第3話:戦闘終了、魔法について
これは、とある行商人から聞いた話である。
北方にある国、アルテントの最北の町カルナート、その町から更に北に行った森にある村の更に奥
そこに彼女は暮らしているらしい。
氷雪の魔女、不老長寿の美しい魔女。
白銀の雪の如き透き通った美しい肌、全てを凍りつかせ時を止めてしまいそうな程蒼く美しい髪。
高位の魔女のみが纏うことを許される青みがかった白銀の衣に、深淵の如き黒の尖り帽子を被っている。
氷雪の魔女は、助けを求める者に救いを与え・・・共に苦を背負ってくれる。
不治の病をも直す万能の薬を作り、自らの下に救いを求める者を必ず救う。
白銀世界に住まう女神・・・白銀の女神である。
「カルム君、此処から動かないでくださいね」
私は荷物をカルム君に預け、そう言ってからすぐに地獄(ヘル)の前に飛び出しました。
ヴァァァァァと、既に人間ではない者の咆哮が森中に響き渡ります。
やってしまいましたね・・・この咆哮には、生者の生命力を一時的に弱らせる効果があります。
私の様な、魔女や魔法使い、魔術師は肉体や精神に対する負荷への耐性がある程度ありますが
魔法や魔術に精通していない者は、そう言った耐性を持っている者が少ないですからね・・・。
この距離では村に被害が出ることはないでしょうが、カルム君のことを考慮しなかったのは
私の失敗(ミス)です。
出来る限り素早く戦闘を済まさないと、カルム君の人体に大きな影響を及ぼしていしまうかも
しれない。
不死者には熱が、生者には冷気が有効です。
同時に魔法を行使するのは不得意なのですが・・・。
「火炎の万象を司る女神よ、その御業を我に与えたまえ・・・女神(ゴッデス)の火炎舞(フレイムダンス)」
『氷水の万象を司る女神よ、その御業を我に与えたまえ・・・女神(ゴッデス)の氷息吹(アイシーブレス)』
魔言と魂言で、私は同時に真反対の事象を起こし地獄(ヘル)に攻撃します。
上半身には、女神(ゴッデス)の氷息吹(アイシーブレス)・・・霧の様な氷の息吹が地獄(ヘル)を襲い、下半身は女神(ゴッデス)の火炎舞(フレイムダンス)が腐敗した部分を焼き尽くそうと
炎が巻き上がります。
無論、最上級の不死者(アンデット)がこの程度で滅びるわけがありません。
でも、上半身の生ける者の肉体は・・・凍りつき、再生には時間を要するでしょう。
下半身の死者の腐敗肉も・・・女神(ゴッデス)の火炎舞(フレイムダンス)を受け、その多くが
焼けてしまい、自分の体を支えることするままならない様です。
滅びはしませんでしたが、もう戦える状態ではありませんね。
上半身が凍りつき、魔言で魔法の行使が出来なくなった今・・・脅威は何一つありません。
その巨大な肉体ももう動かせませんしね。
さてと・・・ここから、あまり子供に見せられるようなことをしないので、カルム君には目と耳を
塞いでもらいましょう。
「カルム君、少しの間耳と目を塞いでもらえますか」
私がそうお願いすると、カルム君は、はいと返事をしてくれました。
本当に素直でいい子ですね・・・。
それはさて置き、今から私がすることは『採取』です。
生者の部分と死者の部分、両方から少しずつサンプルを回収するのです。
死者を冒涜している様で、この行為を好まない魔女も大勢いるのですが・・・私は、仕方のないことだと
割り切っています。
不死者(アンデット)の最上位個体の地獄(ヘル)は、中々出現する個体ではありません。
故に、発生条件や有効な対処法などが一切不明なままなのです。
確かに、死者の肉体を部位ごとに削ぎ、持ち帰ります。
これは冒涜に値するかもしれません・・・が、誰かがしなければならないことだとも思っています。
結局、有効な対処法を見つけられなかったり、発生条件を特定できなければ、この惨事は永遠に
繰り返されるでしょうから。
それを止めるためにも、一時的に冒涜を冒(おか)してでも採取と研究は行うべきだと私は思っています。
まあ、冒涜は冒涜なので地獄(ヘル)に対しての研究には、私は肯定も否定もしません。
それはさて置き、申し訳ないことをしたのは事実。
せめてもの償いにしっかりと葬らせていただきます。
『大樹の万象を司る女神よ、その御業を我に与えたまえ・・・女神(ゴッデス)の抱擁(クラースピン)
大地の万象を司る女神よ、その御業を我に与えたまえ・・・世界(ワールド)へ還元(リダクション)』
女神(ゴッデス)の抱擁(クラースピン)では、癒しの効果のある樹木に抱擁され一時的な安らぎを与え
死、不死者からすれば消滅の苦しみを和らげることが出来ます。
世界(ワールド)へ還元(リダクション)は、その言葉通り世界へその肉体を還元します。
これは完全な消滅を意味するのではなく、万象の女神の御許(みもと)へ還ることを意味します。
不死と言う呪縛から解き放たれ、新たな肉体を構成することも可能になります。
私は、砂の様にサラサラと溶けてなくなった地獄(ヘル)のサンプルを、敬意を払いながら回収した後
カルム君の下へ戻りました。
そこそこ長い間、私は地獄(ヘル)と戦っていましたから・・・。
何事もないといいのですが・・・。
「カルム君、大丈夫ですか」
カルム君が隠れている木の近くまで駆け寄って、私はそう問いかけました。
すると・・・小刻みに震えているカルム君が、木の影からゆっくりと出てきました。
不味いですね・・・。
きっと、寒さにやられたのでしょう。
地獄(ヘル)の咆哮の影響を受けて生命力が低下・・・雪兎の煮込みに入れた薬の効果も薄れてきて
生者の弱点である冷気にやられてしまったのでしょう。
それは兎も角、早くカルム君の体を温めないといけませんね。
そんなことを考えていると、カルム君が急に大きな声を出しながら、キラキラとした目を私に向けて
きました。
「す・・・凄い」
続けて、魔法って本当に凄いんだね、と私に言ってきました。
どうやら、一部始終を見られていたようですね・・・。
でも、カルム君の笑顔が見られて一安心です。
昨晩からずっと、お母様のことを心配してか、暗い顔をしていましたからね。
そう、カルム君のお母様を救わねばいけませんね。
急いでカルム君の家に向かいましょう。
私は地獄(ヘル)のサンプルを、鞄(カバン)の中に仕舞って目をキラキラと輝かせている
カルム君の手を取って、歩き出しました。
それにしても、地獄(ヘル)の咆哮の影響を受けても肉体の自己防衛能力が低下しないとは・・・
カルム君は、魔法使いか魔術師の才能があるのかもしれませんね。
そんなことを考えながら暫く歩いていると、不意にカルム君から私に質問をしてきました。
「魔女様、魔女の皆さんのこととか、魔法について詳しく教えてはもらえないでしょうか」
まあ、何となくはその様な質問をされる予想はしていましたが・・・。
子供に聞かせるにしては、あまりにも面白みがない話なのですが・・・・
こんなにキラキラとした目でせがまれては仕方がありませんね。
私はカルム君に、いいですよ、と答えて魔法についての基礎知識を話すことにしました。
『魔法には、大きく分けて四つの属性があります。水、火、土、木の四つです。
その中で更に詳しく属性を分けるのですが・・・これは難しい話になるので、魔法の階級について
だけお話しますね。
魔法の第一階級に、基本の水、火、土、木がきます。
そして、第二階級に、中位の氷、炎、地、樹がきます。基本を全て修めた者が進む段階です。
ここまで来れば一人前と言えます。
そして、最後に来るのが第三階級・・・四大魔女とその弟子の領域です。
氷雪、火炎、大地、大樹の四つの上位属性を扱えます。
何百年と生きている魔女だけが使える魔法ですね・・・。』
私の長い説明を淡々と聞いているカルム君・・・やはり、子供には面白みに欠けるお話でしたか。
私がそう思っていると、カルム君は続けて二つ目の質問を私に問いかけてきました。
「魔女様、さっき二つの魔法を同時に使ってたけど・・・あれは」
ああ、あれのことですね。
何と説明すれば伝わるでしょうか・・・。
とりあえず、出来るだけ簡単に説明してみましょうか・・・。
『それは、魔言と魂言を使ったのですよ。
魔言は、万象の女神様からの恩寵・・・魔力という新たな言葉で・・・・精霊、とでも言うのでしょうか
兎に角、世の中の出来事を操る神の使いの様な、精霊の様な存在に祈り、対話し、お願いする
祈りだけに特化した言葉です。
魂言は、人々が自ら生み出した万象の女神様への祈りの言葉です。
魂という、人間の中で最も女神様の存在と性質的に近い部分から、女神様へ祈り、対話し、お願いを
する、より魔法の本質に近い祈りの言葉です。』
私の説明を聞いたカルム君は、首を傾(かし)げていました。
まあ、仕方がないですね。
魔法、魔術の道を行く者は、それを体感し第六感で理解します。
ですが、第六感を鍛えていな一般人には、中々理解し難いことですからね・・・。
そして私は、カルム君から来る質問の大波に答えながら数時間、森の中を歩き続けて
やっとネース村に到着しました。
人口100人程度の普通の大きさの村です。
この地域にしか生えていない珍しい植物を採取して、月に一度来る行商人と物々交換して
暮らしている人たちが殆どです。
勿論、村の中には宿屋や娯楽施設、肉屋さんにこの地域でしか取れない野菜を販売している
八百屋さんもあります。
まあ、観光業は一切栄えていないんですけどね。
基本的にこの地に来る人は、私に用事があるか、この土地の用事があるかの二択です。
この土地に用事がある人たちは、基本的に学者や魔術師、魔女の様な人ですが・・・。
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