第18話 出待ち

 待った待った、猶予をください、お願いですから! 僕たち今冒険始めようとしたばかりなんです!!



 ……これは数時間前にさかのぼる。


 ドラゴンと話した後、ちゃちゃっと準備を済ませた僕たちは再度受付に集まった。強者ぞろいの管理者(ポンカ様はまだ来ていないが)の中に新人オバケがいるのだから、驚かれるのは分かっていたことだが。



「ぎえぇ?! 新人クン、一体どうしてここにいるの?!」


 フェアがひっくりかえりそうな勢いでオーバーリアクションするのだから、たまったもんじゃない。


「僕、とある事情がありまして、同行させてもらうことにしました……」

「いやいやいやいや! 危険すぎるでしょ?! ポンカ様も認める凶悪なんだぞ?」


 そうだろうな。他から見れば命知らずな生意気オバケだ。ドラゴンとはニセコナミを追う目的でついて行くと話していたが、知らないフェアにはどう説明したらいいか。


「あー! どうせキミたちがそそのかしたんだろー? ドラゴン! ベアボウ!」


 フェアは真っ先に二人を疑った。違うんです。あくまで僕の意思です。僕もできることなら参加したくありませんでした。死にたくないし!


「はぁ?! 違ぇよ! オレはただ訓練つけてやっただけだ! トマトを食えるとか言う貧弱能力だったから!」

「俺もそそのかしてはいないな。話を聞いただけだ」

「んもー、さすがに確信犯って感じー」


 フェアは頬を膨らませてぷんすか怒ってしまった。やはりドラゴンとベアボウ、なかなかの癖強認識らしい。今は真っ当な事実を言っているけど。


 フェアさん、胃に穴が開かないようにどうかお気を付けて……。


「いや、お二人が言っていることは正しくてですね」

「そうだぜぇフェア! 本人が言ってんだからよぉ、話聞いてやってもいいんじゃあねぇか?」

「情報共有は大事だぞ」


 僕のあとにどんどんと言葉が付け足されていく。もう仲がいいんだか悪いんだか分かんないよ、この二人。


「むー。いいぞ。サザナミクンの話は聞いてあげる。でもー! キミたち二人はこれからも要監視だからなー」


 フェアはしぶしぶ言葉を絞り出す。それを見たベアボウが勝ち誇ったかのようににやにやと笑う。ドラゴンは安定の無視。


 まあ、楽しそうで何より。


 そんで、フェアと、一応ベアボウにも、ニセコナミのことについて起こったこと、それを追うために(一応)訓練を受けてナイフをもらったことをそっくりそのまま伝えた。今思い返しても不思議なものだ。あんな巨大な龍が一瞬で消えるとは。


「うえぇ?! ってことは、サザナミクン、キミ悪いオバケに狙われてる?!」

「そうらしいんですよね……」

「オレ、何も知らねぇで勝手に特訓してたぜ……」


 一気に管理者たちの表情がくもった。悪いオバケの話が出てきたのはもちろん、ドラゴン合戦を体験した皆さんだ。察しはつくのだろう。


「多分、『アイツ』だ」


 ドラゴンが声を低く滑らせるように言う。


「りょーかい。またあのコと戦うかもなんだね」

「アイツだと話が変わってくんだよなぁ」


 管理者の反応がこれです。僕はこれから生きていけるか非常に不安になってきました。


 僕だってニセコナミの異常さは何となくだけど理解している。何を考えているかつかみづらい。でも確実に人間を狙っている。僕の最大の敵。


「ぴょに?」


 こ、このふわふわした声は。


『ポンカ様!』

「ぴょにー!」


 ポンカ様がエレベーターから駆け足でやって来たと同時に、一気に雰囲気が軽くなった。ある意味ムードメーカーなうえ、最強なのだから、安定感抜群である。


「突然ですみません、オバケ退治にこの新人クンも参加することになったのですが……」


 フェアはすかさず報告する。報連相が一番できるのは間違いなくフェアだろう。


「ぴょ」

「あ、えーと」


 しかし、ポンカ様は驚くことなく目をぱちぱちさせた。まるでこのことを知っていたかのように。


「いいってことで、よろしいでしょうか?」

「ぴょー? ぴょに!」


 ポンカ様は嬉しそうに飛び跳ねる。ポンカ様くらいの実力になると何を話していたかくらいは分かるようになるのか、そういう能力なのか。どちらにしろ、ポンカ様に承諾はされたようだ。


「んじゃあ全員そろったことだし、早速行くか?」


 ドラゴンの問いかけに、みんなで目配せをする。


「おいお前ら、オレの合図で『レッツゴー』って言えよ。その方が始まり感があるからな」

「えー、ダサいよー。こういうのは個人で区切りつけるもんじゃないのー?」

「ぴょにお!」

「お前らしくていいんじゃないか」

「僕はオッケーです」


 みんなの声が飛び交う。怖い。怖いけど、ちょっと楽しみな僕がいるのも、本当。


 ベアボウは拳を突き上げて、息をいっぱいに吸う。


「行くぞぉぉぉぉぉお前らあああぁぁぁぁああぁぁぁぁ!」



『レッツゴー!!!!!』



 ……ということがあったんですが。


 僕たちが出発する頃を見計らっていたのか、ビルから出た瞬間にオバケたちに包囲されました。はい。


 特に統一性はないから、寄せ集められた戦力なんだろう。まずは第一試練だ。


「わざわざここまで来てくれたのか」

「思ってた以上にこっちのこと知られてる……?」


 それぞれが目の前のオバケに集中する。空気が変わるのを肌で感じた。さらに、


「ぴょにー!!」


 ポンカ様の声に重ねて、オバケが倒れる音がした。


 少し目をそらすと、僕が見ぬ間にウサギのオバケがポンカ様に蹴り倒されていたのだ。もはや恐怖。


「おらぁ! これがオレらの大将ポンカ様だぜぇ! かかってこいやぁ!」


 とにかくお荷物にならない! ここテストに出る!


 戦闘、開始!



























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