第24話 白 身 フ ラ イ
店決めろって言われても! あなたたちの方が知ってますよね? これはいじめとしか言いようがないですよ。僕が選んだ店にケチつけたら許しませんからね。
「んー……」
戦いが終わって、フェアを探し回ったからもう体力はないに等しい。この街……ヤシブ、だっけ? どうせ目が回るくらい広いんだろうし、近くでそれっぽいところを見つけてしまおうそうしよう。
「この近くに、西洋料理店なんかあったりします?」
「ああ、それなら」
心当たりがあったのか、ドラゴンはすぐに僕たちの斜め前の店を指差した。
壁が白く塗られた、いかにも地中海沿岸にありそうな店である。これは僕の頭の中にある地理知識だが、なぜ白く塗られているのかというと。
まず、この白いのは石灰である。そんで夏とかだと日差しが強くなるので、熱を吸収しない白色で塗られているのと、ちょっとした除菌効果もあるらしい。いやあ、人類の知識ってすごいね!
「じゃああそこにしましょう!」
「うお、判断はやいなサザナミクン」
「延々と悩むよりはいいんじゃないか?」
そもそもゆだねてきたのはドラゴンなんですが。まあそれは置いておいて。
ご飯。それは、僕の生きる意味。それは、この世界で生きる希望。全ての苦行をチャラにする魔法の存在。
いざ尋常に!
「失礼します!」
五人でぞろぞろと黒い扉から中に入る。いやよく考えたら管理者がそろって店にやってくるなんて軽くパニック案件じゃないか?
「いらっしゃいませ~」
だが、黒いエプロンを着た、まるまるふわふわのハムスターオバケがさも当たり前のように出迎えてくれる。なかなかのメンタル強者だな。
落ち着いた茶色の床に白と黒を基調にした店内は、何と言うか、ものすごく安心する。天井についてるくるくるのやつ(シーリングファンってやつらしい)も見慣れたものだ。
「四……五名でよろしいですか?」
「ああ。ボックス席でたのむ」
ぬぬぬ。四名だと。多分僕が見逃されていた、というか。
この人たち、常連だな? それなら驚かないのも納得がいく。やりとりが熟練されたものなのが少しの間でも分かった。
「こちらへどうぞー」
ハムスターに案内されて、端っこにある、六人ほどが腰掛けられるボックス席に座った。うん。ふかふかでいい感じ。
僕の隣にはドラゴン、他の三人は向かいの席。
「何度か来てるんですか?」
「仕事の合間にな。こうして管理者全員で来たのは久しぶりだが、俺はときどき顔を出している」
ドラゴンは立てかけてあるメニューを取りながら言った。
「俺は……オムライスでいいか」
?!?!
お、オムライスと言ったかい? その面で、オムライスと言ったのかい?!
すました顔でワインでも飲んでそうなやつなのに。絶対オムライスって言ったよな。うん間違いない。美味しいけどね、オムライス。
「ものすごく意外であります……」
「? なんか言ったか?」
横目でキッとにらみつけるドラゴンの圧は半端ない。ニコニコされても困るけど、シンプルににらみつけられるのはもっと困る。
「ジブンはスパゲッティにするぞー」
「ぴょににー!」
フェアとポンカ様、できるだけミルワームに近い食感のやつ選んだだろ。
全く関係ないけど、お二人とも背丈が足りなくてテーブルからひょっこり顔を出してるの、絵になりますよ。ミルワーム食べなくて正解ですよ。
「オレは鹿にするぜぇ」
脚を組んだベアボウがぶっきらぼうに言う。……ベアボウがぶっきらぼう。ベアボウがべらぼうにぶっきらぼうに……。
やめておこう。
「えーベアボウお腹空いてないんじゃないのー?」
不満そうにフェアがベアボウをツンツンする。フェアのツメは小さいが、その分鋭い。
「黙れオレはすぐ腹減るんだ! 腐りきったオバケ以外の肉が食いてぇんだよ!」
「食費がかさむー」
「オレが暴走してオメェら食っちまってもいいのかよ?!」
気づけば従業員も、他の客もこちらを見ている。慣れって怖いね。ベアボウの声が大きいことを忘れかけていたんだから。
「は、はは……すみません、うちの熊が迷惑かけまして」
フェアがペコペコと頭を下げると皆食事に戻ったが、ベアボウの頭はかるくあぶられた。あ、もちろんフェアの炎で。
「もうちょっと声量抑えてよー!」
「痛っ、お前、オレの頭がツルピカになったらどうすんだ!」
「どうせすぐ生えてくるでしょー!」
すごい、大変そうだ。それしか言えない。尻尾をペンペンベアボウにぶつけて、短い手をバタバタさせて。
フェアさん、やっぱりいつ胃に穴が開くか心配すぎますって……。
でもこのやりとり、見覚えのあるものになりつつある。
さてさて自分は何を食べようかなとメニューを開いたとき。
そこに確かに見えたのは。
「白身フライ」
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