蛇の腹の中にある石
『合成とかよくわかんないっすけど、アイテムはほぼ100%でドロップするっすよ?』
〇「ほぼ100%でドロップするっすよ」じゃないのよ
〇いくつか見たことがないアイテムもあるんだが
〇レアドロップ
〇レアなのか疑わしいくらい落ちてる
〇こんだけアイテムがドロップするなら、アイテム売るだけで生活できそう
『アイテム売ったら生活費の足しになるかもって、お店に売りに行ったことあるんすけど……、盗んだんじゃないかって疑われて、警察まで呼ばれそうになったんすよ。それ以来、行ってないっす』
〇警察www
〇業者でも無い限り、十個も二十個もいっぺんにドロップアイテムを持ち込むヤツいないもんな
〇それがレアドロップのアイテムだと尚更怪しい
〇お店の人は悪くないww
〇残当です
〇そこに落ちてるドロップアイテム、さっきの戦闘で使ってた石と似てない?
〇たしかに
ダンジョンの灰色の地面に、河原に落ちていそうな丸みを帯びた石がゴロゴロと落ちていた。
言われてみれば、それは確かに似ていた。
ついさっき、モンスタールームにいた有象無象のモンスターを瞬殺せしめた凶器と、色も形もほとんど同じように見えた。
『あ、これはレッサーペントのドロップアイテムの
〇それで増えていくのはお稲荷さまだけだから
〇レッサーペントの通常ドロップは蛇革だったよな
〇ちっちゃい紙切れみたいなやつね
〇レアドロップだと石なんだ
〇蛇腹石ってわりに蛇の腹にはあまり似てない
〇もしかしたら、蛇の腹の中にある石ってことなんじゃ
〇つまり【尿酸結石】
〇おっふ
「おっふ」
コメント欄を読みながら、帆乃夏も思わず変な声を出してしまった。
世の中には、気づかないでいた方が幸福であることがままある。
しかし一万人以上もの視聴者がいれば、気づかないでいいことにも気づいてしまうものだ。
尿酸結石。
それはヘビがおしっこと一緒に生成する固形物のことである。
水分不足、運動不足、温度不足などが原因で尿酸結石を総排泄腔に詰まらせてしまい、便秘になってしまうヘビは少なくない。
今、
『えっと、尿酸結石ってなんすか?』
〇いいんだ。忘れてくれ
〇そうと決まったわけでもないしな
〇おしっこ石の話はともかく、この異常なドロップ率のことをだな
〇もしかしてアイテムの効果とか?
〇キツネのお面もヤバい性能だったしありえる
〇たしかに
〇いやいやいや、ヤバさの桁が違うって
〇でも、お稲荷さまならワンチャンある
〇たしかに
翔真はナップサック――よく小学校の家庭科の授業で作ることになるアレだ――を左手に持つと、腰を屈めてドロップアイテムを拾っては無造作に突っ込んでいく。にょうさ……もとい、蛇腹石もすでに数十個ほど回収された。
あんな適当な仕舞い方では、取り出すときが大変だろうに。
『アイテムの効果ではないっすよ』
〇なぜ言い切れるのか
〇全部鑑定に出してるとか?
〇鑑定の値段もバカにならんぞ
〇アイテムひとつで五万円とかするよな
レッサーペントの『蛇革』に、スモウルフの『迷宮狼の毛皮』もナップサックへ。
先日、帆乃夏がジャガーゴイルに襲われた日に入手した、レアドロップの『迷宮狼の牙』も無造作にナップサックへとぶち込まれた。
『鑑定アイテムも持ってっから、拾ったアイテムは全部鑑定してんすよ』
〇マジかwww
〇鑑定アイテムってめっちゃレアなやつだろ
〇こんだけドロップ率が高ければ手に入れててもおかしくない
〇鑑定アイテムとか手に入ったら、俺は鑑定だけして暮らしていくね
『鑑定でお金稼ぐんすか? え、どうやって……』
〇ネットで募集したら食いつくヤツいるだろ
〇いや、どうだろうな。ネットは鑑定詐欺も多いから、かなり警戒されてるぞ
〇鑑定しますってダンジョン産アイテムを送らせて、そのまま音信不通になるやつな
ネット社会の闇、というやつだ。
アカウントなんていくらでも転生できるし、本人確認なんていくらでも誤魔化せるから、はじめから騙すつもりの人間を追うのは極めて困難らしい。
そもそも、どこの誰かもわからない相手に貴重なアイテムを預けてしまえる不用心さが、帆乃夏には全く
翔真はモルフォックスがドロップした『狐蝶の爪』をナップサックに詰めながら、コメント欄に広がるネット社会の闇に驚いた顔を見せた。
帆乃夏にとってはよくある話でも、機械音痴でインターネットも満足に使えない翔真にとっては珍しい話だったようだ。
『持ち逃げしちゃうんすか? 悪いヤツもいるもんすねえ。なんにせよ、俺はパソコンとかネットとか苦手なんでちょっと難しいっすわ』
〇お稲荷さまって若そうなのにパソコンもネットもダメなのwww
〇そういえばVivitterも事務所運営だったな
〇アレってそういう理由なの!?
〇今どきの若い子はみんなデジタルネイティブなんだと思ってた
〇本当にお稲荷さま(神様の方)なのかもしれない
オークッキングがドロップしたらしい大きなフライパンを翔真が拾い上げる。
通常ドロップは『豚王の肉(非食用)』のはずだから、あれもレアドロップに違いない。翔真の胴くらいの大きさはあるフライパンも、するするとナップサックに吸い込まれていった。
『実はスマホも、電話とカメラとメッセージアプリしか使い方がわかんなくって。あ、メッセージアプリは友達が入れてくれたんすけど』
〇ほとんどガラケーでカバーできる機能
〇スマホの無駄遣い
〇おじいちゃんじゃん
〇また話がズレたんだが。ドロップ率の話はどうなった?
〇どうなったって、お稲荷さまは運がイイんだねとしか
〇そうはならんやろ
〇わからないものはわからないんだから諦めろ
〇それはそうと、俺はドロップ率よりも気になってることがあるんだけど
〇奇遇だな。わいもそうだ
〇だよな、だよな。気になってたのが俺だけじゃなくて良かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます