Epilogue:ある男子大学生の配信


「今日はっすねえ、雲取山くもとりやまダンジョンの中層に来てるっすよ」


 音を立てずに浮いているドローンに向かって声を掛けると、アームモニターにあるコメント欄が一気に動き出した。


〇よっ、待ってました!

〇お稲荷さまがちょっと配信にこなれてきてて寂しい

〇ただダンジョンで敵を倒すだけのまったり配信で同接が10000超えるのヤバ

〇普通にモンスター倒してても見たことないアイテムがドロップするから見逃せない

〇【¥5,000 今日も激レアアイテム期待してます!!】

〇【¥1,000 少ないけど応援の気持ちです】


 大学三年生になった俺は、今も吉音イナリとしてダンジョンに潜ってはライブ配信をしている。やればやるほどお金になる、というのも理由の一つだが……最近は単純にこれが楽しくなってきた。


 父さんのようにプロハンターになることも考えたけど、就活でさえ来年の話だっていうのに焦って決めなくてもいいやと思い直した。この前の手紙は確かに嬉しかったけど、それだけで将来を決めるのも何か違う気がした。


 俺は俺なりに、大学生らしくゆっくりと自分の道を探していこうと思う。

 これもきっと『前に進む』ってことなんだと思う。


「お、さっそくのスパチャあざっすー! そしてそして、右手側に虫タイプのモンスターを発見っすよ。アレはえーっと………………」


首斬くびきりギリスだよ

〇ここのダンジョンの中層ではよく見るよね

〇十種類くらいしかいないんだからちゃんと覚えて

〇キリギリスなんだかカマキリなんだかわからんモンスターな


「ちょっとちょっと、みんな答えを出すのが早いっす」


〇お稲荷さまが遅すぎるのよ

〇モンスター殺すのはあんなに早いのに

〇思い出している時間がもったいない

〇さっさと殺ろうぜ


「仕方ないっすね。じゃあ……」


 蛇腹石を取り出した俺は、レジェンダリーアイテム『魔弾の投手』のアイテムスキルを使って、親指で勢いよく弾き出す。


 ビシッといい音がしたが、頭部を狙って飛ばした石は首斬りギリスの前足についているブレードによって阻まれてしまった。


「おお、さすが中層のモンスターっすね。石じゃ倒せなかったっす」


 ギギギギギと軋むような鳴き声を上げ、こちらに近づいてくる首斬りギリスに、もう一発石をぶち込む。と同時に、飛翔の腕輪によって敵の頭上へと飛び上がった。


「よっ、と」


 石に気を取られた首斬りギリスは俺のことを見失っている。

 金糸刀の剣先を真下に向けて、落下する勢いを使って首斬りギリスの首と胴の間に刃を差し込むと、先ほどよりも甲高い断末魔の悲鳴を上げて身体が地面へと沈んでいった。


〇飛翔の腕輪キター(゚∀゚)!

〇いっこくかんは使わないのか

〇中層のモンスターは余裕だな

〇倒せるのはわかってるから、ドロップはよ


 ケツアゴアトルとの戦いで見せた、飛翔の腕輪や逸刻環いっこくかんが登場するとコメント欄が盛り上がる。金糸刀はそれらに比べると画面映えが地味なせいか、あまり反応してもらえない。


 金糸刀は『糸のように軽く切れ味は鋭い』というシンプルに高性能な武器なのだけど、動画では凄さが伝わらないんだよな。


 普通に考えれば理解わかると思うけど、特に鍛えてもいない普通の男子高校生が、クソ重い刀を振り回して戦うとか無理なんで。


 首斬りギリスが消えた後には、灰色の魔石と大きな鎌が落ちていた。

 死神の鎌を連想させるその武器は、拾い上げるとズシリと重かった。


「おっ、当たりっぽいですね」


〇Sレアドロップきた!?

〇誰か情報ぷりず

〇いつものことだけど、モンスタードロップまとめには載ってないぞ

〇鑑定待ちだな

〇アーカイブ見て誰かわかるヤツいたらコメよろしくな


 この場でフェアリサーチを使って鑑定しても良いのだけど、音無さんから『情報はちょっとずつ出していくように』と言われているので、そのままたっぷり収納DXナップサックへと仕舞いこんだ。


「さあ、次に行くっすよ」


 家に帰る時間を考えると、中層に居られるのは一時間といったところだ。

 さくさく進めないと、ほとんどモンスターを狩れずにライブ配信が終わってしまう。


 奥へと進んでいくと刃物がぶつかる音が聞こえてきた。

 どうやら他の冒険者がモンスターと戦闘中らしい。


 なるべく邪魔にならないように遠巻きに様子を見てみると、


「ちょっ、待って、待って。……うわあああぁぁぁっ!!」

「えっ!? タッくん、ウソでしょ!?」


 どうやら戦っているのは男女二人組のようだが、男性の方がモンスターの突撃で華麗に宙を舞っており、残された女性は動揺しているようだ。


 パッと見は牛のようだが、四本の脚が全てタイヤになっている。

 こいつは確か…………………………そうだ、自動四輪野牛バイクソンだ。「四輪だったらバイクじゃなくて自動車だろ」というツッコミは俺ではなくダンジョンまでお願いします。


〇めっちゃ飛んでて草

〇きれいに轢かれたなあ

〇いやいや笑いごとじゃないでしょコレ

〇え? アレ死んでない?

〇リア充がどうなろうと別に

〇実力もないのに中層まで来るヤツが悪い

〇マジレスすると、ダンジョンスーツをちゃんと着てれば死なない

〇自己責任

〇女子にいいとこ見せたかったんやろなあ


 うちのコメント欄は男女二人組のパーティーに厳しい。

 こんなことを言っていても、実際に彼らがモンスターに殺されそうとなったら慌てて心配しはじめるツンデレたちなんだけど。


「あれはさすがに、助けに行った方が良さそうっすね」


 今はまだかろうじて生きているが、このまま放っておいたら二人とも殺されてしまう。俺は腰を抜かして地面に座り込んでしまった女性のところまで歩いていく。


 ジャガーゴイルを仕留めたときのように、ゴールドダガーを投げれば倒せるとは思うけど……後で「戦闘中のモンスターを横取りされた」とか言われても困るから。


 まず俺は、いつものように声を掛ける。


「あのー。もし戦わないなら、このウシ譲ってもらってもいいっすか?」




   第一章 了



🦊 🦊 🦊 🦊 🦊 🦊



 数話とか言っておきながら、エピローグに六話も使ってしまいました。

 とにもかくにも、ひとまず完結となります。


 続きを書きたいと思ってはいますが、大枠のプロットを組まないと書き出せない子なので少々お時間を頂きたく。


 ここまで読んで頂いて「悪くなかったよ」って方は、作品フォローは外さずにお待ち頂けますと幸いです。


 あっ! お星さまもお待ちしてます!

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