弱小事務所にそんな資金力はない(断言)
パン! パパン! パン! パン! パパパン!
水風船が弾けたときに鳴る様な破裂音が、断続的に鳴り響く。
〇いし? 石なの? イシツブテなの?
〇上層のモンスターとはいえ、これは
〇ジェノサイド
〇人生で初めてモンスターに同情してしまった
〇22話「血染めのイナリ」
〇モザイクかけた方がいいレベルのグロ映像
〇死体が消えてくれるのが唯一の救い
コメント欄も明らかにちょっと引いていた。
翔真が手元から石のようなものを弾く度に、一匹、いやときには二、三匹のモンスターの身体が弾け飛ぶ。
実を言うと、石を弾いている瞬間も、着弾している瞬間も、早すぎて帆乃夏には見えていない。
だけど、手元から石が消えたタイミングでモンスターが弾けているから、恐らくそういうことだと思われる。
結果、「スプラッター映画の方がまだマシだ」と言えてしまうくらいの衝撃映像が配信されてしまっていた。
同時接続数が伸びているから
頭部、胸部、腹部。
どの一撃もきっちり急所に当たり、モンスターに
下層モンスターである、ジャガーゴイルを瞬殺した彼のことを侮っていたわけではない。なにせ帆乃夏の目の前で大型モンスターの身体に大穴を開けたのだ。彼のスゴさは他の誰よりも知っているつもりだった。
それでも帆乃夏は、自分が彼のことを過小評価していたと認めざるを得なかった。
投擲武器が百発百中。しかも
トッププロにだって、これほどの芸当ができるものが何人いるだろうか。
あっという間にモンスタールームにひしめいていたはずのモンスターが、影も残さずに消えてしまった。
モニター画面に映った光景に、帆乃夏は再び言葉を失った。
コメント欄も同じく静かになっている。
タイピングをする余裕もないほど、配信画面に視線がクギ付けになっているのかもしれない。
数多のモンスターを瞬時に殲滅させるよりも信じがたい光景が、画面一杯に広がっていたのだから。
モニター画面に広がっていたのは、消滅したモンスターと入れ替わるように転がっている大量の魔石と、大量のドロップアイテムだった。
モンスターからアイテムがドロップする確率は、モンスターの種類によっても異なるが概ね1%以下である。つまり100%ドロップする魔石と遜色ないほどアイテムがドロップしている光景など、ダンジョンの常識で考えれば到底ありえない。
それが帆乃夏が、そして視聴者たちが言葉を失った理由だ。
事前に『俺、他の人よりアイテムのドロップ率が高いみたいなんすよ』と聞いていた帆乃夏でさえそうなのだ。視聴者が受けた衝撃は如何ほどのものか。
『よし。おわりっ。そんじゃ、ドロップアイテムの回収を始めるっす』
変わらぬ調子で
〇いやいやいやいやいや
〇なにを何事もなかったかのように進めてんの?
〇どう見てもアイテムがドロップしすぎだろ
〇倒したモンスターのほとんどからアイテムドロップしてるんじゃないか?
〇やっぱり合成だよ、そうに違いない
やはり目の前に映し出されている光景をにわかに信じられないでいるようだ。
ありえない光景だから合成映像に違いない、という考えうる限り最高に短慮なコメントに、次々と同調者が現れはじめた。
自身にとって都合の良い――今回であれば、目の前にある異常な光景を信じずに済む――意見が出ると勢いのままにその意見を持て囃す。
これぞまさにインターネッツといった展開がこのチャンネルでも起きたわけだが、流れが急激に片側へ傾くと反対側へ戻そうとする勢力が現れるのもインターネッツの面白いところだ。
〇リアルタイム合成って、めっちゃ金かかる上にクオリティは微妙なんだぞ
〇めっちゃってどれくらい?
〇某トップダンジョンライバーが10分の配信でン千万円かかったって言ってた
〇弱小事務所のSilentにそんな資金力はない(断言)
このコメント欄を運営が見ていることを
十分でン千万円は流石に盛っている感があるけど、十分だろうと三十分だろうと一時間だろうと、家内制手工業の小さな事務所が一回の配信に何千万円もぶち込めるわけがない。
何が本物で、何が偽物がわからないことが不安だという気持ちは
だけどよく考えて欲しい。
遊びや興味本位でやっている個人クリエイターと違って、こちらは小さくとも会社をやっている。
リアルタイム合成を使ったヤラセなんて、バレた瞬間に社会からの信頼を全て失ってしまう。
そんなことに大金を突っ込むのは、どう考えてもコスパが悪すぎる。
ともあれ、『合成だ』『合成じゃない』の議論に出口などない。
誰も確たる証拠を見せることができないからだ。
だが、この話題も長くは続かなかった。
すぐに翔真の口から、そんな議論なんかどうでもよくなる発言が飛び出したからだ。
『合成とかよくわかんないっすけど、アイテムはほぼ100%でドロップするっすよ?』
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