第35話 封印、血の味。
林の奥から現れたくものこは、戦場の様子を気にすることなく足取りを軽くして駆けてきた。
「ワタシ、皆さんのこと探してたんですけど、こんな大変なことになってたなんて……! ほんとにごめんなさい!」
「あぁ? さっきのクモかぁ? 今更のこのこやってきやがって」
それに気づいたベアボウは盛大に舌打ちをする。
「ぴょ……」
「ミャルメンちゃん?! 危ないからこっちに来ないで!」
ポンカ様とフェアも、まだ立ち上がってくるしぶといカタツムリ猫に一撃を食らわせるとミャルメンに声をかけた。
しかし、ミャルメンは忠告も聞かずに生身で僕たちの方に突っ込んでくる。不安そうなそぶりも見せずに。ミャルメン、君みたいな可憐な子が来る場所じゃないんだって。お願いだからどこかに隠れていてくれ!
「……ミャルメン」
ミャルメンはドラゴンの横に立ち位置を決めると、絶賛踏みつけられ中のナオに目を移した。
「このオバケさん、何か悪いことをしたんですか?」
「そうだ。こいつが恐らく一般オバケを無作為に傷つけてきた犯人。他人を傷つけ殺すことで快楽を得る、オバケの風上にも置けない奴だ」
「そうなんですね」
痛みにもがき苦しむナオの前で平然と話を進めるとは、かなり肝が据わっている。ドラゴンはもちろん、ミャルメンも。
「うううるさい! コイツが異常なだけなの! 僕は弱いわけじゃなくって、このドラゴンってやつが実力も精神もおかしいの!」
脚をじたばたさせてドラゴンを指差すナオの姿はとても見れるものではなかった。生き恥としか言いようがない。
「このオバケさん、往生際が悪いですね。さっさと負けを認めればいいのに」
「死ねたら楽だったんだろうけどな。残念だ」
「何調子乗ってるわけ?! そこの余所者のハチも! 仲間が強いからって調子乗るなよ!」
うん、ミャルメン。君はやっぱり戦場が向いているかもしれない。敵には徹底的にドライなその姿勢、きっといつか役に立つ時が来るよ。何があっても動じなさそうだもの。
「えぇと、ドラゴンさん?」
「何だサザナミ」
後ろから僕が話しかけただけでちょっと不機嫌になるの、やめてもらっていいですかね。僕にも心があって、痛むこともあるんですよ。
「ナオは、どうするんです?」
「どうするって、もう悪事をはたらけないようにするだけだが」
「あれ、オバケって死なないんでしたよね? 生かしといちゃまた被害出しますよ」
僕が言うと、ドラゴンはふう、と一息ついて声を張り上げた。
「すみませーん、ポンカ様ー。ちょっとお手伝い願えますかー」
ポンカ様? ポンカ様の蹴りでぎったんぎったんにするのか?
「ぴょにー?」
ちょうどカタツムリ猫も弱り始めてきたところで、ポンカ様はトテテテ、とドラゴンの所へ走ってきた。結構な間戦っているだろうに、体には傷一つついていない。
「ぴょにに」
何でも言え、と胸を張ってちょぴっと背伸びをする。それでもドラゴンの背には届いていないのがなんとも可愛らしい。
「こいつを封印したいんだが、いけるか?」
「!! ぴょに!」
ドラゴンの言葉にポンカ様は目をぱちくりさせ、その場でぴょんと跳ねて見せた。
「ふう、いん……。何か強そう」
思い返してみると、ポンカ様の能力は知らなかったな。とうとうここでお披露目となるんだろうか。封印。期待大です。
「遠慮しないでやっちゃってください」
「……」
ミャルメンはわくわくしているようにしか見えない。ポンカ様もここは塩対応。普通に街を歩いていれば可愛い子なのに……。
「封印なんて僕はごめんだね! この痛いのが消えるんなら嬉しいけd」
「ぴょに」
まだ喋りまくるナオの前に、ポンカ様は四本の吸盤がついた指を突き出す。
すると、ナオの周りに白い結界のようなものが現れた。ナオがいくらそれを叩き割ろうとしても、決して壊れることは無い。びくともしないのだ。
時間も経たずに、結界はナオを焼き焦がすかのように光り輝き始める。もう外からナオの姿は見えない。そこに光があるだけ。
「……て! ……け……!」
かろうじてナオの断末魔が聞こえる。その声すらかき消さんと、光は一層強くなり、目がちかちかしてくる。ポンカ様以外のオバケが見えない。
もう林の中なんて関係ない。辺り一面、真っ白な光に包まれた。
「……
そして最後のとどめ。
大きな葉っぱの傘の上で集めた別の光の塊を、猛スピードでナオに衝突させた。
ドゴオォォオォォォオォ!!!
……ライ林ごと揺さぶるような地響きが長く続いた。生きた心地がしない。
攻撃は僕に対してじゃないのに、体が蝕まれている気がするのはどうしてだろう。ポンカ様の能力が強すぎるのがいけないのか。そうだな。
「……ぴょに?」
消えていった光の中から出て来る本人は安定の無傷、と。
はあ。規格外だとは思ってたけど、まさか僕にも被害が及ぶとは。ここまでとは言わなくても、一線で戦えるようになりたいもんだ……。
「最後の最後まで、気ぃ抜かない方がいいんじゃない?」
「?!」
違和感に思わずせき込むと、生臭い血の味がした。
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