第37話 よろしく

「ぴぉ……ぴょに……」


 もっとじたばたするものかと思いきや、光を水を飲むかのようにお腹に収めてしまったのを見て、やっと「封印」の意味が理解できた。


「封印って、ポンカ様が悪いオバケを食べちゃうってことなんすね」

「ポンカ様の能力、『封印シグナトス』だな。オバケはいくらやっても死なない以上、どうしても野放しにしておけないやつに使うものだ。魔法で相手を弱らせた後に小さくまとめて一口。体内ではどうなっているのか知る由もないが、自身の力にしているらしい」


 ドラゴンがさらっと説明してくれたが、すごいことをやっておられる。みんなからポンカ様と尊敬されるのも必然と言うべきか。


 蹴りで格闘もできるし、魔法で封印もできる。ある程度は自分の望んだ能力がもらえるとはいえ(前に聞いたフェア情報)、どれだけの努力を積んできたのだろう。


「ぴょにー!」


 仕事を終えたポンカ様は、はしゃぎながら僕たちの方に駆け寄ってくる。なんだろう、すごく心に優しい。


「ポンカ様、ご苦労様です」

「ぴょ!」


 ドラゴンの労いに、警察官かのように敬礼をするポンカ様。強いし管理者の癒し系だし、欠点が見当たらな……。いや、ミルワームを食べようとするのはちょっとだな……。


 と、くだらないことを考えていれば、ポンカ様の周りにいつものメンバーが集まってきていた。


「とりあえずよぉ。ナオっていう此畜生も封印したし、あいつの呼び出したやつも消えたし、もじゃもじゃの怪我も治ったし、ライ林に用はないんじゃねぇか?」


 ぐるぐると肩を回して気だるげに言うベアボウ。


「そうだね。特に大きな気配は残ってなさそうだし、一旦安全にはなったんじゃないかな?」

「ぴょー」


 ベアボウに賛同するフェア。そして自慢げに鼻を高くするポンカ様。そんなに鼻はないけど。


「今後はライ林を過度に恐れることはしなくても良さそうだ」


 足元の落ち葉をカサカサとかき分けるドラゴン。ナオのことは遠慮なく踏みつけていたのに、今はいっちょ前に服が汚れるのを気にしているようだ。


 ……あれ、ミャルメンはどこに行ったんだろう?


「……そう、なんですけど」


 脅威が去ったことは事実だ。だけど、やっぱりもやもやする部分がある。


「何で、もう封印される直前のナオが僕を攻撃できたんでしょうか」


 ナオの実力を軽んじているわけではない。もしかしたら、ナオからしたらあの場面は隙だったのかもしれない。でもさすがにポンカ様の魔法をぶつけられて、深い傷を負わせることができるのはどうなんだろうと思う。


「ふむむ……。ナオが最後の力を振り絞って攻撃した可能性は普通にあるよね」


 最初に答えたのはフェア。小さな手をちょこんと組んで考えてくれている。


「でもあいつはよぉ、ドラゴンに穴開けられてたんだろ? それでサザナミの首やったんなら結構なやり手だぜ」

「そ、そうですよね……」


 痛みと光の中で僕の首を狙えるのは熟練の技だ。いや、褒めてるわけじゃないけど。


 ナオの実力がどれほどなのか正確に判断できないからか、会話はそこで一度途切れた。なにせあのナオだ。へらへらして本気を出していない、ということもあり得る。


 みんなして難しい顔をする中、話を再開させたのはこの男。


「ポンカ様の攻撃が終わった隙に、ナオを一時的にでも回復させた奴がいたら?」


 ドラゴンだ。



 ~???~


 ナオがやられちゃったね。まあ想定内だよ。ナオは弱くはないけど、情報を得るためのおとりのようなものだから。


 まあでも不意打ちは頑張ったんじゃないかな。もう少しでサザナミとやらが死にそうだったんだけどね、管理者は厄介だ。


 戦いは情報を多く持っていたものが勝つ。


 能力の弱みも、心の弱みも、全部握って全部利用する。


「だからよろしく頼むよ」

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