見たから分かってはいる。
「ラエル2は結構やべぇ奴だ」
「いやそれはそうなんですけど」
「とにかくやべぇ」
「皆さんとどういう関係なのか、とか……」
「やべぇっつってんだろ馬鹿野郎!」
「……分かってるんですよぉ」
ベアボウに訊こうとしたことが間違いだった。今はラエル2のせいで常識枠になっているが、ベアボウも大概である。
「ぽ、ポンカ様、」
「ぴょぴょう」
頼みの綱のポンカ様に手をすりすりしても、聞いたことのないような声でそっぽを向かれてしまうだけ。本当に何なんだラエル2。
「ラエル2は、このビルで管理者の次に実力があるオバケだ」
次は自分の番だと悟ったのだろう、訊かなくても口を開いてくれたドラゴンには感謝しかない。このままだとラエル2が叫んで笑って泣くやばい人で終わってしまうところだった。
……う、ん?
「もしかしてあの人、滅茶苦茶に強かったりします?」
「そうだ。というか管理者と同じくらい強い」
なるほどね。そりゃあ、悪いオバケに対抗するのが管理者たちだけなわけはないよね。こんなバケモノ級が他にもいるんだきっと。
怖すぎるよこのビル!!!
「あんな奴が戦えるんですか、てかさっき大して強くないって自分で言ってませんでしたっけ?」
「……あいつは極度のヘタレだ。強いくせに、過度に敵を怖がっておかしくなっている。いつもああやって叫び散らかしたり、急にハイになったり、逆にローになることもあるな」
いやいやそれ普通に危ない人ではないのか。僕はよく今までこの人を知らないでいられたな。僕がビルにいた時はローだったんだろう。
これからゆっくりしようと思っていたのに、とんでもない爆弾に出会ってしまった……。
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