第23話 ゲテモノ食い

「フェアさん、食材買ってくるって言ってたけど」


 僕はこの世界の飲食店に行きたくてたまらないのである。普通の食事は期待してない。でもベアボウにトマトが通じたから、希望はまだある。


 あわよくば、白身フライを食べたい!! 


 ササミフライでもなく、唐揚げでもなく、白身フライを食べたい!! これは譲れない数少ない願いである!


「フェア、どこに行ったんだ?」


 おっと。先ほどのゲスいドラゴンはどこへやら。いつものクール系に戻って、僕の横に立つ。


「食べ物買ってくるらしいですけど」

「ほう。食べられるものを買ってきてくれるといいが」

「……食べられないものを買ってくる可能性もあるんです?」


 おっとおっと? 雲行きが怪しくなってきたぞ?


「フェアはトカゲ野郎だからよぉ、ミルワームでも買ってくんじゃあねぇか?」


 腕を天に突き出して伸びをしながらベアボウが言う。最後の方はあくびをしたせいでうやむやになった。腐っても吸血熊。ちらちら見える牙は鋭く大きい。


「ぴょにー! ぴょにに!」

「ほらよ。ポンカ様はカエルだから喜んでやがるが、オレたちは食いたくねぇよなぁ?」

「はいもちろんです絶対食べたくありませんあれは食べ物とはみなしません」


 み る わ ー む !


 え、ミルワームって、あのイモムシ? そうだよな。トカゲとかが食べるとこは動画で見たことあるよ? でもさ、人間が食べなきゃいけない理由はないよね。熊はワンチャンいけるよ。応援してる。でもね、僕とドラゴンはれっきとした人間!


 食べたくない!!


「フェアさんを追いましょう。まだ間に合うはずです」


 一瞬で一致団結した三人はフェアが行くであろう店に見当をつけ、片っ端からあたることにした。


 ……ポンカ様も、ほっぺを膨らませていやいやついてきていた。



 やっぱり充実してるって。おいしそうなお店がたくさんあるもん。


 洋食店が軒を連ねる異国感漂う通りに、女性らしきオバケが集う洋服屋さん。現世で見慣れたものも多いが、より古風なもの、より近未来的なもの。ありとあらゆる店がある。


 その中でミルワームを売っている店も……あるにはある。


「フェアさん!」


 街中走り回ってやっと見つけた。昔ながらの八百屋のような店に、フェアはいた。


「おー? 何でみんな揃ってここまで来たんだ?」


 やはり。八百屋では野菜が並ぶべきところに、まだ生きているうじ虫や硬そうな甲虫が売られていた。売り物だからしょうがないとは思うけど、大量に並べないで! 集合体恐怖症と虫恐怖症にダブルにきくんだ!


「理由は単純。お前を止めるためだ」


 神妙な面持ちでドラゴンが言う。


「ほえ……。ジブン、悪いことしたっけ?」

「ぴょーにっ」


 ポンカ様が激しく首を横に振る。ここまでポンカ様が強敵だと思ったことが今まであっただろうか?


「現在進行形でしとんじゃごるあぁ!」


 ベアボウの拳は既に用意されていたが、さすがにフェアを殴る気にもなれないようで、ぐぬぬと歯ぎしりをする。


「はい、あの……普通に店で食べません?」


 僕の安全と望みの為にも。白身フライの運命の為にも、ね。


「ああーなるほど……」


 三人がかりで止めにかかってようやく察したのか、フェアは手の中に収めていたミルワームのビンをもとの位置に戻した。


 いやはやこれで一安心。ゲテモノを涙目で食らう未来は消し炭になった。


「キミたち、ミルワーム嫌いだったっけ……」


 あはは、とその場を取り繕うように笑うフェア。ポンカ様は心底悲しそうな顔をしておられる。本当に食べたかったんだな……。


「嫌いも何も、あれは食うものじゃない。できて観賞用だ」

「オレはもっと食べ応えがあるもんを食いてぇんだよ。あんなチビ助をちまちま食ってられっか!」

「視界にも入れたくありませんでした」


 だよな。観賞用とか頭おかしいこと言ってる人いるけど、食べれたものじゃないよな。


 いや最近は昆虫食も大事か? 大事なのか? 


「そっかー。ちょっと残念だけど、そんじゃあレストランでも寄りますか」


 そうです! そう言ってくれることを待っていました! フェアさん、よく分かってるじゃないですか!


「俺はどこでもいいが。フェアとポンカ様は虫を食べたいだろうし、ベアボウは腹いっぱいだ」


 スーッと腕を組んだドラゴンの目が僕に向けられる。


「分かってるな? お前に任せたぞ」

「えっ。マジ、ですか……」


 これってみんなの要望を程よく満たせないと猛烈に責められるやつでは。


「任せたからな? サザナミ」


 圧しか感じられない笑みを浮かべて、ドラゴンはそう言ったのだ。














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