法律は俺を守ってくれない
『【話題沸騰!】ダンジョンライバーの女子大生ほのりんを助け出したヒーロー「お稲荷さま」ってどんな人?【知らないとヤバい!?】』
なにやら色々と書かれていたが、俺の目はそこに並んでいた画像にクギ付けになった。なぜなら、その画像のほとんど全てに俺が写っていたからだ。
お面をしていたから、顔が見えていないのが不幸中の幸い。
服装も
大学を歩いていたら、同じような服を着た大学生がゴロゴロいるのだから。
その証拠に、仲の良いシンでさえも、キツネのお面をしている男の正体が俺だとは気づいていないようだ。
「さ、さあ。あそこはフリーダンジョンだから色んなヤツが出入りしてるし、他人のことを気にしてる余裕なんかねぇから……。で、コイツがどうかしたのか?」
「なんかバズってんだよ。『お稲荷さま』とか呼ばれてて」
「お稲荷さまって……」
え、ダサくない?
俺、知らない人から『お稲荷さま』って呼ばれてるの?
もうちょっとカッコイイ呼び方なかった?
せめて『フォックス』とか……、いや、それもなかなかダサいけど。
いざ、こういうコードネーム的なものを付けようと思うと難しいな。
「キツネのお面を被ってて正体不明。名前もわからないから、ネットのヤツラが勝手に呼び名を付けたみたいだぜ。まあ、とにかくその『お稲荷さま』が、ジャガなんとかってヤバいモンスターから女子大生を助けている
「…………マジか」
言われてみれば、あの女子大生……確か、
そうか。あれで撮影してたのか。
しかも配信までしていたとは……
俺はパソコンだとかドローンだとかの機械全般が死ぬほど苦手だ。
インターネットもスマホでちょっと検索するくらいが限界。
ダンジョン配信という文化があることは知っているけど、自分でやってみようなんて考えたこともないし、他人がどうやって配信しているかなんてどうでもいいと思っていた。
他人が動画を撮影しているところに映り込んでしまう、なんて想定外の事態だ。
こんなことになるなら、少しは勉強しておくべきだったか。いや、今さらだな。
どうやら俺は臨時ボーナスの30万円を得るために、ものすごく高い代償を支払ってしまったようだ。
「どうした? なんか顔色悪いぞ」
「いや、なんでもねぇ……。こういうのって肖像権だかの侵害になるんじゃねぇの?」
人には肖像権ってものがあって、勝手に他人の写真とか動画を撮ってインターネットにアップしたらダメだと聞いたことがある。
もしそうなら、裁判所とかに訴えれば画像や動画を消させることができるんじゃないだろうか。
しかし、法学部に通う
「肖像権って……誰の?」
「あー。この、お稲荷さまだっけ。この人の」
「お面してて、誰だかわからないのに肖像権?」
「………………ぉぅ」
そりゃそうだ。
お面をしていて顔が映っていないんだから、肖像もなにもなかった。
高校からの友人であるシンでさえ、この『お稲荷さま』が俺だと気づかないんだから個人の特定も難しいだろう。
むしろ、『この映像と写真を消せ』と声を上げることによって、キツネのお面を被った男の正体を自分だと喧伝することになってしまう。
「まあ、例えお面をしてなかったとしても権利侵害は認められないだろうけどな」
「え、なんでだよ?」
「フリーダンジョンって公共の場所なんだよ。道路とか、公園とか、広場とかそういうところと同じな。で、ダンジョン配信ってものが認められているくらいだから、撮影も問題ない。そういう場所でライブ配信なんかしたら、他人が多少映り込むのは仕方がないことだろ?」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
これから駅に行って自撮り写真を撮ったら、きっと近くを歩いている人が何人か背景に映り込むことだろう。
それがライブ配信、つまり生放送されるということであれば、顔にモザイクをかけるような加工をすることもできない。
「……なるほど。さすが法学部だな」
「ふふん。それほどでも、あるぜ」
自慢気な顔をしているシンを見ながら、俺は心の中でため息をついた。
誠に遺憾ながら、法律は俺を守ってくれないらしい。
それでも、やれることはやっておきたい。
軽食堂でシンと別れてすぐ、俺はメッセージアプリで音無さんに連絡を取った。
【昨日撮っていた動画を消してください】
兎にも角にも、まずは元栓を閉める。
昨日、メッセージアプリで連絡先を交換しておいたのが役に立った。
……念のため断っておくが、ナンパではない。
連絡先だって向こうから聞いてきたんだ。
そう。どちらかと言えば逆ナンパされたということになる。
重要なことだからもう一度言っておく。
ナンパではない。
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