第3話 人型ドラゴン……?
気がついたら、灰色の世界だった。
空はどんよりと重く曇っていて、見渡す限りずっと平坦な地面が広がっている。
そしてなにより生き物の気配が感じられない。生きている心地もしない。
オバケに連れて来られた世界だが、自分が思っていたものとは程遠いものだった。もっと炎が燃え盛り、煮えたぎる巨大な鍋や鋭い針山があふれているものだと思っていたのに。何だこの物悲しい空間は。
「お前、人間か? 」
ああ、また幻聴だ。誰もいないのは分かりきっている。弟さんを見つけようと意気込んできたが、やはり無謀な夢だったか……。
「おい、返事をしろ! 聞こえているだろう! 」
「聞こえちゃいるけど、もうどうにもならないしなぁ」
「……? 何を言っている? 俺を見ろ! 早く!」
幻聴にしては会話が成立しているな? これも含めて自分が勝手に想像しているだけか。そうだ。きっとそうだ。
いやいやそれにしてもすぐ後ろから声が聞こえていたようn
「おい人間! 」
耳元で大声を出され、肩まで勢いよく叩かれたものだから後ろに視線をやる。
誰もいなかったはずなのに、誰かいた。
「ひゃあ?!! 」
「大声出すな。そこまで驚くことか? 」
あんたが大声出してきたからびっくりしたんでしょうが。
「あ、あなたは一体、」
僕に話しかけてきたのは、目のところに穴が開いた黒い龍の革を被った男だった。人間かは定かではないが、二本足で歩いて服を着ているので限りなく人間に近い何かとみなさせてもらおう。
「俺か。皆からはドラゴンと呼ばれている。担当はここに来たオバケを案内すること。だが、お前は人間。そうだろう」
はいそうです、と口をついて出そうになったが、ここで僕はとどまった。オクリは人食いオバケと言っていたはず。もしこの男、ドラゴンがそれだとしたら僕は一瞬で食われておしまいだろう。
「いやー、どうでしょうかね。僕のことはどうでもいいんですけど、まずこの世界のことを教えてもらっても」
「いいぞ。ここは死後の世界。生に飢えたオバケたちが第二の人生を送っている。つまりだ。お前がここで本当のことを言わないで街をうろつくと、オバケに命を食われてお前がオバケになる。分かったな。ちゃんと白状しろ」
「いや絶対僕を食」
危ない危ない。自分が人間だと白状してしまうところだった。ドラゴンは見た目だけならクールで真面目なキャラだろう。間違いない。でも魂胆が見え見えなのだ。僕はそんな簡単に引っかかるつもりなど無い!
「分かってるんですよ、ドラゴンさん、あなたもオバケなんでしょう?人間っぽいオバケもいますもんね。そう、例えば僕、とか」
「そうだな。確かに人間そっくりの見た目の奴もいないことはない。だがそれとは別だ。お前の様子を見るに、人間で間違いないな」
「……」
ドラゴンは最初から全部知っていたのだろう。僕も正直バレていると思っていた。楽なもんじゃないと覚悟はしていたが、今度こそここで終わりか。
「俺の担当はオバケを案内することだが、今回限りは特別だ。人間なんか一人にしておいたらろくなことがない」
ん?
「あれ」
「何だ。見放してほしいか」
いやそうじゃない。
「僕を、食わないんですか?」
革からのぞく深い青色の瞳がわずかに震えた。
「てっきり僕を食うためにやってきたのかと。人食いオバケって聞いたことがありますし」
ドラゴンは数歩後ずさりをする。僕を突飛もなく食ってしまうのを防ぐためだろうか。いや、ただ単に動揺しているのか?
「俺は、お前を食う気はない。そう言ってもお前は信じないだろうな」
「そうですね。いつ死ぬか分からない世界だろうし。なんでしたっけ? 命を食われるんでしたっけ? 」
「ああ。オバケは一度死んでいるからな。できる事なら現世をもう一度生きてみたいと願うオバケも多い。人間の命を食らって、な」
ドラゴンは相変わらず冷静に説明をしてくれるが、普通のオバケとは背負っている事情が違いそうだ。
「とりあえず。話したいことはたくさんあるが、他のオバケに聞かれるとまずい。だから、俺についてきてくれないか」
「誰にも見られないように人間を独り占めするつもりですか」
嫌味ったらしく言うと、ドラゴンは僕の片手を取り容赦のない強さで握った。
「信じがたいだろうが聞いてくれ。俺はこんな成りだがお前を助けてやりたいと思ってここに来た。人間のお前がひらけたところにいて食われるのはまっぴらごめんなんだ」
いくら熱弁されても疑わなければいけないのは変わらない。だからといってここから単独行動できる自信はない。
とりあえず話があると言っているし、聞いてみるか。リスキーだが仕方ない。
あれ、これ前にも同じような事思ったような気が。
???
「やっと来てくれた……」
死んでよ、お兄ちゃん。
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