第22話 おしおき

 なぜ「決着がついた」などと断言できるのか。それは、


 足を引きずりながら逃げるオバケや、戦意喪失して腰を抜かすオバケ、気を失ってしまったオバケであふれていたからである。


 そしてそれらを背後にぴょこぴょこと駆けるポンカ様。


「ぴょーにお!」


 着ている薄い赤色のポンチョが揺れる。


「お前にしては頑張ったほうじゃないか」


 バリバリ上から目線で褒めてくれたのはドラゴン。ポンカ様の頭に手を置き、腕に付いた血しぶきをぺろりとなめとった。能力が使えなくて苦戦したのか、髪も袴のような服も乱れている。


「あ、あざす……」

「そのナイフ、案外手なずけられそうだな」

「手なずけるってか、協力してもらうって感じですけど」


 今はもう小さなみすぼらしいナイフに戻ってしまっている。都合よく戦いのときにどす黒いオーラが出てるけど、法則でもあったりするんだろうか。


「おらぁテメェら! こんなの雑魚中の雑魚だよなぁ?!」

「ひどい怪我をしてるのはいなさそうで何よりだぞー」


 遅れてベアボウとフェアがやってくる。不思議なほどピンピンしているのは、どちらも自分自身で体力を回復できるからに違いない。ベアボウは吸血で攻撃しつつ回復できるし、フェアはその道のプロだ。


「いやぁ美味かったぜぇ。オレにとっちゃあ豪華なディナーショーでしかなかったなぁ!」


 ベアボウがちらりとドラゴンを見ながら言う。


「あ? 何だその目は」

「何だって、オレは準備運動のつもりで戦ってたのによぉ、お前はっ……」


 そこまで言ってベアボウは後ろを向く。肩がひくひくと動いているので、笑いをこらえているのだろう。


「俺は今能力を使えないんだ! さっきサザナミも話していただろう! あの小娘に連れ去られた!」

「それにしてもだぜ? オレはほとんどのオバケぶっ飛ばしてから吸血してきたのに、お前ときたらひとり相手にも苦戦しやがってっ……プークスクス」

「おっ、俺は! 身体能力で勝負するオバケじゃないんだ! お前は殴り合いの強さが能力みたいなとこあるだろう!」

「いや~ドラゴンが言い訳するのは見てて楽しいぜぇ」


 あおり散らかすベアボウにドラゴンがしびれを切らし、


「おいベアボウ首絞めるぞ」

「おいおいおいやりすぎやりすぎ」


 首根っこを掴んで引きずりまわし始めた。体躯はベアボウの方が大きいのだが、ドラゴンがとてつもない力で離さないので、ベアボウはただあわあわしている。


「降参! こーさん! 痛ぇよおい、仲間に殺されるって、おいドラゴン!」

「いやぁ、ベアボウが命ごいするのは見てて楽しいなぁ?」


 わめくベアボウに、ドラゴンはとびきりのゲス顔であおり返した。ファン号泣不可避である。これじゃどっちもどっちだろ。もうちょっと落ち着きというものを知ろう。


「んもー、ふたりとも疲れてるくせに。ほーんと馬鹿みたい」

「ですね。体力オバケです」

「ぴょ……」


 ほら、フェアのアネキも、オールウェイズスマイルのポンカ様ですらもあきれてるぞ。いや憐れんでるぞ。


「ふたりとも!」


 フェアが口から火を噴いた。


 ……いや、比喩じゃなくて、実際に。キラキラと輝く炎は、ののしりあっているふたりのちょうど手前に着地した。フェアさん、何でも屋じゃないですか。


「あっっっ、あっつ! フェアまでオレをいじめる気かよ?!」


 ベアボウは無理矢理ドラゴンの手をほどき、ゴロゴロと回転移動した。なんだ、取っ組み合いやめようと思えばやめれたんじゃん。


「……いい気味d」

「もうやめろってのー!!」


 ドラゴンの言葉をさえぎって、フェアは大声量で叫ぶ。


「……せっかく大群の奇襲に勝ったんだし、ゆっくりしろー!」

「ぴょにー!!」


 横にいるポンカ様もできるだけ目元を険しくさせて叫ぶ。まあ、そんなに怖くないし、むしろ可愛らしいのだが。


「ぴょに! ぴょーんっ」


 ポンカ様はそれだけじゃ飽き足らず、ふたりの頭を、自慢の脚力を使って葉っぱでぺちぺちと叩きまくった。足に比べて短い両手で必死にぺちぺちしているのは、非常に。とても非常に(?)和む。


「いでで、ポンカ様よぉ、あんたもそんな奴だったんだな」

「ぴょ」

「当然ちゃあ当然か」


 さすがのドラゴンも苦笑い。なら最初から争うな!


「さてさて、サザナミクン」

「はい! 何でございましょう!」


 フェアはがらりと表情を変え、嬉々としながら話しかけてきた。


「ちょうどお昼だし、ご飯でも用意しちゃわない?」


 ごごごごご、ご飯! ご飯! だと! 何だそれは僕が一番楽しみにしていたことではないか?!


「そういや。お腹すきましたね」

「おい! オレ腹すいてねぇぞ!」

「黙れーベアボウー」


 そうか。ベアボウは血を吸いまくって満腹なのか。それにしても、態度の差がありすぎて風邪ひきそう。


「よしよし。そうと決まれば早速だねー。ジブン、食材買ってくるぞ!」


 フェアは結晶のようにきらめく目をさらにピカピカに輝かせて、レンガ道を歩いて行った。


 戦っていて気づかなかったけど、ここはビルの目の前。道は舗装されてるし、おしゃれな街灯もあるし、もう少し歩けば民家や飲食店だってある。


 だいぶ迷惑かけちゃったな。危害が一般オバケに及んでなければいいけど。






























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