第15話 ドラゴン合戦
「イタチって、その……。悪いオバケだったり?」
「そうなるだろうけどな。オレら管理者にケンカを売ったやつぁ皆悪いオバケだ」
いきなり出てきたイタチと呼ばれるオバケ。ニセコナミはどう考えてもイタチにはならないから、きっと別の存在だ。
「でもポンカ様って、管理者のトップなんですよね。それに匹敵するほどの強さって、想像がつかないんですけど」
ベアボウもうむむ、と頭を抱える。
「見ないと分かんねぇだろうな。あんな地獄絵図、もうたくさんだ」
ベアボウはイタチを見たことがあるのか。話しぶりからして相当な戦いだったらしいが。気になるぞ。このナイフを持ってしまった以上。
「ん。お前、いかにも『話してくださいお願いします』って言いたそうな目じゃねぇか」
「うぎゃ。思い出したくない事ならいいんです、僕はそこのところきちんと理解しているつもりですから」
「……いいんだ。オレが話し始めたことだしよぉ。これからオバケ退治に行くわけだ。これは知っとかねぇと。ただ」
何かを言いかけると、ベアボウはキッと鋭い目を向け拳を引いた。
「一回そのナイフで戦ってみろ。お前の様子を見る限り、皮膚がただれているわけでも精神的にやられているわけでもなさそうだ。これは地味にすげぇことだぜ? クソ強ぇ奴に勝ってるってことだからよぉ」
えええええ。また無茶な試練を。僕に謎の耐性があるだけかもしれないじゃないですか! また殴られまくるのは嫌ですよ!
「お前はただのお荷物じゃなくなるかもしれねぇ。言い換えれば一線で戦えるかもなんだぜ? お荷物と戦力、どっちがいいんだぁ?」
「……そりゃあ、戦力になりたいですけど」
「だよな?! そう言ってくれると信じてたぜもじゃもじゃ!」
かっぴらかれた目で
「僕が言えることじゃないですけど、ほんとに気を付けてください。ナイフ」
「お前に言われる筋合いはねぇぜ! じゃんじゃん来いってんだぁ!」
「……はい」
そうは言っても不安なので、何度かナイフに空を切らせてみる。どす黒いオーラがピリリリ、と線を描いた。
絶対に触れちゃいけないやつだよこれ……。
「なんだなんだぁ?! チキってんのかぁ?」
「今行きま」
せかされ慌ててベアボウを見ると、待ちきれなかったのか、すでに僕に突っ込み始めていた。
「?! はっやややy、早くないですか?!」
「お前がのろのろしてるからだろうがぁ!」
こうなっちゃあ僕もやるしかない。一歩踏み出し、刀身の伸びたナイフをぐるりと回す。
そのとたん、辺り一面に血の色をした煙が立ち込めた。ベアボウが見えない。また後ろを取られて負けるぞ……!
「4年前! オレはいつものようにチュウチュウしまくっていた!」
「……はい?」
煙に巻かれてベアボウの声がどこからか聞こえてくる。
「そん時はもう管理者だったなぁ。メンツもドラゴン以外は今とおんなじだ。悪いことをしでかしたオバケを懲らしめてはまた懲らしめる毎日。正直つまんなかったぜぇ!」
煙はさらに濃くなり、位置の把握は不可能だ。全方位を見渡してナイフを胸に構えておく。
「だがなぁ! そこに日常ブレイカーが現れた! 名前は教えてくれなかったなぁ、でもピンクの髪した人間にそっくりだった。そいつぁたくさんのオバケを連れてひとりの龍の革をかぶったオバケをいじめてなぁ」
「龍?! ドラゴンさんですか?!」
「そうだ! お前天才か?」
僕だって馬鹿じゃないですから。はい。そのドラゴンをいじめたオバケもニセコナミでしょう。僕は知っている……。
……ああ、だからドラゴンはニセコナミに当たりが強かったのか。いやあれでも大分冷静を装っていたんだろうな。クール系キャラで通している奴だし。てかドラゴンの前にのこのこと出てくるニセコナミ、何考えてるんだ?
「いつもと同じく成敗してやろうと思ったんだけどよ、そのピンク色の奴にまでたどり着けなかったんだ。部下の奴らがめちゃめちゃ強くてな。そのひとりがイタチ」
「……」
僕が扱える物じゃないって本当に。ポンカ様とかが持った方が絶対いいって。僕が持つには重すぎる。
「ポンカ様がイタチやその他もろもろのオバケを何とか倒して、結果的には勝った訳だが、鬼しんどかったのはあれが最初で最後だな。それくらいやべぇ戦いだった。オレはそれを、『ドラゴン合戦』って勝手に呼んでる。名前を付けねぇと納得できねぇ酷さだったからな」
「どっ、ドラゴン合戦」
名前のセンスはともかく、カオスな戦いだったのは理解できた。そして、なぜドラゴンが狙われたのかも。
人間だから。
それだけのことだ。
ニセコナミはドラゴンと僕に寄ってきた。どっちも人間だから。
この世界に来て隙だらけの人間を標的にしているのだろう。
「んでドラゴン合戦でイタチが落としたナイフを、念のため拾っといたわけだ」
と、さっきよりも近くから声が聞こえた。
「話してばっかで悪いけどよぉ、後ろ、気を付けといたほうがいいぜ?」
すでに、後ろを取られていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます