第9話 吸血熊

「珍しいな。ここにくる人間はオバケに連れて来られるから、理由もへったくれもないのが普通だと思うんだが」

「はは……いろいろありまして、人探しを頼まれたんですよ」

「頼んだ側も、それを了承したお前もなかなかのやつだ」


 はい。つくづく実感しています。オクリさん、もうちょっと話してくれてもよかったじゃないですか! 手がかりゼロですよ。みじんこもないですよ。


「それじゃあお前の妹とやらも気になるところだし、そこから探していくとするか」

「は、はい」


 一瞬、圧をかけながら笑いかけるオクリさんの姿が脳裏によぎったが、こればかりは許してほしい。というか、オクリさんが霊感を持っているなら弟さんもきっと大丈夫ですって。ね?


「それじゃ、俺は仕事に戻る。お前は早く寝て明日に備える事。それと、困ったことがあれば壁にある非常用ボタンを押して知らせろ」

「了解です!」


 ドラゴンはやっと、でも意外とあっさり僕の部屋を出て行った。


 ここから完全に僕一人の空間だー!! ……いやよく考えると1人の方が危険なのだが。


 とりあえず、風呂に入ろう。いつの間にか汗だくになってたし。そのあとは、そのあとは。うーん。とりあえず寝るか。この後何かをやる気力が起きない。ドラゴンもね、夜更かしはよくないって言ってたからね。うん。


 というわけで、その考え通りに風呂に入り、とっとと寝たのであった。


 ホコリっぽかったのは、どこかのドラゴンがゴロゴロしていたからだろう。許さない。



 翌朝。


 朝早く起きるとスズメやカラスの鳴き声が飛び交う僕の地元だが、たかが地元だということをよく思い知らされた。なぜなら、


「オメェラァァァァァァァァァァァァァ!!!!!起ぉきろォォォォォォォ!!!」


 ベッドの中、こんな爆音で目が覚めたから。


 なんだなんだ……。このフロア全体に響くように言っているのか? さすがに修学旅行の先生でも分担して一部屋一部屋起こしに行くのに。こりゃあ相当な脳筋面倒くさがり野郎だぞ。


「起きねぇと血ぃ吸いに行くかんなァァァァァ!!!!!」

「はい?」


 違った。脳筋面倒くさがり吸血鬼だった。知らないぞそんな人。もしや管理者の3人目だったり。嫌だよ毎日これで起こされるの。


「馬鹿、まだ早いだろう!」

「何言ってんだぁドラゴン! 早起きは三文の徳って言うんだぜ? もしやお前知らねぇのか?」

「知っている。お前が早起きしたいのはよく分かった。だがただ単にうるさいんだ。上まで響くのは相当だぞ」

「こうでもしねぇと訓練しない輩が多すぎるってんだよ! せっかくオレらが住まわせてやってんのに」


 ドラゴンと思われる人もやって来た。ドラゴンもなかなかにクセがあるが、吸血鬼はそれをはるかに上回る。なんてやつだ。


 あと、吸血鬼が言っている「訓練」って何だ?僕もいずれはやることになるんだろうか。


 と、これから起こることに身震いをしていたところに、ドラゴンが入って来た。


「おはよう」

「おはようです……」


 話をしてすぐ来たってことは、僕の部屋の近くで吸血鬼は叫んでいたのか。そりゃあ爆音になるわけだ。それにしても大きすぎるが。


「お前も聞いていただろうが、ここに住んでいたら毎朝のようにあの声に耐えることになる。それは覚悟しておいた方がいいな」


 ドラゴンもこの苦笑いである。それはもうこの世の苦虫を全部まとめて噛み潰したような顔だ。僕もつられて苦笑する。


「多分途中で鼓膜が破れますね……」

「あいつには俺も手を焼いているもんでな」


 ドラゴンほどの実力者を困らせるほどのやつって一体……。


「おい、今オレのことなんか言ったか?」

「ヒエッ」


 噂をすればやってくるとはまさにこのこと。熊に似た(と言っても耳は帯のように垂れていて二足歩行している)顔に吸血鬼らしい鋭い牙を持ち、背中にはちゃっちいはねがついている。そしてそれらは赤と黒を基調にしていて、なによりガタイがいい。


「ドラゴン! オレのこたぁ悪く言うんじゃねぇぞ! このイケメンフェイスに免じてな!」

「すまない。何を言っているのか分からん」

「はぁ?! お前それは困っちまうぜ」

「お前はただ朝デカい声で叫ぶ熊だろ」

「あぁん?! 目ぇ腐ってんのかぁ? オレはこの世界でも結構! それなりに! めちゃくちゃ! イケメンフェイスだろうが!」

「はいはい」


 僕の部屋で口論しないでくれませんか? これでも寝起きなんです。お願いします、もう少しでいいから寝させてください。


「てかよぉ、このヒョロヒョロは何だぁ? あんまり美味くなさそうなやつだが」


 吸血熊は僕をずけずけと指差して言った。


 美味しく、なさそう。だと? もしかしてこの吸血熊、僕が人間だと分かっていらっしゃる?!


「あわわわわわ」


 地味にピンチだが、ドラゴンは何も言わない。


 何だよ、ここに来て僕を裏切る気かドラゴン!見損なったz……


「オレの主食は悪いオバケだからよぉ、こいつぁ大丈夫そうだな」

「ああ。俺もそう思う」


 ……ぬ?



 ~ちょっとしたあとがき~


 近況ノートにも書いてありますが、用事があるので2、3日お休みをいただきます。用事が終わったら速攻で書く予定なのでよろしくお願いします(´艸`*)




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