別に二人掛かりでも構わないんだぜ
「再通告です。あなたがプロハンターであれば所属の開示を求めます」
〇さっき見た光景
〇デジャヴ
〇こいつクズ山よりガラ悪いな
〇クズ山が可愛く見える
三人の先客になにか不審なところでも見つけたのだろうか。
コトリさんは
「ショゾクノカイジだあ? 意味わかんねえぞ、コラ」
本当に意味がわかっていない素振りで、口の悪い男が声を張る。
そこに再び後ろから大人びた男の声がした。
「彼女はハンターIDを見せろ、と言っているんだよ」
「ハンターアイデーだあ?」
「ハンターIDだ。…………わかるだろ?」
「……ああ、アレか」
仲間から言われてようやく理解したのか、男が懐に手を入れた。
〇はんたーあいでーwwww
〇こいつめちゃくちゃ頭悪いのでは?
〇義務教育の敗北
〇仲間やってる方も大変だな
俺は小さく息を吐く。
こんなところでケンカになったりしなくて良かった。
悪いのは相手、とはいえハンター同士のトラブルなんて見ていて楽しいものではない。
「ほら、ハンターアイデーだ……よっ!!」
男は胸元に入れた手を、凄まじい速さでコトリさんの方へと伸ばした。
それと同時か、一瞬早いくらいのタイミングで、コトリさんが斜め後方へと飛び
俺はそれを、画面に映っているドラマを見ているかのような感覚で眺めていた。
伸びた男の手から放たれたダガーの刀身。
すんでのところでかわしたコトリさんが、男と距離を取って黒剣を構える。
俺はただ立っていた。
今のはなんだ。現実感がない。脳の処理が追い付かない。
「え? ええ? なんすか、コレ」
〇なにこれ、ドッキリ?
〇仕込みでしょ
〇コトリちゃん避けるのが早すぎて事前に知ってたのがバレバレ
〇↑それな
〇ヤラセ乙wwwwww
アームモニターのコメント欄を見ると、TVショー的なヤラセという意見が目立っていた。だけど誰が……?
ドッキリ、仕込み、ヤラセ。
俺はもちろんやっていない。それだけは間違いない。
音無さんは……残念ながら可能性ゼロとは言い切れない。だけど、こういうことにお金を遣うタイプではないと思う。
じゃあ、コトリさんが?
と考えてすぐに選択肢から外した。
足手まといになっている自分が嫌で、わざわざ犯人に狙われそうなダンジョンを選んだという彼女の言葉がウソだとは思えない。
「マジかよ。今の
「あなた……いや、あなた達。プロハンターではありませんね?」
「どうかなあ? もしかしたら、次はハンターアイデーが出てくるかもよ」
再び懐に手を入れた男がニヤニヤと笑っている。嫌らしい笑みだ。
先ほどまでフォローに入ってくれていた大人びた男の声も、今回は割り込んでくることはなかった。
男の手が再び懐から表に出る。
カン、カン、カンと金属音が三回響いた。
「おいおいおい。そんなデカい剣で三本とも防いじゃうのかよ。人は見かけによらねえな」
「あら。もしかして苦戦してるのかしら?」
「バカ言ってんじゃねえ。ここからが楽しいんじゃねえか。……手ぇ、出すなよ?」
奥から艶やかな声がした。残るもう一人は女性らしい。
口の悪い男と、大人びた声の男との三人組。
コトリさんは俺の前に立って、口の悪い男と対峙している。
おそらくは俺に危害が及ばないように。
「あなた達は何者で……いや、あなた達はダンジョンを消滅させに来たんですか?」
「ひっひっひっひ、俺ってば有名人じゃん」
「どうやってこの部屋に入ったんですか?」
「さあて、なっ!!」
質問に答える代わりに、再びダガーを投げつける男。
黒剣で防ぐコトリさん。外れたダガーがダンジョンの壁に深く突き刺さる。
一体、彼の懐には何本のダガーが収納されているのだろう。
…………。
もう認めなくてはならないようだ。
これはドッキリでも仕込みでもヤラセでも演出でもない。
俺たちはどうやらダンジョン連続襲撃事件の犯人と鉢合わせしたらしい。
〇え? もしかして本物?
〇なんかガチっぽいよね
〇ちょっと誰か通報した?
〇マジでダンジョン連続襲撃事件の犯人なん?
〇さすがに通報した方が良さげ
〇↑オマエが通報しろ
〇『誰もハンター連盟に通報していないのである』
〇うるせぇ、さっさと通報しろ
そうだ。まずは助けを呼ばなくては。
ポケットに手を突っ込み、崩山から渡されたタマゴ型の機械を掴む。
ボタンは一つだけ。
迷わず押し込んでみたものの、カチッとボタンが沈む音がするばかりで機械からはは何も反応がない。
まさか……故障か?
二度、三度と押してみる。
だが、機械はうんともすんとも言わない。
「なあなあ、そこのキツネのお面の兄ちゃんはさあ、なんでボーっと突っ立ってんの?」
口の悪い男と目が合った。
コトリさんを挟んだ向こう側から、にやけた顔でこちらを見ているが目は笑っていない。
「だんまりかよ。別に二人掛かりでも構わないんだぜ。俺は」
心臓がバクバクと音を立てて跳ねる。
俺は今から彼らと戦う、のだろうか。
殴り合いのケンカだって、ろくに経験のない俺が?
モンスターを相手にしているときとは違う緊張感に、足が小さく震えていた。
そのとき、突然背後からグッと肩を掴まれた。
「ハッハッハッハッハッハッハ! それなら俺が参加させて貰おうか。二人掛かりでも構わないんだろ?」
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