因幡の桃兎
因幡の桃兎
〇おっ、はじまったポイ
〇コンー!!
〇コンです
〇【¥1,000 期待してるコン】
配信をはじめるとコメント欄に『コン』という挨拶がいくつも出てくる。
挨拶の『こんにちわ』の『こん』と、狐の鳴き声の『コン』を掛けた
別に俺が始めたわけじゃないんだけど、視聴者の誰かが言いはじめて気が付いたら定着していた。
「コンー。吉音イナリっすよー。開幕スパチャもあざっすー」
〇うわっ。ここドコだよ
〇どこかはわかんねーけど、いつものダンジョンじゃないのは確か
〇↑ちゃんと今日は新しいダンジョン行くって、前回の配信で告知してたからな
〇↑お前みたいなガチファンばっかじゃないのよ
〇めっちゃ魚類いるやん
〇もしかしてどっかの水族館?
〇ダンジョンライバーが水族館で配信はじめたらオワオワリ
「ちゃんとダンジョンっすよ。今日は
〇あおみ? ってどこ?
〇実物大のでっかいガンダムが立ってるとこ
〇わかりやすく言うとお台場
〇え? そんなとこにダンジョンあんの??
「そっすよね。俺もアクセス良すぎでビビったっす。ってか、雲取山ダンジョンは遠すぎるんすよ。できるれば毎回ココに来たいっすね」
〇毎回同じダンジョンばっか行くからマンネリしてることに気づけ
〇それな
〇同じモンスターから同じアイテムがドロップするのを見続ける配信はもういい
〇新しいダンジョンならモンスターも変わるしな
〇どんどん新しいダンジョン行け、もっと遠くまで行くんだよお稲荷さま
〇てかさ、なんでお台場にダンジョンがあんの? ダンジョンって人の生活圏に発生したら消滅させられるよな?
〇たしかに
〇もしかして、消滅させられる前に忍び込んだとか?
〇フツーに犯罪じゃねえか
〇ダンジョン侵入罪、5年以下の懲役または30万円以下の罰金
「怖いこと言わないで。でも、なんで消滅させられてないのかは気になるっすね。そういうのは専門家に聞くのは一番っす。ということでお呼びしましょう! 本日のゲスト、ウサギさんっすー!! パチパチパチパチ」
大きく拍手で流れるようにコトリさん、もといウサギさんを紹介。
我ながらスムーズな配信回し。
と言いたいところだけど、実はコレには種も仕掛けもある。
『同じダンジョンばっか行くからマンネリしてる』とか、『どんどん新しいダンジョン行け』というコメントが溢れる中に唐突に表れた、
『てかさ、なんでお台場にダンジョンがあんの? ダンジョンって人の生活圏に発生したら消滅させられるよな?』というコメント。
コレは音無さんによる仕込みだ。
タイミングを見計らって彼女がコメントを入れる、それを見つけたらウサギさんを紹介する流れに繋げる、という台本が事前に準備されていたわけだ。
「はいっ! えっと、ウサギと申します!! 今日はよろしくお願いします!」
〇なんでウサギのお面wwww
〇お稲荷さまと並ぶとイロモノ感が増すな
〇あっ、なるほど因幡の白兎か
〇神様繋がり
〇白兎っていうか桃兎だけどな
因幡の白兎。日本神話に出てくるウサギのことだ。
サメをだまして海を渡ったらバレて毛をむしられたという残念なウサギ。
〇おっぱい大きいね、ハァハァハァ
〇↑気持ち悪い
〇狐くんと兎さんのショートコント見たい
〇パペ〇ペかよ
〇いや、コイツはどう考えてもウサギじゃなくてコトリだろ
〇こういうときは気づいても黙ってやるのが優しさだぞ
さすがはコトリさん。
有名プロハンターなだけあって、お面を被ったくらいでは正体を隠せないようだ。
別に正体を隠すのが目的ってことではないから、気にすることはない。
「早速なんすけど、まずはこの青海海底ダンジョンについて教えてもらってもいいすか?」
「はい。このダンジョンはクローズドダンジョンと呼ばれる種類のダンジョンで、一般向けには入場制限されているダンジョンになります。先ほどコメントがありました、ダンジョンは人の生活圏に発生したら消滅させられるハズなのにどうしてお台場にダンジョンがあるのかということですが、理由は単純です。消滅させるよりも厳重な管理の元で資源を採集する方が有益と判断されたからです」
〇どゆこと?
〇人の生活圏に発生したダンジョンは消滅させる、は原則であって絶対ではないってことか
〇住民が多少犠牲になっても構わないくらい美味しいダンジョンってことだ
〇そういえばお台場って3年くらい前にダンジョン反対運動やってなかったっけ
〇あー、あったあった
〇そっか、あのときにダンジョンが発生してて、立ち退き勧告があったってことか
〇そりゃあ、いきなりお台場から立ち退けとか言われても困るよな
〇ニュースとか新聞だと、大規模デモみたいな書かれ方してた記憶なんだけど
〇マスゴミがやることだから
〇メディアにお金を出してる会社も魔石エネルギーがないと立ち行かない、つまりそういうことだ
「このダンジョンを残すことが良いのか、悪いのか。私はそれを判断できる立場にありませんが、存在している以上はダンジョンから生まれる利益を最大化し、ダンジョンバーストが起こらないように警戒する。それが私たちハンター連盟所属プロの使命だと考えています」
〇クソ真面目かよwwww
〇まるで生徒会長
〇せっかくウサギのお面してるのに、ハンター連盟所属プロって言っちゃった
〇コトリちゃんは悪くない!
〇ウサギちゃんだろ? 言ってることは間違ってない
〇でもさあ、利益を最大化するならクローズドにする必要ある?
〇せやな。オープンにして大勢のハンターで魔石を狩った方が良くない?
〇言うな言うな。どうせプロハンターのための既得権益だから
〇あーね
なんだか嫌な空気だ。
プロハンターやハンター連盟が嫌いな人が一定数いるっぽい。
しかし、コトリさんは気にする様子もなく話を続けた。
「そうですね。このダンジョンがただ魔石がたくさん取れるだけの普通のダンジョンなら、オープンにしちゃう手もあったと思います」
〇ん? どゆこと?
〇難しすぎるンゴ
〇大丈夫だ、俺はもうだいぶ前からついていけてない
「謎の答えはもちろんこのダンジョンの中にあります。それでは早速、私たちと一緒にダンジョンを冒険してみましょう!」
なんか……、めっちゃこなれていらっしゃる。
ダンジョンの謎をレポートするタイプのミステリーハンターかな?
開始一分ですっかりコトリさんに主導権を握られてしまったような気がするけど、こうして俺たちのコラボ配信は始まった。
🦊 🦊 🦊 🦊 🦊 🦊
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第7回お題は『色』
『花の色はうつりにけりな』
https://kakuyomu.jp/works/16818093074140276884/episodes/16818093074141598277
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