第20話 操りタヌキ
ベアボウはドロドロを吹っ飛ばすと、すぐさま別のオバケのところに向かって行った。
僕の、戦い方……。直接斬らないのがいいな。悪いオバケと言えど、死ぬ直前までいためつけたいわけじゃない。悪さするのをやめてくれればいいんだ。
「ね、ねぇ、君、管理者……?」
「?!」
死角から声をかけられた。
「えっ? え、いや、違う、けど」
「そうなんだ……。でもあの人たち、管理者でしょ?」
タヌキのオバケだった。小さな葉っぱを頭の上に乗せている。見覚えがないからきっと敵なのだろうが、襲ってくる気配はない。というより、何かに怯えているような様子だった。
タヌキは次々と指をさして話しだす。
「あれはドラゴンさん。今はかぶりものをしてないみたいだけど、髪で分かった。普通のオバケにも優しいんだ」
「へぇ。あのドラゴンが」
「たまにファンサしてるの見る」
現在ドラゴンは体一つで殴り合い蹴り合い中だ。龍を呼び出せないのはかなり痛手。
それにしてもファンサ、か。ウインクでもしてやるだけで立派にファンサ扱いされるんだろうな。これだから顔がいいのはだめだ。
「キラキラしてるトカゲみたいなのはフェアさん。あまり戦いの場には出てこないけど、回復はピカイチ。魔法も使えるらしいし、きっと頼れるんだろうな」
フェアに視線を移すと、きらびやかな光を発しているところだった。太陽光と匹敵するくらいまぶしい。直視なんてできない。
ただ、周りのオバケがバッタバッタ倒れていくのだけ確認できた。あれが魔法か。あとで詳しくきこう。
頼れますね。ドラゴンとベアボウをまとめあげるアネキみたいな感じですから。
「あのカチコミ隊長はベアボウさん。見た目とか言動は荒っぽいけど、人格者。敵として対峙しても、すごいオバケだって思っちゃうよね」
ベアボウは流れ作業のように腹パンをかましていく。拳が通らなければ脚で、それもしのがれたら噛みついて吸血タイムだ。
血を吸われたオバケはへなへなと地面に座り込んでしまう。
「それで、オバケの山をつくっているのがポンカ様」
ちらちら視界には入っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
ポンカ様に挑むオバケが次々と蹴られ、気絶し、自然と山をつくっていく。そのてっぺんで無邪気に跳ねるポンカ様は、敵からだと悪魔にしか見えないだろう。
「すごいなぁ……。他の管理者と比べても圧倒的。強めのオバケでもまばたきしたら終わってるんだもん」
タヌキはうっとりとポンカ様を見つめる。強さに飢えた目だった。
「何でそんなに知ってるのか気になるけどさ。それより君、僕に攻撃してこないの?」
なぜ戦場で敵に話をするのか。心臓突き刺されてお亡くなりかもしれないのに。
「た、確かにボクは、君の敵だけど……」
タヌキは常にきょろきょろと警戒していて、落ち着きがない。誰かに追われているのか? 脅しか?
「ほんとは戦いなんかしたくないんだ」
「じゃあ何でここにいるの? 狙いは管理者じゃないわけ?」
「えー、えーと……」
まだ気は抜けない。油断させてから狩る作戦かもしれないから。まあおどおどしてるのは理由がありそうだけど。
「ボクは、戦わされて……!」
その時、タヌキの目が変わった。一瞬眼球がぐるりと上を向き、白目をむいたのだ。
「た、タヌキくん?」
予想通り、答えは返ってこない。
明らかに雰囲気が変わった。
それこそ、誰かに操られているような……。
「ボクは、現世にいる母さんに会いたい」
タヌキは打って変わって、つらつらと話し始める。
「あの人の為にも、戦わないと……」
ゆっくりと距離を詰められる。また斬るのも嫌だ。操られているのなら尚更。でも他の管理者たちに迷惑をかけるわけにはいかない。
「僕だけの、戦い方……」
手汗で落としかけたナイフを握りしめる。考えろ。
考えろ、僕。
「死ねよ、お前」
その言葉と共に、タヌキの姿が消えた。ニセコナミと同じような能力なのか?
前を見ても、後ろを見ても、タヌキの姿はない。ナイフを一周回してみても、空気がうごめくだけだった。
「どこ行ったんだ?」
見えないと気を付けようがないし、背後なんて関係ない。急に攻撃されたら、真正面だって大怪我する。
そもそも相手がベアボウだったとはいえ、見えていても勝てない僕だぞ。見えなきゃ勝機はないんじゃ。
「……? あれって」
ぐるっと360度見渡していると、遠くから僕めがけて飛んでくるものがあった。あれは、電柱?
いや動体視力を酷使してよく見ろ。電柱の先、見たことある葉っぱがついている。
「タヌキってことは、あれに化けてるのか? あーもうわけわかんない!」
僕の脳がこの短時間で導き出した結論を信じよう。タヌキは消えた。代わりに電柱が猛スピードでこっちに来ている。葉っぱもついている。
よし、あいつはタヌキだ! 間違いない!! いや絶対!!
どうせ電柱なんか斬れるわけがない。ここでベアボウもいっていたモワモワを試す。
「ナイフ、とりあえず前みたいの! お願いします!」
敬う気持ちを忘れてはいけない。ナイフにだって命があるかもしれないしね!
「うぉらあああああ!」
シュ……ルン!!
僕の腕力を限界まで使って虚空にナイフで円を描き、赤い煙を発生させる。よし、ここまでは上出来。
僕の姿は外から完全に見えなくなっただろう。ベアボウとやった時も見つけられるまで結構なタイムラグがあった。
いつの間にか、ナイフはあの黒いような赤いようなオーラをまとっていた。オーラをまとったから煙がでたのか。とにかく、オーラでも攻撃できるようになった。刀身が伸びた部分は実体がないから、斬った感触もない。
僕の方からもタヌキの姿は見えないので、電柱が見えた方向にひた走る。こういうところ、ちょっと不便だ。
「?! イタチか?」
向かっている方から声が聞こえる。イタチのナイフらしいけど……。僕はイタチじゃないよ? にんげ……。もじゃもじゃだ!
「なんでイタチの気配が?」
どうやらうろたえているようだ。どうぞそのままでお待ちを。
ちょっと痛いかもしれないけど、操られているのは辛いから!
「僕はぁ!」
僕の意思をくみ取ってくれたのか、フッと煙が晴れていった。ああやっぱり命ってあるんだね!
意外と目の前に電柱現る。なあに、斬るわけじゃない。ちょっとやけどさせるだけだ。
ビビんなって!
「イタチじゃなくて、もじゃもじゃです!」
風の抵抗なんか関係なく、電柱を切り捨てるイメージでナイフを回した。
それだけだった。
本当に、それだけ。
「……」
オーラが触れた部分から、まやかしの電柱が溶けていく。まずはペりぺりとはがれて、終わりの方にはぐちゃぐちゃになって崩れてしまった。
途中で声が聞こえたような。
まあ、気のせいか。
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