死霊術師は気持ち悪いとパーティを追放されたので、ゾンビ少女とのんびりダンジョンに引きこもる
ふぉるく
第一章
第1話:パーティ追放
拠点にしている宿。
パーティリーダーの騎士、ケインに呼び出されて彼の部屋に行ってみると、ケイン以外にも、いつもダンジョンに潜っている仲間が勢ぞろいしていた。
格闘家のドラム、盗賊のキース、黒魔術師のウリエラ、それから最近メンバーに加わった白魔術師のサーリャ。今しがたまで部屋の外まで聞こえる声で談笑していた彼らが、僕が部屋に入るなり黙り込んで、にやにやとした目線を送ってくる。
あー、これ知ってる。最近ダンジョン潜りを生業にする冒険者の間で、よく話題になるあれだ。
奥の席で足を組んだケインが、僕を見下すように、いやらしい笑顔を浮かべる。すぐ隣にサーリャが座って、ケインにしなだれかかっている。笑える絵面だ。
「遅いぞマイロ。待ちくたびれたじゃないか」
「そりゃ、出かけてたところを急に呼び出すからでしょ」
買い物してたところに、急に宿の給仕が来て、僕を呼んでるなんて言うから来たというのに。別に買い物を切り上げも、急ぎもしなかったけれど。
「うっせえぞ! 口答えするんじゃねえよ!」
気の短いキースが金切り声を上げる。うるっさ。
「わかったわかった。それで、用件はなに?」
「そうだな、単刀直入に言おう。お前はもう、俺たちのパーティには必要ない。出ていってほしいんだ」
ほらねー。
「……ええと、理由は?」
「決まってんだろ、気持ち悪いからだよ死霊術師が!」
キースうるさい。
「いやいや、そんな酷いことを言うつもりはないんだ。ただ、俺たちももうミスリル級パーティだ。相応に人の目ってものがある。そろそろメンバーに死体を操る人間がいるというのも、外聞が悪くなっていてね」
「多少治療術が使えるからと置いてやっていたが、もうサーリャがいる」
むっつりと腕を組んだドラムが不遜にのたまうが、よく言うよ。
駆け出しの頃、ケインのパーティの評判はすこぶる悪かった。騎士も格闘家も盗賊も、揃いも揃って態度の悪い前衛ばかりで、後衛職がちっとも寄り付かなかったのだ。
あいにく僕も、死霊術師なんて生業が災いしてあぶれていたものだから、お互いに我慢して組んでいた。そう考えれば、よくもった方だと思う。なんせ今や、ケインの言う通り、最上位のミスリル級パーティなんだから。
「私、怖いです。死体を操る人がパーティにいるなんて……」
で、この露骨にケインに色目を使ってるサーリャが、その名声に惹かれて加入した白魔術師というわけである。
「サーリャもこう言ってる。せっかく入ってくれた新人に、あんまり不快な思いをさせても悪いだろう?」
なんというか、この自分に酔ってる好青年まがいの態度は、見ていていっそ面白くもあるんだが、僕に向けられると普通に腹が立つ。いままでだったら極力お互いに無視してたからよかったんだが、こうして面と向かうとやはり不愉快だ。
まあ、ちょうどいい機会だったか。
「えーと……じゃあもう死体動かして戦力にしたり、怪我の補修もできないけど、それでいいってこと?」
「モンスターの死体なんてもの、戦力に数えたことはない」
ドラムが胸を張る。
「だからサーリャがいるからいらねえって言ってんだろ!」
キースが喚く。
「死体を操るなんて、どうしてそんな酷いことが出来るんですか……」
サーリャが侮蔑の目を向ける。
「そういうことだ。もう俺たちはミスリル級パーティだ。お前の死霊術なんて、必要ないんだよ」
ケインが傲慢に笑う。
「ウリエラも同意見?」
唯一ずっと黙っているウリエラに顔を向けると、小柄な黒魔術師の少女は、身の丈以上の杖を固く握りしめ、真っ黒なローブを纏った肩を縮こまらせ、余計に小さくなってしまった。
「わ、私は、その……」
「同意見に決まってるだろう? 彼女は俺たちの仲間なんだから」
ケインが冷たく睨むと、ウリエラはフードを被って顔を伏せる。これもいつもの光景だ。
「ほらな」
「あっそ。なんでもいいんだけどさ。そういうことなら、これでお別れってことで」
「なんだ、聞き分けが良いんだな」
「自分でもわかってたんだろぉ、死霊術師なんて用無しだってよ」
ほんとにいちいちやかましいなこいつは。
「これからどうしようかな。前々から考えてはいたけど、ダンジョンに潜ろうかな」
「ひとりで攻略する気か? 前衛もいないお前では、すぐに自分が死体になるのがオチではないか」
どうも勘違いしているらしいドラムの言葉に、首を横に振る。
「違う違う、ダンジョンに潜って、そこに棲むんだよ。街じゃ死霊術師の肩身なんて、狭いことこの上ないからね」
「は……」
誰からともなく、笑いが弾けた。
「なに言ってんだこいつ! パーティ追放されて頭がおかしくなったか」
「ダンジョンに棲む!? まったく、笑わせてくれる」
「あんなところで生きていけるわけがないじゃない!」
冗談のつもりはないんだけども。
「一応聞くけど、ついてくるつもりのある人はいる?」
「や、やめてくれ、それ以上笑わせないでくれ。誰がお前にくっついて、ダンジョンになんか行くっていうんだ?」
「いやあ、これでも義理はあるかなって思ってるから聞いてるんだけど。ついてこないなら、もうみんな僕の仲間じゃないってことになるし」
「まだわからないのか? お前はもう、とっくに俺たちの仲間なんかじゃ」
「! い、行きます! 私はマイロさんと一緒に行きます!」
唯一、僕の言葉の意味を理解したらしいウリエラが、慌てて手を挙げる。突然掌を返したウリエラに、誰もが目を瞠った。
「おい、ウリエラ、なにを言っている」
「手前なにふざけたこと抜かしてやがる!」
「やれやれ……マイロに同情しているのかもしれんが、もう少し状況を見たらどうだ」
おーおー、みんなしてすごい剣幕だ。下手したら僕に対して以上じゃないか。
ウリエラはこいつらにとって、都合のいいおもちゃだったんだ。急に裏切られたようで面白くないのだろう。
「クソチビがよ、あんま舐めたこと言ってると、今夜は徹底的にひでえ目に」
キースがウリエラの襟首を掴み上げる。いい加減、僕の我慢も限界だ。こいつはもう、"仲間じゃない"。
「あわ……が……ッ……ッ!?」
「キース? おいキース、どうした!」
がなり立てようとしていたキースが、顔を青ざめさせ、喉を押さえて苦しみだす。床に倒れ、口からよだれを垂らし、涙を流してのたうち回るが、やかましい声は聞こえてこない。
えーと? なんだったっけ?
「ウリエラ貴様、なにをした!」
「ち、違います、私はなにも……」
「あ、そうだ思い出した」
ぽん、と手を叩いた僕に、部屋中の視線が集まる。
「確か、宝箱に仕掛けられてた罠の解除に、失敗したんだよね。懐かしいなあ、まだ僕らがカッパー級の、駆け出しの頃だよ」
キースはだんだん、バタつく手足から力が抜けていく。もしかして呼吸、出来てないのかな。
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