第11話 かわいいイタチ
「ぴょに! ぴょおん!」
ポンカ様と呼ばれたカエルのオバケは、ただ無邪気に跳ねる。絶句しているフェアのことは気にせずに、楽しそうに跳ねる。
ポンカ様って、ドラゴンとベアボウが言い争ってた時の。
「ポンカ様が表に出て来るなんて珍しい……。何かあったんですか?」
「ぴょ?」
フェアほどの実力者がここまで驚くって、このポンカ様とやらはどれだけ引きこもっていたんだ? 上の立場のオバケなのは察するが。
「あ、昨日の新人クン! もしかしてポンカ様と一緒に来たのー?」
微妙な距離感で突っ立っている僕に気づいたフェアは、興奮気味に僕に話しかけた。
「そうなんですけど、そのポンカ様って……」
「んもードラゴン! ポンカ様の紹介もしないなんてどうかしてるんじゃない?! 新人クン! こっちに来て!」
「あ、はい……」
ペコペコ頭を下げつつフェアのいる受付に行く。
「来たね! ……コホン。失礼ながらご紹介させていただきます。この方、ポンカ様は管理者の中でも別格! つまりめちゃ強い! 管理者のまとめ役なのです!」
フェアは短い手をバタバタと猛烈に動かして、目をめいっぱいに輝かせた。気のせいかもしれないが、ベールがより鮮やかになっているとさえ感じる。
「ぴょにおー!」
めちゃ強いポンカ様は肩書きを盾にすることも無く、ご機嫌な様子で僕の顔をそっとのぞいた。
正直に言おう。めちゃめちゃキュートだ。性別はどっちなのかはっきりしない。でもどちらにしろベリーキュートだ。
僕が思っていたカエルの色ではなかった。緑色か茶色だろうとふんでいたのだが、どうやらアルビノらしい。赤みがかった白い体に、それよりもいくらか濃い大きな目が僕を見つめている。
アルビノは日光に弱いと聞いたことがある。だから葉っぱで体を隠していたのか。屋内でも徹底していらっしゃる。
「多分新人クンは分かってるね。ポンカ様はもともと色素が薄いアルビノってやつなんだ。だから、素肌をさらしてちゃ外にはもちろん、屋内でも気を付けて過ごさなきゃいけない。最近はめっきり見なくなっていたんだけど……」
「ぴょん! ぴょに!」
元気ですよね。さっきまでよく動き回るカエルさんだな、なんて思ってましたもん。
「だからあんなに驚いていたんですね」
「そういうわけ」
でも、そんなポンカ様がわざわざまぶしいであろうところに来たということは、事情があるに違いない。
「何でポンカ様は、その、僕の部屋の前にいて、ここまで一緒に来たんですか? 僕に用があるんでしょうか」
「ぴ、ぴょ……」
僕が尋ねると、ポンカ様は話したげに葉っぱを揺らした。
「そーそー。ジブンもききたかったんだ。新しい脅威が迫ってきているんじゃないかと思ったんだけど……」
「ぴょ! ぴょにおー!」
フェアの言葉にポンカ様は高く飛び跳ねる。そして、手を広げたり何かに食いつくような動作をした。
ポンカ様はどこかに潜んでいる悪を感知しているのだろう。
「ジブンの予想、当たってるみたいだね」
「ぴょん……」
フェアが言った脅威。ベアボウが主食としている悪いオバケ。そして僕とドラゴンが遭遇した謎の人。いや、おそらく人の形をしたオバケだ。人間である僕にすり寄ってきた。妹、コナミのふりをした、「ニセコナミ」。
不穏だ。
「……。ポンカ様、我々管理者も準備をした方がいいでしょうか」
こくんと頭を下げた。さっきまでぴょんぴょん飛び跳ねていたくせに、もう管理者としての威厳を放っている。
「最近は管理者も若干暇気味だったけど、嵐の前の静けさって感じだったんだね」
フェアはコーヒーではなく、紅茶を一杯ぐびぐびと飲み干した。
「あんまり何回も戦いたくはないな。管理者だって平和が一番だし」
一旦息を吸って、吐いて、もう一度吸うと、フェアはカッと目を見開いて僕を見た。
「サザナミクン! 一回だけだぞ! 一回で! 全部仕留める!」
「ぴょに!」
フェアはもう、覚悟を決めていた。
???
何もない空間を、わたしは歩いている。
黒くて、暗くて、星の消えた宇宙のような空間。
寂しくはないよ。慣れたから。
龍は別の空間に閉じ込めておいた。あんなんじゃいくら経っても出られない。
ここは確か……。あれだ。「イタチ」がいる空間。
「お兄ちゃん」の情報を提供してくれた、大好きで大嫌いなイタチ。死んで欲しいくらい大好きだったイタチ。
人間を連れ込んでくれたかわいいかわいいイタチ。
「元気? 今日も二人で遊びましょう」
「……」
「無視しないでよ。他のトモダチの方が一緒にいて楽しいの?」
「……」
「わたしはあなたがいいの。わたしが人間を殺すまでずっと一緒なんだから」
「……」
そうでしょう?
コナミ。
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