コアルームを目指して


 俺たちは順調に深層攻略を続けていた。

 ちなみに、メタルバガニには逃げられた。


 メタルヤドカリのときですら、コトリさんと挟み撃ちにするチームプレイで何とか倒していたのだから、体勢も整っていない状態で遭遇しても倒せるハズがなかった。


 あれ以来、一向に姿を見せないところをみると本当に激レアモンスターだったらしい。


「なんかダンジョンの雰囲気が変わった気がするんすけど……」

「そうですか? 特に変わったところはないかと思いますが」


 コトリさんは首を傾げているが、俺は確かに違和感を覚えた。

 周囲を見回してみるが、相変わらずゴツゴツとした岩場のようなダンジョンに変わりはない。大きく深呼吸してみるが、匂いが変わったわけでもないようだ。


 それでも感覚的に、いつもと何かが違っているのは間違いない。

 ほかに考えられるものは……、


「……もしかして、魔素が濃いんすかね」

「スゴい! キツネさん、魔素の濃さが感知わかるんですかっ?」


 感知わかる、というほどではない。

 なんとなく感じる、くらいのものだ。


 魔素の濃さは固有スキルに影響を与えるというが、俺の『確率破壊』のような目に見えないスキルだとすぐに確かめられる方法がない。

 固有スキルが『電撃』の音無さんなら、電撃の強さで魔素の濃さを確かめられるんだろうけど。


〇キツネって鼻も利くんだっけ?

〇そりゃイヌ科だからな

○ちなみにタヌキもイヌ科だぞ

○ウサギは?

○ウサギ科


「だったら……、もしかして魔素が濃い方はどっちとか感知わかります?」

「うーん、なんとなくなら。なんでっすか?」

「ダンジョンコアがあるコアルームは、魔素の発生源でもあるんです。つまり、魔素が濃い方に進んでいけばきっと」


○マジで犬扱いされてて草

○トリュフを探すブタかもしれん

〇ブタはトリュフ見つけたら食っちゃうけどな

〇ダメじゃん

〇だから今は犬を使うんだって

〇じゃあやっぱ犬で合ってたな


「コメント欄、ちょっとうるせぇっすよ。――つまり、魔素がある方に進めばコアルームがあるってことっすね。でも……」


 雲取山くもとりやまダンジョンの下層にもコアルームはある。

 もちろん近くまで行ったこともある。何度もある。

 だけど、入口に頑丈な扉が取り付けられていて入ることはできなかった。


 せっかくコアルームまで行けても入れないんじゃなあ……、いや、そういえば扉にカード認証の機械みたいなものが付いてたな。


「もしかして、ハンターIDがあればコアルームに入れるんすか?」

「私と一緒ならキツネさんもコアルームに入れますよ」


 頷くコトリさんを見て、悪くない話だと思った。

 俺はコアルームの中に入ったことはない。

 配信のイベントとしては多少新鮮な印象を与えられそうな気がする。


「オケっす。行きましょう、コアルーム!」

「おーーー!!」


○コアルームがゴールって感じかな

○ライブ配信の区切りとしては妥当

〇今のところ潜って7時間くらいか

〇早いの? 遅いの?

〇はたして、変化するダンジョンにRTA記録はあるのか

〇なければ作ればいい、つまり今日の記録が基準になる

〇それはそれでキツい


 分かれ道に差し掛かると、俺はあっちをウロウロ、こっちをウロウロして魔素の濃い方を探した。なんとなーく、こっちかな……という感覚チョイスで進んでいく。


 右、右、真っすぐ、左、斜め右。

 途中で罠があったり、メタルバガニに逃げられたりしながら、ついに見覚えのある扉へとたどり着いた。


「コアルーム、着いたっすね」

「……はい。それじゃ早速」


 コトリさんは懐からハンターIDを取り出すと、ゆっくり扉へと近づける。

 ピピッと電子音が鳴り、扉がゆっくりと開いた。


○おお、これがコアルーム

○ってか誰かいるぞ

〇趣味わるっ


「……あれ?」

「先客っすかね」


 コアルームには三人、いずれも仮面舞踏会のマスクを彷彿とさせる仮面をつけて顔を隠していた。つまり、今ここには仮面やらお面やらで顔を隠した男女が五人いることになる。怪しいことこの上ない空間だ。


「なんだぁ? てめぇら」


 仮面チームの一人が、まるでヤンキーのような口調で絡んできた。

 ダンジョンで出会ったらマウント合戦をしなきゃならない決まりでもあるのか?


〇ちょっとベクトルが違うけど、誰かさんを彷彿とさせるな

〇クズ山の100倍わかりやすいヤンキー

〇こういうのに絡まれやすい人っているよね


「俺らはただの配信者っす。ちょっと部屋を撮らせてもらったらすぐに行くっす」

「ああん? ダメだ、ダメだ。さっさと帰りやがれ!」

「そう邪険にすることもないだろう」


 取り付く島もない男の背後から、少し大人びた男の声が被さる。


「すまないが、私たちにも仕事があってな。あと10分もすればこちらの仕事も終わるから、それまで外で待っていてもらえるか?」


 丁寧に諭すような喋り方、まるで学校の先生のようだ。

 コアルームは決して広くはない。五人でぎゅうぎゅうになっては映り込みも気になる。10分待ったら出て行ってくれるというのなら、待った方が良さそうだ。


「はい、わかり――」

「私はハンター連盟本部所属のプロハンター、西海にしうみ琴莉ことりです」


 俺の言葉はコトリさんの毅然とした声にさえぎられた。

 それはただの自己紹介ではなく、


「ダンジョン法に基づき、あなたがプロハンターであれば所属の開示を求めます」


 崩山くえやまのときと同じく、身分を照会するための通告だった。


 

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