悪いオバケ退治
第13話 ひみつのナイフ
あの後、僕たちは一旦それぞれの部屋に戻り、「悪いオバケ退治」の準備を始めた。
いやいやお前、何で管理者の中に平然といるんだよと思ったそこのあなた。僕はオバケ退治が目的ではありません。あくまで目的はオクリさんの弟さんを見つけること、そして妹と会うことです。
そして、昨日僕とドラゴンの前に現れた人。僕の妹の名前、「コナミ」と名乗っていましたが、兄妹愛をなめるなという感じですね。あいつはコナミじゃありません。「ニセコナミ」と呼ばせてもらいましょう。
そいつはドラゴンさんの大切な龍を奪って行き、消えてしまったと。
これでニセコナミを、悪いオバケを追わない理由があるかと! そう思うわけです僕は!
「僕、流されて準備しちゃってるんですけど、結構無鉄砲ですよね」
「正直、足手まといになりかねんな」
「ですよねー」
防寒具や非常食をドラゴンにもらったカバンに詰め込んでいたのだが、僕は現実に気づいてしまった。
部屋で一緒に準備をしていたドラゴンにも太鼓判を押されたし。
管理者はドラゴン以外オバケなわけで。能力が備わっているわけで。ドラゴンも魂を削っていい感じにやれるわけで。
じゃあ能力を持たない僕の存在意義イズ何……?
「だが、あの小娘はお前に興味があるんだろう? 行かないと解決しないと思うが」
「そうなんですよおおおー! 僕に能力さえあれば喜んで同行するんですけど!!」
頼みの綱の霊感も無いに等しい僕は一体どうしたらいいというのか! うわああ悩ましい! そう簡単に行かないってこったな!
そもそも僕の身体能力で悪いオバケに太刀打ちできるものなのか? 管理者が警戒するほどって、かなりヤバめなんだよなきっと。
ちゃんと体育真面目にやっておけばよかったー!! 最低限の運動しかしていなかった罰がここに来て下されるとは……!!
くそおおおぉぉおおぉ
「お前、もしかして諦めかけているのか?」
ドラゴンの顔を見る。
「だって、これから能力をつけようったって手遅れじゃないですか」
ドラゴンは小難しいことして戦えて凄いですねー、と思考停止していたその時。
「ぬぁんだってええぇぇ! オレが叫んでたこと、聞こえてただろもじゃもじゃ!」
「ひええええ」
ベアボウが扉を殴り開けてきた。と、扉が、めきょめきょになっておられます……。
「な、何なんですか急に……」
「だーかーら! 『訓練』だ! ビルに住んでいるからにはこの世界で生きる術を身につけてもらわねぇとな!」
ベアボウは恐ろしいほどいびつな笑顔で力強くガッツポーズをする。しごきたおされる予感しかしない。でも覚えている。訓練ってなんぞやと思っていたこと。
「俺も言ったぞ。死ぬほど頑張れば能力を持てるかも、とな」
そうだそうだ。さすがに冗談だと思うでしょう? 思ったんですよ。僕は。まさか本当に死ぬほど頑張ることになるなんて、想像もしなかったんですよ。
待ってくれ。ドラゴン、何で爽やかな笑みを僕に向けているんだ。一貫してぶっきらぼうだったくせに。やっぱりあんたは人の不幸を喜ぶ人だったのか。僕悲しいよ。
「おらぁ! そうと決まれば訓練場に来い! ……つっても来ねぇだろうからオレが連れてく! ちゃっちゃと歩けよもじゃもじゃ!」
「いや全然決まってな」
「あぁ? なんか言ったか?」
ものすごい目力でにらまれ、衝動的に出た言葉は、
「……努力、します」
僕の部屋がある5階から1階上がると、エレベーターからでもその光景が嫌でも目に映った。
クソデカダンベル。ランニングマシン。エアロバイク。
典型的なジムだ。
「僕これからこれをやるんですか……?」
「んー。能力の方向性にもよるけどな。とりあえず中に入れ」
ジムの中に入ってみると、何人か訓練をしているオバケがいた。
一心不乱にランニングマシンに向き合っているオバケ、疲れ果てて死にそうになっているオバケ(一回死んでいるのだが)、そして奥の方で何か見慣れない動きをしているオバケ。
えらいこっちゃ……。
ベアボウはエアロバイクに腰掛けて話し始めた。
「おうよ! ここが訓練場だ! 見たら分かるが、自分を鍛えるとこだな。今オレたちがいるとこは純粋に身体能力を育てる場所。時間をかけないと成果は出ねぇが、その分価値のあるものだぜ。そんでー、お前が行くのはあっちだ」
ベアボウが指をさした先は、ちょっとだけ見た奥のスペース。とりあえず心を無にして筋トレするルートは回避できた。のか?
「あそこって」
「オレが説明してやっからよ! あそこはあれだ。本格的に能力を強化するところだ」
「お、おお」
それっぽい話が出てきたぞ。
「オレたち管理者も、のほほんとして強くなったわけじゃねぇ。ほら、お前も能力持ってるだろ?」
「あ、えっと……」
しまった。ここのオバケはどんな些細なものでも能力を授かっているんだった。死んでしまった代わりに。
僕まだ生きてるんだよなー……。
「んだよ、もじもじしやがって。もしかしてオレに言えないくらいしょぼい能力なのか?」
……そうだ。外から見て分からない能力を持っていることにすればいいんだ。そうすれば特別なことができなくても乗り切れるはず。
「しょ、しょぼいの定義って……」
「あん? 自分のIQが分かるとか、食べ物が全部美味しく感じるーとかか?」
よしよし。その能力があるならいけるぞ!
頑張れサザナミ! 嘘をつけ!
「僕は! トマトを食べられる能力を持っています!!」
ジム中に僕の声が響き渡り、静かになった。
気まずい。気まずすぎる。
「……マジか」
ベアボウもこの反応である。
「すっ、すみません、僕死ぬ前はトマトを食べられなくて、食べられますようにって思ってたら、こうなってしまって」
「……そうか。クソもいらない能力だな」
「酷いこと言わないでください」
さすがに自分でも役に立たない能力だと思った。自覚はある。でも疑われないことが第一。
たとえ管理者は味方だとしても、いつ豹変するか分からないから。
「んじゃあ」
ドゴォォォォォォォォォッ!!!
「?!?!?!」
突き飛ばされた?! ここは……。
「オレといっちょやってみるか? 能力がダメダメなら道具を使ってみるのも手だからなぁ」
あれ、僕、能力強化場の、壁にめり込んで、
「や、やる、って」
「何びびってんだぁ? オレと勝負すんだよ! でも一方的にいじめたりはしねぇ! オレは優しいからなぁ」
ベアボウはへにょへにょになった僕を乱暴に抱えて、これまた乱雑に立たせた。
痛い。口の中が切れた。
「ほらよぉ! すげぇナイフやるぜ! 激つよな能力が込められてるらしいから気を付けろよ!」
と、僕に小さな小刀を渡してきた。
が、それは見るからに僕が使うようなものではなかった。
赤いさびが全体にあり、血の跡のようなものもこびりついている。
「これどこから持ってきたんですか!?」
「ちんたらしてんじゃねぇ! 今のお前じゃそれくらい使わねぇとオレに勝てねぇってこったぁ!」
そうかもだけど! 僕怖いですよ使うの!
「おらあぁ! 道具の練習だと思ってやれよ!」
僕の悲痛な叫びは届かない。まあいい。今はベアボウさんに殺されないようにだけ気を付けよう。嫌なナイフは後だ。
「でっ、出来る限り! 全力をっ! 尽くします!!」
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