第7話 オバケじゃない

 大して人はいないくせに、デパートにあるような大きめのエレベーターが軽快なベルの音を鳴らしてやってきた。


「確かおm……サザナミの部屋は5階だな」


 ドラゴンは中に入るなり5と書かれたボタンを押し、速攻「閉」ボタンに手を伸ばした。いるいる。僕が奥から走ってきているのを気づいていながら強行突破してくる人。


「このビル、かなり高かったと思うんですけど、実際何階まであるんですか?」

「33階だった気がするな。30階までは死んだばかりのオバケの一時的な住居。31階からは能力関係の施設や、俺たち管理者たちの仕事場だったり休憩所だったり」


 なるほど。つまり死後の世界に来たオバケは最初ここに来るわけだ。フェアさんが僕をオバケだと思ってくれたのも納得がいく。もしかしたら管理者くらいになると、人間かオバケかの区別くらいつくのかもしれないが、見逃してくれたんだきっと。

 感謝です、フェアさん。


「俺の仕事はこの世界に来たオバケをできる限り見つけてビルに連れていくこと。不安な気持ちのまま暮らすのは酷だからな」

「あー、だからドラゴンさんがいたんですね」

「ああ。特にお前が落ちてきたところはおr……」


 ドラゴンは確実に何かを言いかけていたが、5階に着いたのを確認すると、その話題をバッサリと捨て去った。


「行くぞ。サザナミ」


 1階とは一変して、落ち着いた茶色のカーペットに薄暗い廊下がいい雰囲気をかもし出していた。


 エレベーターからさほど歩かないところが僕の家になるらしい。合鍵を使って扉を開けると、現世でも見たことがあるような景色とも言えないものが広がっていた。


「うわこれ究極に狭いホテルじゃないですか」

「狭いとはなんだ。野宿でもするのか」

「いやさすがにこっちの方がましですけど」


 扉を開けてすぐ左にトイレとお風呂が一緒にあるタイプであろうバスルームがあり、小さなテレビがあり、ほとんどのスペースがベッドで埋められている。テーブル? 椅子くらいの大きさしかない。しかし肝心の椅子はない。ベッドを椅子にしろと言わんばかりに。


「僕見たことありますよこれ」

「文句を言わない。早く行け」


 ほとんどドラゴンに押されて中に入る。ずっと立っているのは疲れたので、ベッドに座らせてもらおう。


 やっと1人になれるー! と思ったのもつかの間、ドラゴンは話があると言っていたのを思いだした。当然のようにドラゴンも横に座ってくる。


「あのー、できるだけ手短にお願いしたいんですけど、話って何ですか?」

「そうだな。……」


 ドラゴンの方から言ってきたんだぞ。ここまで来て「何もないですおやすみ」は通用しないぞ。

 言い渋らないで早く言っていただきたい。


「今までオバケのふりをして、偉そうに脅してきたのもなんだが……」


 まず謝るのか? 前置きは別にいらないんだが。


 でも謝罪にしてはだいぶ間があるな? 何だ? 何を言おうとしているんだ?手短にとは言ったけど気になってきたぞ。


 ……あれ、今なんて言った?


「俺は、オバケじゃない」


 お前と同じ、生きた人間だ。








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