第5話:凍結花について

診察が終わった後、私はカルム君とシエルちゃんと一旦分かれて、情報整理をすることにしました。

私は飛行魔法を使って、とりあえず自宅に帰ります。

暫くはレベロさんがカルム君達の面倒を見てくださるとのことで、私はお母様の治療に集中できます。

とりあえずは、お師匠様の残してくれた凍結花の資料を読んで、解決策を確認。

恐らくヒントは灼熱の大地にあると思われますが・・・何せ、凍結花関連のことは私も初めてで、分からないことだらけですから。

それにしても、凍結花の資料は本当に分厚いですね。

まあ・・・ある意味、四大魔女の英知の結晶とも言える資料ですからね。

四大魔女は珍しい植物が見つかるたびに、集まっては植物について調べ尽くすのです。

ついでに、この凍結花の資料は、3代目、5代目、7代目の3代分の厚み。

色んな場所が修正されていたり、無理やり追加の情報が書かれていたりと、少し読みづらいですが

その分、詳細な情報が載っています。

私はこれを、1週間程で読み終えました。

本来なら1ヵ月くらい掛かるのですが、私の趣味は読書で、何百年と本を読んでいる内に速読ができる

様になっていました。

ゆっくりと楽しみながら読みたい時は速読はしませんが、今は時間がないので。

でも、速読でもちゃんと読んだ内容は覚えてるんですよ。

それはいいとして、やはり凍結花によって引き起こされる症状は、灼熱の大地にある植物によって治せる

そうです。

でも、灼熱の大地に極稀に生息している『蒼炎花』を使用しなければなりません。

本当に、この世界の植物は複雑すぎるんです。

まあ、灼熱の大地には私の旧友の一人・・・第8代目火炎魔女シリエスタ・シエル・カティファネーラが

住んでいますし、彼女を頼ってみましょう。

ですが、私の家にある文献では『蒼炎花』は凍結花と同等程度の希少価値で、本当に稀にしか見かけない植物だそう。

1代目と4代目、6代目の四大魔女様達が調べてまとめた資料しかありませんでしたし。

『蒼炎花』があることに期待するより、凍結花について研究し、別に道を探した方が建設的かもしれません。

私の家には、3代にも渡って積み重ねられた凍結花の資料もあるわけですし、良い考えだとも思います。

でも、あまり時間を掛けられないということもあります。

・・・シリエスタなら、事情を説明した手紙を出せば恐らく手伝ってくれるでしょう。

ついでに、大地の魔女と大樹の魔女に助言を願ってみましょう。

そして、彼女らからの返事が来るまで、私は凍結花について研究を行うとしましょう。

と言う訳で、最初にしないといけないことは、凍結花の採取ですね。

資料によると、素手で触れなければただの綺麗な花、と書かれていますが・・・流石に通常の手袋で

触るのも怖いですし、猛毒を持っている魔物のサンプルを採取する時の装備を持っていきましょう。

ついでに、上温薬の追加をレベロさんに渡しておきたいですし、今日は色々と準備を済ませて

明日から本格的に動き出すとしましょう。


「はぁ、あの暑い地下室はあまり好きではないのですが」


と言う、私の独り言を聞く人間はもうこの家にはいません。


ああ、眠いです。

やはり、一人で多くのことをするとなると、時間がいくらあっても足りませんね。

昨夜、私は採取道具の準備と強力な上温薬を作っていたのですが、気が付いたら朝になっていました。

徹夜は平気なのですが・・・暑い場所で長時間作業したことが、主に眠い理由ですね。

私の様に氷雪の魔法に適正がある者は、対になっている火炎属性が苦手になってしまいます。

それに、適性が高ければ高いほど、対になっている属性が弱点となっていきます。

まあ、訓練を行えば多少は改善されるのですが、完全に克服できた例は今のところありません。

今度、作業着の内側に冷却機能を付ける研究を行ってもいいかもしれませんね。

他の四大魔女に、能力の無駄遣いと怒られそうですが。

それはいいとして、また汗だくの体で寝るの嫌ですし・・・お風呂に入るとしましょう。

私の家には、お風呂があります。

本来ならば、王族や大公爵の様な方しか入れないような豪華なお風呂です。

流石に、内装や大きさは負けますが、設備だけなら王族級です。

なんせ、魔道具を使っていますから。

この世界では、魔道具は超希少品です。

まず、最上位級の魔物、例として龍や太古狼、魔大樹の様に魔力を大量に保有している魔物の

魔力蓄積部という、その魔物の魔力の源や、もしくは大量の魔力を有している器官、

龍なら逆鱗、太古狼なら二本の立派な牙、魔大樹なら根、と言った部分しか魔道具の素材にはなりません。

使い捨ての魔導具なら、多少でも魔力を保有していれば可能ですが、コストを考えると現実的ではありませんね。

それに、魔導具には欠かせない 魔法陣 もかなり高度な技術が必要です。

だから、歴代の四大魔女は皆、魔法陣学も習得しています。

魔法陣の構築は、魔法原理をある程度理解した上で、それを魔法文字に変換し、魔力回路を作り上げ

効率化させなければなりません。

そんな高度な技術が必要なので、魔導具職人は数が少ないのです。

私のお風呂には、龍の逆鱗と魔大樹の根が使われています。

屋根に積もった雪を龍の逆鱗で溶かし、適当な温度に調節する。

そして、魔大樹の根で造った浴槽は、何時間経っても湯が冷めることはありません。

それに・・・美肌効果もあります。

でも今は時間がありませんし、汗を流すために軽く体を洗うだけにしましょう。


私はお風呂から上がると、早速荷物を持ってネース村へ向かいました。

やはり、飛行魔法は便利ですね・・・天気が良くないと使えませんが。

数十分程すると、ネース村が見えてきたので、私は適当な所で地面に降りて、そこからは徒歩で向かいました。

村の中まで飛行魔法で飛んで行くことも出来ますが、一応村の門を勝手に通り抜けるのは規則違反なので

仕方ありませんね。


「魔女様、こんにちは、いい天気ですね」


私は門番さんに挨拶を返して、村の中へ入ります。

この村では、あまり午前中に人を見かけることはありません。

基本的に、この村の人の家計を支えている仕事が『採取』ですから。

前にも話した通り、こんな辺境の村では旅人も滅多に来ませんし、この一帯にしか生息しない植物や生物を

採取して、月に一度来る商人さんや、時々やってくる学者さんに売るくらいしか、職がないですからね。

でも、自給自足している家も少なくないのですよ。

この気候に適応した山菜や、食べられる動物も生息しているわけですし、別に何ら問題なく自給自足できます。

それはいいとして、丁度目的地に着きました。

カルム君一家は、現在レベロさんの家で暮らしてもらっています。

理由は幾つかあります。

まずは、レベロさんと私にも仕事があること。

レベロさんはこの村唯一の薬屋で、色々な薬を取り扱っています。

病気を治すものもそうですが、予防するものや、畑の肥料なども売っています。

なので、一日に何人かは絶対にレベロさんの下を訪れるのです。

私も、凍結花に触れてしまった人を治す方法を探さなければなりません。

ですが、カルム君のお母様の容態はいつ急変するかも分からない。

誰かが付き添っていなければならないのですが、カルム君達の家にいてはそれも不可能。

だから、カルム君一家は暫くレベロさんの家で過ごしてもらうことになりました。

まあ、今は関係ない話ですね。

私はレベロさんの家兼薬屋の扉を開け、中に入ります。


「いらっしゃ・・魔女様、こんにちは」


レベロさんは、作業の手を止めて私に挨拶をしてくれました。

私も、頭を下げながらレベロさんにこんにちはと、挨拶をします。

その後は一旦、カルム君のお母様の容態を確認させてもらうために、奥の部屋に案内してもらいました。

カルム君のお母様の容態は大きく変化はしていませんでしたが、それでも昨日より顔色が悪くなっていたり

呼吸が浅くなっていたりと、油断できない状態ではあります。

一刻も早く凍結花の採取に向かい、何か手がかりを得ないと・・・。

私はレベロさんに事情を説明し、上温薬を渡しました。


「確かに受け取りました・・・・魔女様、無理だけはなさらないでくださいな」


私はレベロさんの言葉に頷き、早速採取へ向かうことにしたのですが・・・。

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