第34話 タイプ

 ドラゴンは地面に座り込んだまま、まがまがしい姿になったナオを目でとらえる。


「何の用だ」

「何のって、君が一番分かってるでしょうに」

「……」


 無言で立ち上がるドラゴン。ナオはずっとドラゴンを面白おかしそうに見つめる。


「僕たちはね、二つの命が欲しいんだ。生きのいい新鮮なやつをねぇ。あ、理由は僕にきかないでおいて? 僕はただ命を奪う……殺すこと専門だから」


 ドラゴンは何やら言いたげだが、いったん冷静に距離を確保した。いくら管理者と言えども、手負いの状態では十分に戦えない。しかもナオ、結構な強敵であろう。


 しかし、ナオは距離を詰め返さない。彼の目にはドラゴンが怯えているように映ったのか、ケタケタとよく響く声で笑い始めた。


「アッハハハ!! 潔く諦めてくれるなら手間が省けていいねぇ! ッハハ、アハハハハ!」

「……諦めるって?」

「だってお前は魂が無きゃただの人間だからねぇ! 気持ちよく殺せるのさ!」


 ナオはすっかり興奮して、喋っている間も千鳥足になっていた。きっとドラゴンを殺せると確信している。そして僕を好きなようにいたぶれると思っている。


 ……なぁ、ナオ。


 そんな舐め腐った態度を、ドラゴンが見逃すわけないだろう?


「じゃあこっちはお前を気持ちよく死なせてやるよ」



 バァァァァァンッ!!!



 鳴るはずのない音がナオの胸を貫く。そこにはぽっかり小さな穴が開き、血が水のように流れ出た。黒い着流しが、静かに染まっていく。


「……?!」


 ナオは自分の身に起こったことをまだ理解できていないようだ。目を白黒させて穴を凝視している。僕も頭が追い付いていないから無理もない。でもやっぱり、オバケはどうやっても死ねないっていうのは、可哀想な話だ。


 罪のないオバケをいくら傷つけようと、管理者が悪いオバケを成敗しようと、オバケとしてしまうのだから。


 そっとドラゴンに視線を送る。一瞬目を合わせてくれたが、すぐにそらされた。薄情な奴だ。


 それより。ドラゴンの手には現実世界でも稀によく見る(?)ものがあった。


 銃だ。


 まああれは銃声だろうな。想像はついていた。けど、これもまたドラゴンがつくりだしたのか? 龍を誘拐され、残りの魂で盾をつくり、そして銃までつくったら今度こそ死ぬ気がするんですけど。


「サザナミ、言っただろう? 俺がつくりだしたものは俺に帰ってくるようになっていると」

「……! いいい、言ってました!」

「…………クソが」


 ?!?! ドラゴンさんお口が悪うございますが!! ナオ相手に気が立ってるのは痛いほど分かるんですけど、僕仲間ですよ?


 ……まあ、ちゃんと思いだしましたから。


「盾を生成するのに使った魂が戻ってきたところに、それより消費が少ない銃をつくったというわけだな」

「やっぱりすげぇですドラゴンさん」


 ドラゴンは僕に構わなかった。向かったのは、酔いが醒めたはずなのにふらついているナオの方だ。


「撃たれた気分はどうだ? 気持ちいいだろう?」

「っはは、正直言って最悪」


 穴を押さえてはいるが、吐血までしているので意味はない。ナオが人間ならもう死んでいるだろう。


「あー、痛いなー。僕、苦痛を受ける側にはなりたくないんだけどー。ドラゴンって意外と痛めつけたいタイプ?」

「さっきまで俺たちを殺そうとウキウキしていたお前が言うな。あと俺は痛めつけたいタイプではない」

「えー、絶対首とかめちゃめちゃ噛んでくるよこの人ー」


 そうだそうだ。お前が言うな。うるさいほど笑ってたくせに、一発食らった途端にべらべら喋りやがって。その話はここでするもんじゃないだろ。


 僕の気持ちを代弁するように、ドラゴンがナオを踏みにじり始めた。それも傷の所を。


「うあっ、ね、ちょと、痛っ……いんだけど」

「……」

「ねぇ! 僕オバケなの! 君たちと違って一生苦痛を受け続けるの! だからやめっ……」


 ドラゴン、聞く耳を持たない。何度も何度もナオの体を地面に打ち付けていたぶる。次第に息も荒くなっていった。


 ……や、疲れてるからだよね。うん。酸素が欲しくなるもんね。


 痛めつけたいタイプじゃないって、言ってたもんね!!


「まじこいつっ、うあぁっ……痛いっ……!」


 うーん、ここはしばらく拷問が続くだろうから、フェアたちの応戦にでも行った方がいいだろうか。


 それなら早く行く……


「すみません! 遅れちゃって!」


 ん。この声は。

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