第31話 魂の盾

 ……僕、死んだかな。あの薄気味悪いナオとか言うオバケに殺されて。


 だって今、痛くもかゆくもないんだよ。ナオの攻撃が来たのに。目を閉じる前にちょっとだけ見えたよ、ナオの動作。何やらぶつぶつ言って、魔法でもとなえているみたいだった。


 魔法が直撃したら痛いはずなんだけどなぁ、おかしいな……。やっぱり死んじゃったのかな……。


 恐る恐る目を開ける。お花畑が広がっていても構わなかった。いや、そりゃあ生きていた方がいいけど、死んでいてもおかしくない状況だったから。


 でも、僕の予想は見事に外れていた。


「へぇー。まだそんなに力残ってたんだ、ドラゴン」


 真っ先に目に飛び込んできたのは、ほのかに光る薄緑の盾でナオの攻撃を防ぐドラゴンの後ろ姿。


 ……ナオの攻撃と言うと語弊が生じる。正しく言えば、


 ナオがあの翼竜が突っ込んでくるのを、盾で防いでいた。翼竜は僕よりも背丈が小さいのでまだ持ちこたえられている。ドラゴンが盾を持っているところなんて見たことがないけど、あれは……。


「龍以外でも即座に呼び出せるんだね。その場しのぎのものだろうけど」

「……厳密に言うと、俺の能力は龍を『呼び出すもの』ではない。力を好きなように『形作らせる能力』だ。その形がいつも龍なだけでな」


 興味深そうに話しかけるナオに、翼竜の動きを目で追いながら答えるドラゴン。


 そうか、僕の部屋で言っていたことだ。今は魂を力と言い換えていたけど。


 ドラゴン自身の魂を削って形作っている龍。戦闘に適しているから龍にしているんだろうけど、あいにく今は龍を作れるほどの魂が残っていない。


 じゃああの盾は残りの魂で……?


「ドラゴンさん! 死んじゃいますよ!」


 龍を作るには多大な魂が必要だろう。それなのにそれから別の物を作ったら、今度こそ歩けなくなる!


「そんなことを言うくらいなら加勢しろ! サザナミ!」

「!っ」


 ドラゴンはこうしている間にもじりじりと僕の方に近づいてきている。押し込まれているのだ。


 丸焦げになる寸前だったとき全く攻撃してこなかった翼竜は、鋭い爪やギザギザのクチバシでドラゴンの盾を破壊しようと猛攻を仕掛けてきている。


「……分かりました!」


 もじゃもじゃの中に隠しこんでいたナイフを素早く取り出し、それから強く握ってお願いをする。


 ナオはすごく強そう。管理者のみんなも苦戦するかもしれない。だから、僕に力を。ナオと戦えるように。管理者たちの足を引っ張らないように。


 ニセコナミと、僕の妹に近づけるように。


「よろしく頼みます! ナイフさん!」


 もちろん返答はない。あったら怖い。けど。


 意味が無かったとしても、僕が伝えたこの気持ちはいつか誰かに届くかもしれないから。


「そっちから出てきてもらって助かるぜぇナオォ! 今度こそオレの飯になってもらうかんな!」

「今度こそ丸焦げにしてやるんだから!」

「ぴょにっ、ぴょにー!」


 みんな戦闘準備は整った。ベアボウなんかはだいぶ前から準備万端だったけど。


「突撃だ」


 もじゃもじゃの僕が出せる最大スピードで走る。ドラゴンの横を通りすぎ、攻撃一筋の翼竜の所まで。


 さびたナイフは虚しくカラリと音を立てるだけだ。


 お願い、またあのどす黒くてすごそうなオーラを。オーラが出たほうが絶対に攻撃性能はいいんだ。僕の精神的にも優しいし。何より攻撃範囲も広がる。


 窮地でお祈りするのも惨めだけど、それしか敵への対抗手段がないんだ。


 プライドは捨てろ!!


「翼竜ぅぅぅ!」


 信じるからね、僕を助けてくれるって。


 ナイフを構える。


 狙うは、ガラ空きの横腹だ。





 シュル……



 シュルルルン……

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