第8話 魂の龍

 本当なのか? 油断させて食うつもりじゃ。


 と少し前の僕なら思っていたところだが、一緒に街を歩いてきてさすがに分かってきた。

 ドラゴンはくそ真面目に僕のことを手助けしてくれている。名前を知らなかったら土下座もしてくれる。謎の龍を召喚して戦ってもくれる(龍は絶賛迷子中だが)。

 これで信じないのも頑固すぎるというものだろう。


「そう、なんですね」

「信じるのか? 俺は龍も見せた。管理者であることも言った。実際、俺がお前を殺すのは赤子の手をひねるくらい簡単なことだ。それでもお前は、俺の言葉を信じるのか?」


 どうやら不安なようだな? 最初はあれだけ信じろ信じろ言ってきたくせに。


「それって、味方だったら心強いってことですよね?」

「!!」


 龍の革を被っていない分、表情の変化が分かりやすい。すぐに冷静を装ったが、一瞬だけ目を見開き、若草のような、年相応の顔をした。


 人間にとってはいつ食われるか分からない修羅の世界だ。ドラゴンのように心身共に強くないと管理者まで上り詰められないのは確かだろう。


 でもたまには気楽にゆっくりしたっていいんじゃないか?


「僕は、ドラゴンさんの言うこと信じますよ。人間同士仲良くやっていきましょう」

「……だな」


 面と向かって話すのは照れくさいのか、ドラゴンはごろりとベッドに寝転がった。


「僕これからここで寝るんで外に出た服で寝っ転がられると困るんですけど」

「何だって? 疲れているのは俺も同じだ。お前も散々味わっただろう。周り全てが自分の敵である恐怖を」

「それはそうですけど。というかドラゴンさんも怖いとかあるんですね」


 それを言うと、とうとう僕に背を向けてしまった。絶対に怖いって認めたくないんだろうな。一応強キャラっていう扱いだからな。ここでは。


「それで、俺の能力とやらだが」


 そのままの状態で、ドラゴンは話をぶった切った。


「俺はオバケではないから、能力を持てるわけもない。現にお前は何もないだろう」

「事実ですけど、事実なんですけど。言葉が鋭利すぎます」


 得意なものが何もない僕にその言葉はダイレクトすぎる。異世界に来たんだから上手に絵を描ける能力くらいくれたっていいのに。


「お前の個人的な意見はいいんだ。じゃあなぜ俺があの龍を呼び出せるか。それは龍の革をベースに、、だ」

「……へ?」


 だから今は被っていないのか。でも急に難しい話が出てきたぞ。魂を削る? そんなことしたら死ぬんじゃないか?


「よく分かんないんですけど」

「そうだろうな。俺はこの世界に来る前から、オバケが見えていた。俗にいう霊感というやつだな」


 体を起こす気はないようで、布団をたぐり寄せながらぶつぶつと話し始めた。何だろう。シチュエーションはまるっきり違うけど、既視感がひどい。多分オクリの話だろう。霊感がうんたらかんたら言っていた。


「俺は霊感が強い方だったから、オバケがはびこる世界にやってきたときにそれが強化されたようでな。自分の魂くらいなら操れるようになった。……今考えると、霊感自体が、『自分の魂を狙うオバケを察知する能力』に近いものなのかもしれない」

「つまり霊感のない僕は本当に何もない、と」


 僕も努力したらかっこいい龍を従えられると思ったのに。でも冷静になって考えると、オバケの世界ではない現世で既にオバケを認知しているのだから、能力らしきものを使えるのは納得できるような。


「死ぬほど頑張れば、最低限の力は手に入れられるかもな」

「死ぬまで頑張れないんですよね……」


 ドラゴンはへなへなになった僕をよそ目に、ゴロゴロとベッドの上を転がる。


 いやホコリがたつからやめてくれません!?


「だが。俺の魂の龍、ロンはあの小娘に連れ去られた」

「あの龍ロンって言うんですか。かわいいですね」

「かわいいとは何だ。美しいと言え美しいと」

「どっちでも褒めてるんだからいいんじゃないですか」


 どうもドラゴンと話しているとかみ合わないんだよな。変なところをこだわりやがる。


 それより。魂でつくられている龍だ。


「龍がいなくなって、ドラゴンさんは大丈夫なんですか?」


 やっとドラゴンは起き上がる。そしてしばらく床を見つめ、ため息をついた。


「普段ロンは呼び出しても自分に戻ってくるようになっているから問題はないが、このままだとフルパワーで戦えなくなる」

「いやそれはそうなんですけど、普段の生活に支障とか、ないんです?」

「生活は大丈夫だ。小娘を威嚇するために出したから、あまり魂は使っていない」


 多少魂が削れたくらいじゃ支障はないだと。なんだただの強キャラか。


「俺が戦えないと、管理者にも負担がかかる。だから俺はあいつを追おうと思っているが……。サザナミ、お前はこれからどうする」


 思えば、はちゃめちゃな事ばかりで本当の目的を見失っていた気がする。何で僕はこの世界に来たのか。


「僕は、探している人がいます」


 ちゃんとした目的があったのかと、ドラゴンは「おお」と声を漏らした。


「僕の妹、コナミと、……。僕の知り合いの弟さんです」



 ???

「遊びましょう、遊びましょう。身が朽ち果てるまで遊びましょう。邪魔者がここに来るまで遊びましょう」

「グギュグバァアア!!」

「静かになさい。あなたの主人とご面会するのはもう少し先なの」


 あは、あはははは。あはははははは。


 落ちてきた「お兄ちゃん」は案外馬鹿じゃないみたい。わたしのことを「コナミ」だと思ってくれなかった。できることなら最初で殺したかったけど。


 兄妹の絆ってすごいなぁ。


 でも、警戒されたからには仕方ない。


 自分の手は汚さないよ。


 みーんな利用してやるんだから……。





















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