第12話 管理者、集合。

 フェアはやる気満々だが、僕の頭の中には結構な量のはてながある。


「水を差すようで悪いんですけどー……。フェアさんの言っている脅威や、さっき部屋にやって来たベアボウさんが言っていた悪いオバケって、どういう存在なんでしょうか」

「あ、そうか。新人クンはまだ会ってないかもね」


 僕多分会ってるんですけど。よくないオーラを感じましたからね。何よりロン、だっけ? ドラゴンの愛龍の誘拐犯ですからね。あのニセコナミ……。妹のふりしやがって。


 フェアは尻尾にベールをくるくると巻きつけながら話し始める。


「死後の世界だから、どうせなら楽しく安全に暮らしたいって思うじゃない? でもね、やっぱり『生』をあきらめきれないオバケがいるの」

「ぴょに……」


 そうだそうだと言わんばかりにポンカ様もうなずく。


「そーいうオバケはね、んだよ」


 ……え?


「あーあー、勘違いしないでほしいんだけど、ジブンがその様子を見たわけじゃないんだ!」

「別に僕フェアさんを疑ってはないですけど……」


 じゃあ、僕をここに連れてきたオバケも悪いオバケってことなのか? 背後を取られたせいで姿は見えなかったけど。


 そういやオクリさんも連れ去られるうんぬん言ってた気がする。


「でもね、ちゃんと証拠はあるよ。毎年この世界にいるオバケの情報を整理してるんだけど。ほんの少し、いなくなっているオバケがいるんだ」

「? なぜそれが人間を連れ込んでいる証拠に?」

「サザナミクン、少し考えてみれば分かることだぞ」


 フェアは飲み干したことを忘れて紅茶を飲もうとしたが、大口を開けたところでそれに気づき、顔を赤らめて大きな咳払いをした。


「うぉっほん! オバケはここに来たらここで一生暮らす! 本来は現世に戻れるわけがないんだ。じゃあ何でいなくなるオバケがいるのか。それは! 人間を自分たちが生活できる世界まで連れてきて、その命を食らっているから!」

「命を、食らう……」


 人食いオバケと呼ばれるゆえんだろう。ドラゴンも、オクリさんも言っていた。


 僕は食らうために連れて来られた獲物なんだ。


「うん。命を食べて取り戻せば、現世に戻ることができる。でも当たり前に食われた人間は死ぬ。だから、多くのオバケは生きることを望んでいるけど、それを実行はしない。命を奪うわけだからね」

「それをやってしまうのが悪いオバケ、なわけですか……」

「そうだね。オバケは未練があるなら少しの間現世に顔を出せるけど、そのことを悪用しちゃうオバケがいるんだなーこれが」


 フェアはやれやれと首を横に振る。


「ぴょにおーん!」


 せかすようにポンカ様がぴょこぴょこ跳ねた。このポンカ様は何でマスコット感を出していながら管理者の頂点なんだ? 戦っているところを見てみたいものだ。


「あー、ごめんよー。説明、長いくせに分かりにくくなっちゃった。まあ、人間を殺してるオバケが悪いやつって思っとけばいいよー」


 ん。


 ちょっと待てよ。ずっと僕、管理者に怯えながら過ごしてきたけど。


「フェアさんたちは、人間の味方、ってことですか?」


 怖かった。「ジブンもほんとは食べたいよー」なんて言われたら泣いてしまうかもしれない。ドラゴンだけが味方だと心強いと言い切れないし、ここで寝泊まりするわけだし。


 でも、フェアはニッコニコの笑顔を向けてくれた。


「そーだよ! ジブンらももとは人間だったわけだし、理不尽に命を奪われるのは耐えられないからねー。ま、そう言ってるジブンも恐れられるオバケなわけだけど」

「あ、ああ……。神様ぁ……!」


 わりと真面目にフェアが神様に見えた。やっぱり管理者、そんじょそこらのオバケとは考えが違う……! そうだよね、オバケももともと人間だったんだもんね……! ああ本当に輝いておられます……!


「なっ、なになにー! ジブンは当たり前のことを言ったまでだぞー?」

「当たり前のことがどんだけ嬉しいと思ってるんすか……! 本当にありがとうございます……! ありがとう……!」


 もじゃもじゃのせいで顔は見えていないと思いますが、僕今泣きそうです。フェアさん愛してます。一緒ついて行きます。


「おいおいぃー! そこのもじゃもじゃ! 勝手に部屋を出るとはいい度胸だなぁおい!」


 あ、こ、この声は。


「サザナミ! すまなかった! ベアボウがうるさかったんだよな。俺がきちんとしないから」


 この微妙にずれている声は。


「おお! ドラゴンにベアボウ! 来たんだな」

「ぴょにー!」


 エレベーターからおりて、二人が猛スピードでやってくる。いやいやさっきまで取っ組み合い続いてたのか。


 受付に着いて早々、ベアボウは大声をあげた。大体想像はつくが。


「げぇっ?! ポンカ様?!」

「ぴょ!」


 ポンカ様はベアボウの大声にも動じずに気さくな挨拶をかわす。小柄なカエルに驚くガタイのいい熊の構図はなぜだかじわじわくる。


「ポンカ様……夢か?」


 ドラゴンも何度も目をこすって現実かを確かめている。分かっていたことだけど、どんだけポンカ様外出てないんだ。もうちょっと外に出たら気分もよくなると思いますよ?


「ぴょに! ぴょおん!」

「本物のポンカ様だぞー。悪いオバケの気配を感じてここまで来てもらったんだ」

「悪いオバケ……」


 ドラゴンは悟ったようにうつむいた。僕と同じオバケを頭に浮かべているのだろう。


「悪いオバケか。そりゃあオレの格好の獲物じゃねぇかよぉ」


 ベアボウはぐるんぐるんと腕を回す。チュウチュウすることしか考えていないらしい。


「ベアボウー。なめてるとぶっ潰されるぞー」

「そうだぞ。お前は能力を持て余してるからな。その心構えのせいで」

「ぴょにっ」


 ポンカ様までご丁寧に忠告をした。ベアボウに対する当たりがみなさん強い。


「チッ、お前らオレの力を侮るなってんだ! 見てろよ! オレがぜってぇ悪いオバケとやらをぶっ潰すからよ!」


 ガハハハと豪快に笑うベアボウさんの声がエントランスに響き渡った。



 ~次回~


 戦闘、開始……?









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