ダンジョン襲撃事件
「ダンジョンなんか要らなーーい!」
「「「ダンジョンなんか要らなーーい!!」」」
「全てのダンジョンを消滅させろーー!」
「「「全てのダンジョンを消滅させろーー!!」」」
「ダンジョン政策を中止しろーー!」
「「「ダンジョン政策を中止しろーー!!」」」
「人の命より大切なエネルギーなんかないぞー!」
「「「人の命より大切なエネルギーなんかないぞー!!」」」
ダンジョン反対派のデモの声が新宿の街に響き渡る。
地上から五十メートルは離れているハンター連盟本部の一室から、
「四月に入ったとはいえ、まだ外は肌寒いというのに。元気が良いですねえ」
石炭はもとより、石油や天然ガスといった化石燃料の採掘量が期待できなくなったこの時代に、魔石によって得られるエネルギーを手放したらどうなるか。
再生可能エネルギーなどでは到底補うことができない、という結論はとうに出ているというのに。
いつまで経ってもこの手のデモはなくならない。どころか、ダンジョンバーストが起こる度に再燃するから始末に負えない。
今回のデモは愛宕山ダンジョンの件が尾を引いているのだろうが、死傷者の数が少なかったためか磐梯山ダンジョンのときと比べれば盛り上がりに欠けていた。
コンコン、とノックする音が聞こえ、鹿尾は扉の方へと向き直す。
「どうぞ」
扉を開けて入ってきたのはハンター連盟本部に所属するプロハンターの男だった。
明らかに緊張した顔を見れば、今から彼が口にするであろう内容が良い
「ご報告です。
「…………そうですか。犯人は?」
「特定できておりません。入退場記録が残っていたハンターには記録用カメラのデータを提出して貰いましたが、不審な様子は映っておらず――」
「これまでと同じ、ということですね」
「……はい」
男は小さな声で肯定する。
一番最初の被害が起こったのは年明けで間もない頃。それから同様の事件が徐々に増えていき、先月は実に六つものダンジョンが何者かによって消滅させられている。
政府やハンター連盟によって管理されているクローズドダンジョンが繰り返し襲撃を受け、しかもその全てが消滅するという惨状だ。
ハンター連盟は面目を潰されっぱなしである。
プロハンターにはダンジョンに入る際に記録用のカメラを携帯する義務がある。
ほかのハンターとのトラブルや、今回のような事件に巻き込まれた際には、このカメラの映像が身の潔白を証明してくれる。ダンジョン用のドライブレコーダーのようなものだと思って貰えればいい。
この制度が導入されて以降、ダンジョン内での不審死、恐喝・強盗などの被害は大きく減少した。
そんな中で発生した今回のダンジョン連続襲撃事件は、すっかり隙を突かれた形となった。
「報告ありがとう。もう下がって良いですよ」
叱責を受けるとでも思っていたのだろうか。
鹿尾の言葉に、男はホッとした様子で部屋を去っていった。
「あんなにビクビクしなくても良いでしょうに」
鹿尾は男が去っていった扉を見つめて苦笑を漏らす。
ほかの理事連中ならいざしらず、鹿尾は報告に来ただけの人間を感情で責めるような真似はしない。
「それにしても……今回は式根島、ですか」
かつては二千人ほどの人口を抱えていた離島であるが、ダンジョンが発生したことをきっかけに、住民の皆様にはご理解をいただいた上で移住してもらった。
ほんの数十年前までは、ダム建設のために村を沈めることがあったというが、今でもやっていることは大して変わらない。
この離島にあるダンジョンはいかんせん立地が悪い。
都内からだと海路で約三時間。飛行機を使っても乗り継いで一時間ほどかかる。
そのような僻地にあるダンジョンの警備に、十分な人員を配備することは難しい。
「偶然、で済ませるわけにはいかないようです」
抱えている問題の大きさに負けない、ひどく大きなため息を吐いた。
これまで消滅させられたダンジョンは、どれも同じ手口でやられていた。
警備が比較的手薄であり、かつ事前に入場申請が必要なダンジョンを狙って入場申請が少ない日に襲撃を実行、その侵入経路は不明。
遺憾ながら、ここまで後手後手に回らされている。
鹿尾はダンジョン反対派のデモ隊が更新している道路とは反対側、式典などで使用される大ホールが見える方へと移動した。
大ホールではちょうど、新年度の部隊配属の任命式が行われているところだ。
ハンター連盟の中には様々な部課が存在するが、その中の一つにダンジョン犯罪対策課というセクションがある。
つまり、一連のダンジョン襲撃事件を解決する責を負っているのはこの課ということになるのだが、先述したように記録用のカメラによってダンジョン内での犯罪が大きく減少したため、人数も年々削減されていた。
そこで鹿尾は理事の立場から強権を振るい、今回の部隊配属でダンジョン犯罪対策課に有望な新人をつけさせた。
彼女の実力は、鹿尾自身が現場で直に見ている『お墨付き』だ。
危険な任務が多い課ではあるが、彼女なら役に立ってくれると確信している。
相手は深層まで潜ってダンジョンコアを破壊するだけの実力を持った犯罪者たちだ。
生半可な戦力では返り討ちに遭ってしまうのがオチ。もっと戦力を補強してやりたいところだが、ハンター連盟の中から戦力を集めるのはもう限界にきている。
年がら年中、どの部署からも「人手が足りない!」という悲鳴が上がってくるのだから、どうしようもない。
「外部の協力者が欲しいところですねえ」
インテリ眼鏡をクイッと上げて、鹿尾は独りごちるのだった。
🦊 🦊 🦊 🦊 🦊 🦊
第二章は潜木翔真の視点と西海琴莉の視点が一人称となります。
つまりこの章のメインはこの二人(になる予定)ということです。
しばらくは3日に1エピソードのペースで更新していきます。
良かったら読んでやってください。
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