第4話:村に到着、お母様の診察

それは別として、入口で見張り役をやっている人は・・・自警団のハウフォンスさんですね。

私と同時にハウフォンスさんの存在に気が付いたカルム君は、ハウフォンスさんに手を振りながら

駆け寄って行きました。

カルム君に気が付いたハウフォンスさんは、慌ててカルム君に駆け寄り

怪我はないか、具合は悪くないか、危険な目に合わなかったか、とカルム君に質問攻めを行います。

困惑しているカルム君に代わって、私が事情を説明することにしました。


「ハウフォンスさん、一旦落ち着いてください」


私の存在に気が付いたハウフォンスさんは、冷静さを取り戻して私の話を聞いてくれました。

私は、カルム君が私の所まで来た理由や、地獄(ヘル)との戦闘、カルム君のお母様の状況を

伝えました。

終始真面目に詳しい事情を聞いてくれたハウフォンスさんは、ある程度納得してくれたようですが・・・。

カルム君に対して、少しだけ注意をしていました。


「カルム、慌ててたのは分かるが次からは自警団の誰かに声を掛けろ」


ハウフォンスさんは続けて、村の皆が心配したんだからな、とカルム君に言いました。

カルム君も、自分の行動が迂闊だったと反省している様です。

カルム君への注意が終わると、続けて私に頭を下げながらお礼を言ってくれました。

私はハウフォンスさんに頭を上げるように言って、別にお礼を言われることをしたわけではないので

と一言だけいって別れました。

ハウフォンスさんは地獄(ヘル)の件を自警団の人達に伝えに、私たちは

カルム君の家へと向かって出発したのです。

村の中をしばらく歩くと、カルム君の家に到着しました。

家の扉を、カルム君は不安げに見つめます。

この扉を開けたら、最も恐れている光景が目に入るのではないか、扉を開けたら後戻りできない。

そういった重圧に気圧(けお)されてしまったのです。

カルム君は一度家族を失っています。

そのせいで、恐怖と不安が何倍にも増幅し・・・扉の取っ手に手を掛ける勇気が出ないようです。

何か優しい言葉の一つでも掛けてあげられたら良かったのですが、私はそういうことに疎く

私自身もこの状況にどう対応したらよいか分からないのです。

でも、言葉だけが人を救う訳ではありません。

私は不安そうにしているカルム君の手を取りました。

カルム君は最初、混乱している様でしたが・・・私がカルム君の手をそっと扉の取っ手まで

持っていくと、全てを察した様でした。

優しい言葉を掛けてあげることはできません。

でも、共に扉を引いてあげることなら出来ます。

気休め程度でしかないでしょうが、これが私に出来る精一杯の応援です。

私の張り詰めた顔を見たカルム君は、急に笑い出しました。

そして、混乱している私を見て・・・更に笑ったんです。

更には、たかが扉を開けるだけだよ、と私を馬鹿にしてくる始末。

私はカルム君のその一言に、ムッとしてしまい。


「人の優しさを何だと思ってるんですか」


と、年甲斐にもなく拗ねてしまいました。

・・・逆に、気を使わせてしまったかもしれませんね。

でも、多少の余裕が出来たのは良いことです。

私が色々と考えているうちに、いつの間にかカルム君が落ち着いていました。

それと同時に、扉に手を掛けて私の目を見つめてきました。

私が首を傾げていると、カルム君は空いている方の手で、私の手を取って扉に掛けさせました。

一緒に開いてほしい、そういうことだったんです。

良い子なんだか意地悪な子なんだか、いよいよ分からなくなってきました。

そんな私の疑問を他所に、カルム君はゆっくりと扉を引きました。


「カルム」


扉を引いた瞬間に聞こえてきた大きな声の正体は、レベロさんでした。

カルム君の顔をまじまじと観察したレベロさんは、安堵の溜息をつきました。

そして、隣に立っている私を見て、全てを察したレベロさんは、こちらです、と私をカルム君のお母様が

寝ている部屋へと案内してくれます。

私はカルム君のお母様の容体を見て確信しました。

これは確実に、凍結花であると・・・。

レベロさん曰く、一時間に三度のペースで上温薬を飲ませているのですが・・・全く効果がなく。

それどころか、どんどん顔色が悪くなっていくばかりでもう駄目かと思っていたところだったそうです。

・・・最悪の場合を想定しつつ、一応私は診察を行うことにしました。

結果は、凍結草でもなく他の病気でもないことが分かりました。

やはり、カルム君のお母様は凍結花に触れてしまった様です。

凍結花はいくら上温薬を飲ませても、進行段階を多少遅らせるだけで、治すには至りません。

今私が持っている薬、灼熱草の成分を濃く抽出した過剰上温薬を飲ませても効果がないのなら

現段階では手詰まり。

でも恐らく、過剰上温薬も殆ど効果を発揮しないでしょう。

これは、一度灼熱の大地に住んでいる旧友の下を訪れるしかないかも・・・。


「魔女様」


私が考えに耽っていると、背中の方から不安そうな聞こえてきました。

後ろを振り返ると、カルム君と、カルム君に抱き着いているシエルちゃんがいました。

二人とも不安気な顔で私のことを見ています。

「大丈夫です。絶対にお母様を治してみせますから」

と言えたら良かったのですが・・・。

治る可能性が低いのに、軽々とそのようなことを言ってはいけません。

だって・・・希望を持たせるような嘘は、後々その人を傷つけることになるから。

でも、期待を裏切るつもりはないという意思表示なら、やっても大丈夫なはず。

私はカルム君とシエルちゃんの手を取って、真剣な眼差しで約束しました。


「四大魔女が一人、第8代目氷雪魔女ラティ・エルファナ・ラートンの名に懸けて

 全力で貴方達のお母様の治療に当たります」


私がそう言うと、カルム君とシエルちゃんはほっとした表情を見せてくれました。

絶対に・・・絶対にこの二人を悲しませるようなことをしてはいけませんね。

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